表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/20

夫からの告白

 1#

「もう、女性を愛することは出来ない」


 夫婦のベッドの上で、ガウンを着て正座をした夫が私にそう言ってきた。


「だから、もうやめて欲しい……」


 頭から冷水を浴びたかのような、感覚に陥った。


「えっ、それってどういう……」


「子供は……、子供は諦めて欲しい」


 夫は深々と頭を下げて、そう言ってきた。


 筋肉質で大きな体を縮めている。ガウンからは美しい胸筋がみえている。


 髪は美しい金色で艶があり、耳にかかるくらいの長さが丁度よく、本当にかっこいい。 


「ディー、頭を上げて」


 夫のディートハルトは眉を八の字にして、とても苦しそうだった。


 ……そっか、ずっと苦しかったんだね。


 ふぅ……とわたしはため息を漏らした。


「わかったわ。それで、どうしようか……。離婚……する?」


 心臓が早鐘を打つ中、私はなるべく冷静を装ってそう言った。


「離婚は嫌なんだ…………。女性と結婚してなきゃいけないなら、アーシュがいい」


 そんな告白をしても、私の事をアーシュレイではなく愛称呼びをしてくれるのね。


 しかしこれは、褒められているのだろうか……?


「アーシュはほら……、あんまり女性を感じないというか……。君といるのは楽しいから……パートナーなら君がいいなって」


 これはキレて良い案件ではないだろうか……?


「ちょっと、さりげなく私の事けなしてない?」


「あははは……、その話し方とかだよ。普通の貴族女性はそんな話し方しないよ?」


 よく、この話題で笑える……。


 ディートハルトは私の冷たくなった手を両手で包み込んだ。その温かさに、少しほっとしてしまう。


「とにかく、離婚はしない……」


 離婚はしないけど、子供はいらないってことか……。


 私たちは結婚して二年、白い結婚を貫いている。


 正確には今日まで、全て私が振られ続けていたわけだ。


 まさかその落ちが『女性とそういう事が出来ません』だったとは……。


 彼をその気にさせるために、数々の色気のあるネグリジェや下着を着た事か……。


 その度に「寒そうだね、風邪ひくよ?」と厚手のガウンを着せられてきた。


 男性が興奮するような香水、時には媚薬まがいな物まで使ったが、全て空振りしてきた。


 私の髪は赤く、少しウエーブがかっていて、スタイルは良いと思う。


 結婚前は男性をたぶらかす悪女なんて言われた事もあった。


 しかし、ディートハルトには全く効果がなく自信もなくなっていった。


 私の二年間の努力はいったい……。


 それなら、初夜に言ってほしかった……。


「義両親にはなんて言えば……。子供を今か今かと楽しみにされているのに……」


 そう、私がこんなにも子作りを望んでいたのは、義両親…………特に義母からの圧力が凄まじいからだった。


 義母も悪い人ではないのだけれども、 なんせ気が強い人なのだ。


「うん……。養子も考えてる……」


 養子……。あの義母が養子をうけいれるだろうか……。


「それに弟の所にもう甥っ子が生まれたし、うちは子供いなくても問題ないかなって」


 ディートハルトは伯爵家の嫡男だ。まだ義父が家督だが、そのうち弟かディートハルトが継がなければならない。


 優先順位からいって、嫡男のディートハルトだろう。しかし、ディートハルトは王族騎士団でもうすぐ副団長に昇進する。


 だから、家督は弟に譲る気でいるのだろう。しかし、義母は貴族としての体面を何よりも重んじる人。


 正当な理由がない限り、それは認めてくれないであろう。


 そして貴族女性としては珍しく乳母任せにせず、授乳から全て自分の手で子育てをし、料理やお菓子作りまで完璧にこなす超人だった。


 そして、何よりも溺愛しているディートハルトの子供を楽しみにしている。


 義弟は私たちより、一年早く結婚し翌年長男を出産した。だから、二年経っても妊娠しない私たち……、主に私に問題があるのだろうと、妊娠に詳しい医師に定期的に通わされた。この日だ!という日に妊娠しやすい薬も服用してきた。


 そして、最近は不妊症を疑われている。実際不妊症かどうかわからない……、だって一度もしてないのだから。


 さすがにそのことを義母に打ち明ける気にはなれなかった。だから、余計辛かった。


 今日こそは逃がさないとばかりにディートハルトに迫ったら、まさかのカミングアウトをされた訳だ。


「ねぇ、ディーは男性が好きって事なの……?」


 ディートハルトは翡翠の美しい瞳を揺らし、うつむいてしまった。


「どうなんだろう……。俺も良くわからないんだけど、女性には全く心が動かなくて、むしろ嫌いで……。その……男性の方が好感が持てる人が多い気がする」


 まだ、自覚して間もない感じなのだろうか……。学生の頃は私にキスしてきたし、それ以上もしたいって言ってたし。


「好きな人がいるの?」


 ディートハルトはうつ向いていた顔を勢いよくあげて、前のめりになった。


「そんな人はいない!アーシュがいるのに!」


 いや、さっきそんな私にもう愛せないって言いましたよね。


 これはこれから、好きな人(男性)が出来る可能性が高いのかな……。


 私は顎に手をあてて、天井を見上げた。どうしたものか……。


 これは離婚してあげて、彼を自由にしてあげるのが一番なんだけど、家同士の付き合いもあるし、……何より私の立場が弱いのが問題だった。

 ディートハルトは伯爵家で、うちは貧乏男爵家だからだ。


 なんで結婚できたかというと、父親同士が学友だった為、昔から家族ぐるみで付き合いがあった。


 お酒の勢いで父親同士が勝手に婚約を交わしてしまったのだ。当時義母は相当怒ったと後からディートハルトに聞いた。


 そして結婚の時も、うちの実家を相当な額支援してもらい、実家を立て直すことができた。


 その恩義がある為、私からは離婚を切り出せない。


「はぁ~。とりあえず子供の事は私に任せてくれる?」


 私は頭をかきながら、ディートハルトにそう言った。


「任せるって?いい養子先を知っているの?母を説得できそう?」


「う……ん。とりあえずやるだけやってみる」


 いや、養子も説得も無理であろう。


 これは奥の手を使うしかない。


 あまりにもディートハルトが嫌がるので、私も他の方法がないか調べた事がある。それがこんな機会で役に立つとは……。


 そう……、それは公認の愛人を作ること。


 ディートハルトに似た容姿の男性に代理で父親になってもらうということだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ