第三十九話 回答と解答
「んっ……、ここは? 明るい……。私、死んだはずじゃ……どれくらい寝てたんだろう」
ここはどこだろう、私は確かに自分の能力を使って死んだはずなのに。辺りを見回す限りここはもう別の場所、それにまるで空に浮いてるみたい。ふとそう思って下を見てみたら下には海が広がっていた……私本当に空に浮いて寝てたんだ。
「取り敢えず辺りを散策してみようかな」
じっとしていても意味はないだろうし、取り敢えず誰かに会えることを願って歩き続けるしかないよね。辺りを見回せば雲が近くにあって、下を見れば広大な海が広がっている、上を向けばそこには宇宙が見える……本当にここは何処なんだろう。考えられる範囲内では恐らく、天界? 死んだ後で空だから天国なのかな? 私が来れる場所とは思えないけど……。
「ラナイ、ヴァーナ……アリウル。私どうなるのかな? 答えてよ」
三人はもういない、会えないのに……なんでだろう、とても悲しくなる。私は機械と人間のハーフとして生まれて、人間からは少しズレていた存在だったのに、今は本物の人間みたいに感情が溢れている。今だって涙が流れそうで、悲しくて、辛くて……苦しい。
本当にもう会えないのかな、もう一度会いたい。今の私はそれだけを考えている、一緒にいた時間は少なかった、本当に。でも、私はあの三人が好きだった、息が合うというか……なんというか。他人から見れば薄い関係にも見えるかもしれない、だけど、それでも! 私は好きだ、大好きだ。
死という物が今は怖い、恐ろしい、恐怖を身体と心の全身で感じるようになってる。今も自分という存在がいつ消えるのかビクビクしている、これが感情なんだね。今までは借りていたような感覚も、死んだ今になって何故かそんな感覚が溢れてきた。
「怖い、痛い、苦しい、泣きたい……そんな感情が今私の中を巡っている。真実の世界が見えたようで嬉しいという感情と同時に、足が震える、身体が震える、心が震える、脳が震える……。変わってしまった私自身が感謝と絶望の狭間にいる……そんな感じがする、昔の私が忘れないで? 私にも教えて? と叫んでいるような声が聞こえる。何言ってるんだろう、私」
私はそんなことを言いながら、遂に涙を流してしまった。それでも私はただ前に歩き続ける、誰かに会うことができるまで。
「デスターさん?」
「えっ? ラナイ!」
ラナイの声が聞こえた、私は手を伸ばし振り返った。そこには光の粒子でできたラナイが存在した、心が「そんな偽物に手を伸ばしちゃ駄目、悲しさが増すだけ」と語りかけてきた。でも私はそんなことお構い無しにラナイの肩に手を伸ばした。
「ラナイ! ラナイッ!」
私はただそう名前を呼んだ。心の中の私が言った通りになるとしても、私はそうしたかった。
「あぁ……ッ! っぁ、アァァァッ!」
結果は分かっていた、分かっていたのに……人間とは愚かな者なんだと思った。もう、私は人間だから完全に自虐と言われれば否定はできない。けど、こうしなくていられなかった。ただそれだけだった。
私の止まったはずの涙はまた流れ出した、私は歩くことを再開する。辛くても前に進み続けないと明日は来ない、私はもう人間なんだ。身体はそうじゃなくても。死んでいるから関係ないかもしれなくても……。
今度はヴァーナが私のことをじっと見つめていた、しかし今度はグレーの翼が生えているヴァーナの少し乱れた映像のような全身がそこには存在した。
私は唇を噛み、悔しそうな顔をしてその映像を通り抜けた。そしてその時私の脳内にヴァーナの声が響いてきた……「デスターさん、私のことは心配しないで下さい。私は無事です、あなたは幸せになって下さい」そう言う声が聞こえた。
「私が幸せに? 駄目だよ、そんなの。ヴァーナはまだ戦ってる、ラナイはもういない、アリウルも。私だけ呑気に暮らしている? そんなの、自分が許せないよ……」
一人だけ呑気に暮らして幸せに……、ヴァーナには悪いけどそんなことは許せない。自分だけが平和でいるのは、本当に許せないんだよ。
まだ誰も現れない、実体を持つ者は未だ現れなかった……。
「そう? なら、完全に死んでみる?」
「誰ッ!」
私は警戒心をその相手に示した。けど、その人を見たら身体の力が抜けちゃって唖然とするしかできなかったよ。
その姿は私にそっくりで、違う点をあげるなら身長と大人っぽい、そして翼が生えていること。訂正しなきゃいけないかもしれない、私とそっくりってレベルじゃない。私と同じ顔、もしかしてこの人は……。
「もう一人の私? 本物の南玲奈?」
「正解! 良く分かったね? そんなに平和でいたくないなら違う世界に飛ばしちゃおうかな」
「どういうこと……。何も分からない、さっきと言ってることが違う! 一から説明して!」
私は初めて純粋な怒りという感情を行使して相手に激怒したかもしれない、怒るってこういう感情なんだね……。ハァ……、一体何がどうなっているんだろう。
「説明ねー。面倒くさい、けどようやく私の計画が成功しそうだし話そうか。まず私は人間じゃなくて女神なんだよ?」
「え?」
「そしてアリウルの母でしたー! それに旦那は住良木! アリウルとは実は姉妹でしたってね」
もう一人の私は凄い楽しそうに一度に大量の情報を流し込んでくる……。何笑ってるの? 私とアリウルが姉妹? 住良木がもう一人の私の旦那? ただ血を提供しただけじゃなかったの? それにこのフザケている女が私の母?
「どう? 驚いた? 驚いたよね?」
信じられない……。私はしばらく呆然としていることしかできないかもしれない。
「まだまだあるから聞いててね」