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第四話 納得のいく死ってなんだろう?

 玲奈は自動生成ダンジョンに入った瞬間に目の前が真っ暗になった。意識を失ったという意味ではなく、意識がある状態で暗くなったのだ。考えられる原因は自動生成ダンジョンの重さだろう。これが異世界のどのような技術でどんな魔法なのかも玲奈は知らないが、とりあえずテレビゲームに置き換えてみれば分かりやすい。


 自動生成ダンジョンはテレビゲーム規模のプログラムなら軽い容量で済む。ついでにステージ数の削減もできるので楽をするにはもってこいのシステムだ。だが今回の様に現実でそれを行うとしたらどうなるだろうか? テレビゲームの何倍か、いや数十倍? もの規模へ変化する。魔法だとしても負荷は大きいだろうと考えればこれはテレビゲームのローディングと考えれば納得がいく。


 予想は的中したのか1分後には暗転が解けて辺りの様子がはっきりと玲奈自身の目で見える様になった。玲奈のスタート地点となったのは後ろを振り返れば行き止まりで前を見ると何処までも道が続いている様な場所だった。それに加えて床を見ると赤と金色で染められたカーペット、壁にいくつも吊るされているろうそくの灯り。ただ、それ以外には特に何も無い所だった。


 玲奈はすぐに進もうかと考えたが今回ばかりは慎重にならざるを得ない。いつものゲームではマップが配られるので構造から考えて何処にトラップがあるのか、対人戦を行うならばここだという目星が付いたのだが今回はそうはいかない。


 対人戦に関しては心配する必要は無い。今回は納得のいく死を与えるだけで良いのだから。問題はトラップだ。通常用意されるステージというのはある程度歩いていれば予想することができる。だが、今回は自動生成ダンジョンなのでトラップの配置がとにかく予測しづらい。しづらいというだけで予測できないわけではないが。


 今までの経験が玲奈の身体には染み付いている。それらを活かせば難しくはない......。


(難しくはないけど、まあ単純に考える情報が増えるから面倒くさいよね。トラップが所見でキツイ様な物があると尚更キツイ。けど、一応最強のプレイヤーと呼ばれているからには本気でプレイしないとね。あと異世界には絶対に行きたいし)


 玲奈の脳内は今回のゲームの事よりも『デスゲームギャンブルファンタジーDie』の事で埋め尽くされていた。玲奈の頭の中が他の内容で埋め尽くされた時は最高にノッているサインなので心配はないということだ。


 玲奈は歩き出した。ひたすらに続いていそうな道を早めにかつ慎重に進んでいく。本当に何も無い殺風景な状況が続いて玲奈は頭がおかしくなりそうだった。


 歩き始めて10分が経った。特にこれといってイベントは無し。つまらないというのが現状のこのゲームに抱いた感想だった。改めて玲奈は考えた。玲奈は四人と猫又を殺す側だ、その殺す側の人間はトラップと同じなわけで......つまり玲奈の求めている事は誰かと接触するまで起こらないという事になる。


(冷静に思い返してみればそうだ。今日の私は興奮ばかりしていて悪い意味で馬鹿になっていた。今回の私のミッションはトラップを避けるでも、トラップを破壊するでもない。五人に納得のいく死を与える事だ)


 冷静になるのが随分遅かったと頭を抱えて、玲奈は自分の馬鹿さ加減を認識して恥ずかしくなった。それと同時にピエロ服の男が言っていたうろ覚えではあるが確か......と考えてしまう程、曖昧な記憶だったが玲奈はなんとか記憶から絞り出す。


(納得のいく死ってなんだろう?)


 そう、このセリフである。正確には『納得のできる死を与えて下さい』だが、玲奈はもう覚えていなかった。自分に必要な知識以外は捨てるタイプだったのでこういうことがよくある。


 納得のいく死という哲学的な問いに対して玲奈はいつも通り考えるフェーズに入る。こうなると区切りが着くまでは考えることを止めない。特にトラップも今のところ無さそうだったので立ち止まって考える。


 納得のいく死、これの正解としてあるのは老死だがこれはこのゲームでは違う。当たり前のことではあるが、人によって理想的な死というのは変わってくる。静かに死にたいという人間も居れば、五月蝿い場所で死にたいという人間も居るだろう。もしくは殺す時に使う道具だろうか? ナイフによる切りつけか? ぶっ刺しか? それともトラップか? 色々と玲奈は考えたが結論は出なかった。


 最終的に辿り着いた結論としては......。


(うん、その時々に考えよう。多分ピエロ服の男も、リアルタイムで相手の会話とかから考えろってことだよね。なんか、色々考えて時間の無駄だったかもしれない)


「そろそろ行こう」


 玲奈はこの場所に来てから初めて言葉を発した。ただの廊下だと言うのに何故か音が物凄く響いた。足音も進む度に大きくなってきていることに玲奈は今気付いた。


 パタッ、パタッ、パタッという足音が響く。玲奈は靴下なのでこういう音が鳴っていた。これがもしカーペット無しで素足ならペタッ、ペタッ......という音が鳴っていただろう。


 玲奈はまたしばらく無言で歩き続ける。そろそろゲーム開始から20分が経とうとしていた。今までのゲームならこの時点でもう死人が出ているし血の生臭い匂いや血の吹き出す音が響いていることだろう。


 だが、今回は何回も言うが自動生成ダンジョンという不確定要素がある。案外もうすぐ出会えるかもしれないし、まだ時間がかかるかもしれない。どちらなんだろう? と呑気な態度で思う玲奈だった。


 そう思った直後だった。パタッという足音ではなくコツッ、コツッ......という足音が聞こえてきたのだった。この音は恐らくハイヒールの音だ、そしてハイヒールを履いていた人物は一人しか居なかった。それは少し弱気な女性黒髪の『ラナイ』だ。


 こういう場ではスニーカーとかの歩きやすく走りやすい靴が定番なのだが。彼女は一人だけハイヒールだったので良く覚えていた。ツッコミをしなかったのはそういう人柄ではないというか、する必要を感じなかったからである。


 それでも今回は覚えていたことが無駄ではなかったのだから、今色々と考える方が時間の無駄というものだろうと玲奈は思うことにした。


 足音が近づいてくる。玲奈はラナイがこちらに来るまで一歩も動かずに待った。人違い、記憶違い、というのも想定して玲奈はズボンの中に隠しているナイフを取り出す。1年以上使って人を殺してきた相棒の様なナイフだった。名前も勿論ある、『フィリア』。ギリシア語で『心から愛する』を意味する。見た目はごく普通の鉄製のナイフだが、気に入っていた。


「あ、デスターさん。やっと会えた」

「ラナイ」


 人違いでも記憶違いでも無かった様だ。何故か分からないが、玲奈は安心していた。相変わらず顔の表情はクールを貫いている。興奮する時は別だが。


「随分早かったね、トラップは無かったの?」


 本当は遅いと言いたかったが失礼だろう。忘れそうになっていたが一応相手は歳上なのだから。


「そうですね、なんか拍子抜けです。それより少しお話しませんか? 恐らくこれが、私にとって最後の会話になりますから」


 (トラップがないか......そんなわけないと思うんだけどなあ。今がそういう時間とか? まあ「もし」を想定しておいた方が良いのは間違いない。ゲームは終盤激化する、それは例えどんなゲームであろうとそうだ。今回も例外ではない......と私は信じている。刺激は欲しい)


 こう考えるしか今の玲奈にはできなかった。ただ言えるのは油断するな、というセリフだけだ。玲奈の尊敬するプレイヤーもそう言っていたのだから。


 玲奈は返事をする。


「それは良いけど、口調、そんなだっけ? もっとおどおどしていた気がしたんだけど」


 彼女は確かに自己紹介の時はおどおどしていて『は、初めまして』という感じだった、と思い返した。


「私、大人数だと緊張してしまうので。......、よければなんですが。私の生涯、聞いていただけませんか? もう話せるのはあなただけなので」


 透き通った声、美少女の声でそう言われたら断る理由もあるまいと玲奈は思った......というのは冗談だ。本当は、それが恐らく納得のいく死に繋がると考えたからだ。恐らく、恐らく......、しばらく推測や憶測が多くなりそうなので『恐らく』が多用されそうだと思った。


 玲奈は短めに答える。


「良いよ」

「ありがとうございます、では歩きながらお話しましょう。私はそれが好きなので」


 ラナイは自分の生涯を語りだす。


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