第三十七話 決着
「ああ、やっぱヤメタァ!。戦闘に集中するかァ!」
「そうなるんですね、予想はしていましたけど」
「オラァ! 掛かって来いよ!」
ラナイはスタノアのお望み通り連続斬りをお見舞いする。二刀流の手数はやはり馬鹿にならないな……と思ったラナイだったが同時に少し違和感を感じていた。
(二刀流自体に違和感は無し、能力の伝達も良い感じです。なのに、何でしょうかこの違和感は、剣自体に何か異常が? いいえ、何も変化は無いはずです……見た目には特に影響も見られな……)
「なッ! まさか」
「そのまさかだと言ったらどうする?」
スタノアは余裕の表情になり、対象的にラナイは顔面蒼白になった。これは実力がどうこうとかそういう問題ではなかったのだ。
「硬化魔法を私の剣に……」
(彼は何故か武器を使っていなかった、普通硬化魔法となれば強力な剣に使うことがこの世界のセオリーのはず。それは何故かと言えば、硬化魔法は本来自分が持っている、もしくは自分自身にしか使えないというのが普通なはず。ですが、この男の能力は)
スタノアは自分の右手を前に突き出し宣言した。
「ラナイ、この勝負、お前の負けだ。俺の真の能力は「全硬化」、硬化の欠点を全て克服した俺専用の能力だ……、お前の剣には硬化魔法を局所的にかけてある。その重く、綻びそうな、歪な剣では俺の心臓を貫くことはできまい……」
ラナイは悔しそうな表情をしながら土の地面に押さえつけられた、スタノアの目には赤い殺気が宿っていた。
ラナイは抵抗する気もなくただ押さえつけられているだけ……。それに対しスタノアは……。
「もっと我を楽しませてくれると思っていたのだがな? 人間よ。お前に選択肢をやろう、命惜しくばこの場所から去るか、命惜しくなくば我に殺されるか……どちらが良い?」
そうラナイに問うスタノアだった。その顔にはどこか呆れも含まれていただろう、ラナイの弱さに失望したのか、はたまた……いやこれはないだろう。
ラナイは「さっさとトドメをさしてください、苦しみたくはありません」と言う、するとスタノアは「そうか、残念だな。死ぬが良い」グサッ! と、ラナイの心臓にスタノアの拳による槍が突き刺さった。
大量の血飛沫が飛び散りスタノアはその場を去ろうとした……しかしその瞬間スタノアの想定外のことが起きたのだった。
「ん?」
スタノアがその場から立ち去ろうとした瞬間ラナイの身体が動く音がしたのだ。確かにスタノアはラナイの心臓を貫いた、それは事実だった……しかし。
「待って下さい、戦いはまだ終わっていませんッ!」
シュッ! と音を置き去りにしてラナイはワープし、自分の剣でスタノアの心臓を貫いた。
「ガハッ! 何故、確かに俺はお前の胸を貫いたはずッ!」
「見抜けなかったようですね、私の心臓は左ではなく右にあるということを!」
「ナァ……ニィッ! ……カハッ! 俺もここまでカァ……」
ラナイは事前にスタノアと戦うことをアリウルから知らされていた。その時に言われたのだ「今のあなたは一度生き返った都合で心臓の位置が逆になっている、だからわざとやられて、相手を油断させた所を叩いて」と。
心臓が逆になっているという普通なら信じられないことだったが手を胸に当ててみると確かに心臓は右に寄っていた。
ラナイはスタノアの胸に突き刺した剣を引き抜くと「さようなら」と言い残しデスター達が戦っている場所へ赴くのだった。
デスターとメモリアの戦いは未だ続いていた。お互いが勝利を求める戦いというよりもただ楽しさを求める戦いへとシフトしていった結果だった。
デスターは徐々にナイフを振る速度を上げていく、『BoostMode、HAZARD起動』という機会音声がなると同時に人間離れしたスピードへと上昇していく……。
その動きに呼応するようにメモリアも「面白い、けどそろそろ決着の時が来てしまったみたいだね、僕の能力使っても良いかな? 約束を破ることにはなっちゃうけど」と言った、剣でナイフの高速斬撃を防いでいる最中にそこまで流暢に喋れるとは、と驚いたが「良いよ、私もその時が来るまでは付き合うって言った以上……仕方がない」と答える。
「じゃあ使うね……、加速!」
メモリアの能力はシンプルだった、出会った時の氷の斬撃は魔具による物だったようだ。加速という一見段階的出力上昇と同じに見えるのだがそれは違う。加速は出力調整が効かないので扱いが難しい、簡単に例えるならAT車でアクセルを踏んでいくと勝手にギアが上がっていくということだ。
さらに簡単に言うと事故りやすい能力、両刃の剣というわけだ。デスターが発動したBoostMode・HAZARDも扱いを謝ればオーバーヒートしかねない機能だった。
両者とも最後の一振りに賭けるという体勢を整えている……現在二人は距離を取っている。そして両者と最終攻撃の為にパワーを貯めている、散々打ち合って攻撃を読んできた対戦の末路がただの力比べとは思わなかった。
ラナイは能力も使って出血が酷いというのに国へは戻らずデスターのいる場所へ来たのだがそうして良かったと思えた。何故なら「ああ、デスターさん。私は嬉しいです、死の間際にあなたの輝いている姿を見ることができて……」と言い倒れる瞬間に……。
「勝った」
そう言い残しラナイは倒れた。デスターは気配に気づき「ッ! 」と反応を示したが、今は決着をつけることが優先だと脳内で処理された。
「終わりだね、メモリア」
「ああ、ありがとう。僕の負けだよ」
攻撃が両者から放たれる直前に両者同士の心の中で勝敗は決した、メモリアは能力をキャンセルし瞼を閉じて攻撃を受け入れる……。
『FINAL・ATTACK! READY?』
「YES」
デスターがそう言うとナイフを構えていたデスターはサッ! と駆け出し一瞬でメモリアに近づき、ナイフを首に目掛けて振った、ナイフから死刑宣言音声が流れる……『DEATH・END』貯めていたパワーが全て放出されメモリアの首は吹き飛んだ。そしてメモリアの胴体は地面に倒れる……、デスターのナイフはエンジンブローを起こし『警告、今すぐこのナイフを投げて下さい』と流れたのでデスターはナイフを上空に投げた。
そして爆発した……。
爆発によって飛び散った炎によって森の木が燃え始めた、ラナイに近寄るデスター……息を確認する、するとまだ息はあった。
「どうしようかな」
そう思っていると空中に何やら気配があった、上空へ目を向けてみるとそこにはアリウルがいた。
「アリウル、何してたの?」
「今は、私の言うことを聞いて? 良い? これから話すことを良く聞いてね……」
アリウルは悲しそうにデスターに目を向けてそう言った……。そして少しいつもと違う雰囲気を感じている。これは意外だな、と。