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第六話 疫病神は死へ向かう

「今すぐ後ろに、三歩」

「はいっ!」


 ゲーム開始最初のトラップは天井に仕掛けられたボウガン。発射されるまで気がつかなかったのはそもそもその時点で”存在”していなかったからだ。一発目ということもあってか、ボウガンの発射されるまでが遅い。


 ラナイは後ろに避けた。避ける際の動作に無駄がなかったし、素早かった。意外と良いセンスをしていると玲奈は思うと同時にこの逸材を失うのは惜しいなと思った。


 人間というものはある程度の動きを見せた時点で相手に行動できる範囲やスピードを示している。それを今回見た感じ、玲奈的にはこの業界でも普通に中の上に居れる実力......、というかスペックはありそうだと感じた。玲奈はもう一度何故死にたいのかの理由と、デスゲームを続ける気はなかったの? と聞くことにした。


「避ける時の動作が綺麗、結構良いセンスを持ってるね。ラナイ、もう一度聞くけど......何故死にたいの? あと、”プレイヤー”として生きようとは思わなかったの?」


 そういえば生涯の中で借金は引き継がれなかったんだよね? と疑問に思った。社会から弾き出された者であったとしても、経緯が経緯なので今の国なら生活保護をしてくれるはずだ。


 整理してみると色々と頭に? が浮かんできてしまう......。玲奈は不思議に思った。


 その疑問にラナイは答えた。


「センスはあったとしても私はメンタルが弱いので......、一対一ならともかくゲームは大人数ですから怯んでしまうんです。何故死にたいのかという疑問に関しては、多分もうどうでもいいと思っているんだと思います」

「どうでもいい?」


 玲奈がまた疑問に思うとそれに連動するかのようにラナイは目を閉じて静かに話し始める。


「もうどうでもいいんです。あのシルクハットを被った男の人......ピエロ服の男の人に出会う一ヶ月前に実は仕事を探してみたんです、ですが何処へ行っても毎回「貴方の様な疫病神の子供に与える仕事は無い」と言われ職に就く事すら叶いませんでした。今の世の中働けなければ死、そして世も働き手不足と言われているのにこの仕打ち。疫病神なのは両親で”あった”人達で私じゃないッ! そう叫びたくなりました。これが理由です。私はもう生きる価値の無いただの”人形”です」

「酷いね」


 酷いとしか言いようがなかった。昔から人間は変わらないなとつくづく思う。犯罪者の子供だから、疫病神の子供だから、前科があるから......最後は少し違うかもしれないが全てそれは過去のことだ。〇〇だからというのは結局情報しか見ずに内面や今その人間がどういう覚悟でいるのか......それらを全て無視しているのだ。




 話を変えよう、世の中クズばかりだと言うだろう? 人によってそれはまちまちだ。良い人間に多く囲まれる人間は『悪い人間は居ても良い人だって居る!』という綺麗事を、とことん悪い人間ばかりに囲まれていれば『他人なんて信用したら駄目なんだ、どうせ裏切られる』となる。


 結局人間は生まれた時点で運命は定まっている。確かに努力や経験を積んだり、自分から動けば何か変わるかもしれない。だが、全員にそれができるとでも言うのか? と、善人ぶっている人間、もしくは善人に玲奈は問うてみたいと思った。


 問うたところでどうなるか? と言われればそれまでの話題だ、これは。だから正直な考えを言うのなら......。世の中クソだなという結論になる。


(死にたいとラナイが思ったならそれは止めるべきじゃないね。私は少し気に入ってしまって、ラナイを引き止めてしまっていたのかもしれない。ラナイにとっての納得のいく死......どうすればよいか少し分かった気がする。)


 あえて言葉には出さずに心の内に留めた。言ってしまえばそれはズルだろうと思ったからだ。勝利条件とされているのだから、答えを聞くのはルール違反というやつだろう。


 ルールの一部を開示せず、そのルールをいつの間にか破って失格というのは誰でもなってしまう失格パターン。いつもなら優しいルールとして失格は借金倍増で済むのだが、今回は異世界側のゲーム。どんなことが起こっても不思議ではない、故に気を抜いて聞くことのないように気をつけよう。


 話が長引いたがまだゲームは始まったばかりである。今回のトラップは人に反応して発射されるボウガン......と思っていたのか? と言わんばかりの異世界特有のギミックがそのトラップには仕込まれていた。


 まず玲奈がトラップに発射される段階まで気づけなかったのには理由がある。トラップ自体が作動するまでその場所に”存在”しなかったのだ。見えなかったとか、隠れていた、とか透明だったということはなく、本当に見えなかった。


 これが初めて玲奈が実感した異世界要素だった。魔法ではなければ不可能な存在自体を消す芸当、多分魔力とか物凄い消費するんだろうな〜なんて妄想をしていた。これがなければ忘れていたかもしれない、この世界が恐らく異世界であるということに。


 恐らくというのは断定ができていないからだ......とはいっても今の今まで起こったことを思い出せば流石に地球ではないし、異世界だろうとしか玲奈は思えなかった。


 トラップの起動範囲は約40m、走って駆け抜けた(玲奈の脚力前提)としても二発は食らう想定になる。トラップの発動方法に関しては玲奈は既に目星がついているが、ラナイに説明するより見せた方が早いだろうと感じ、実際に見せてみることにした。


 玲奈はポケットから0.3mmのサイコロを取り出した。玲奈が知る限りでは世界で最も小さいサイコロであったはずだ。ラナイはサイコロを目を丸くして見ていた。


「サイコロ......ですか? それにとても小さい。何に使うんでしょうか?」

「トラップがどうやって発動してるのかラナイに見せようと思って」


 玲奈は極小サイコロをトラップの範囲に向けて思いっきり叩きつけた。すると一秒後にボウガンが出現し、極小サイコロが叩きつけられた場所にボウガンの矢が突き刺さった。


「これは?」

「簡単に言うと重量の変化によって発動するトラップだね。デスゲームギャンブルのトラップは参加したことあるなら分かると思うけど、基本的に人と物に反応するセンサーと、物だけに反応するセンサーがある。今回はそのどちらにも属していない類のトラップだ」

「重さだけに反応ですか、それって突破することは不可能ではないんですか? 先程の様な小さいサイコロでも衝撃さえ加われば発動してしまう時点で、人間が通ったらすぐに発動しいてしまいます」

「フッ」


 玲奈は笑った。典型的な反応を示してくれたので嬉しかったのだ、決して馬鹿にしたのではない。常人なら考えない方法なので分からないのも当然、しかも馬鹿らしいとなれば分かるはずがないだろう。


「壁走り」

「えっ? 今なんと?」

「聞こえなかった? 壁走りだよ。壁走り」

「本気で言っているんですか? そんなのできるわけが」

「できるよ? 案外......ね」


 玲奈はフッ、と笑ったそのままの流れでずっと真顔だった顔が少し緩み笑顔? と言えるのかは分からないが、少しだけ表情が緩んだ。


(さてと、そろそろ見せる時が来たかな? 私がデスゲームギャンブルで最強と呼ばれた理由の一つが”これ”だからね。人間離れした脚力と跳躍力、これが理由の一つだ)


「じゃあ見てて」


 玲奈はラナイの場所から50m程離れてウォーミングアップを始める。


「じゃあ行くよッ!」


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