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第三話 納得のいく死を与える

 会場に居た四人は一人ずつ自己紹介をしていく。どのみち死ぬからと黒髪の女性が言った事が原因で短めの自己紹介となった。玲奈としては殺してしまうかもしれない人間の顔と詳細(言える範囲)は言ってほしかったのだが、玲奈は譲歩した。


 まずは一人目の緑髪の男「初めまして、メトアです」。そして二人目の青髪「こんにちは。えっと......フロンと言います」。一人目の女、ピンクの髪「私はヴァーナです」。四人目の黒髪「わ、私は、ラナイ、と、言います」。簡単な自己紹介が終わった。


 全員玲奈より年上だ、猫又を含めて。故に敬語というのは違和感が凄いなと玲奈は思った。この業界に倫理観は無いに等しいが、根付いているのか年下年上という階級は変わらない。先輩プレイヤーでも年下なら呼び捨てにされるし、さん付けは年齢が上の場合だけだ。


 正直このシステムは実力制にした方が楽だと玲奈は思っている。単純に分かり易いというのもそうだが、実力序列にした方が絶対に良いと思っている。


(そろそろこの界隈も年功序列を変えた方が良いと思うんだけどね)


 心の中でそう言った。各々がどういう感情で敬語を向けているのかと玲奈は気になったが心の奥に留める。玲奈は聞きたい事を一つに絞り四人に対して質問を投げかける。


「一つだけ聞くね? 君達はなんで死にたいの? 猫又から話は聞いたけれど……デスゲームゲーム全般のプレイヤーが死に対して恐怖を持っているとは思えないから」


 猫又から説明されたが納得できない玲奈であった。玲奈は自分の感覚と他人の感覚が同じだとは微塵も思っていないのだが、どうしてもデスゲームに参加する人間が死に恐怖を覚えるというのは玲奈からすると馬鹿げた話だと思った。


 デスゲームが一回目の初心者プレイヤーならまだしも、ここに居る人間は少なくとも”二回目”の人間だ。それを考慮すると変だなというのが玲奈の感想だった。


 四人はしばらく黙り込んでいたが、緑髪の男『メトア』が口を開いた。


「デスターさんには多分分からないと思いますけど言いますね? 私達は確かに殺されに来ました。死ぬだけなら他のゲームでも可能でしょう。このゲームを選んだ理由は......猫又? デスターさんに理由は言った?」


 メトアは猫又に視線を変え、言葉を送ると猫又は反応を示す。


「言ったわよ」

「それならもう言っても良いですね」

「カードに書いてあった通りに、地獄に落ちる為です」

「地獄......」


 玲奈は言葉を失った。勿論ショックとかそういう理由ではない。私のカードには”地獄”という単語は一切書かれていなかったからだ。玲奈のカードには言っていなかったかどうか忘れたが、黒道さんも言っていた『異世界へのゲート』という言葉しか書かれていなかった。


 これは推測するまでもないが、恐らくは私のカードと書いてある内容が違うという事だろう。私が”殺す側”として設定されているのだから、そうあっても不思議では無い。考えるべきは何故このゲーム運営がこんなクソゲ......ゲームを開催したのかだ。馬鹿な運営だからか? なんて馬鹿な理由を付けてみるが、違うだろう。デスゲーム系統の運営というのは基本的に馬鹿は居ない、狂っている運営は沢山いるが。


 運営は狂っているが、馬鹿でも無能でも無い。運営は神様である。デスゲームを開催している運営が馬鹿では無いのなら何なんだ、という質問が飛んで来そうだ。運営は確かに馬鹿げた、そして理不尽なデスゲームまたはデスゲームギャンブルを開催している。だが有能が多くなければそんなゲームの情報が外部に漏洩しない事は無いだろう。


 運営の人間が人間としては馬鹿げていてクズだという事は一般的に見ればその通りなのだが、それは表社会の人間も同じだろう。例えるならば、ネットでは暴言を沢山吐いているクズだったとしても、会社では有能な人間だというのはありふれた事だ。


 運営は容赦無く理不尽を投げてくるが、賞金はしっかりと用意しているし、ちゃんと参加者に”得”が発生し、損をする事は基本的には無いと言って良い。死ぬかもしれないという事を除けば。


 死んだ場合でも運営が後日葬儀を行ってくれるという意外さもこのゲームに参加する人間が多い理由かもしれない。非合法だが。


 このように、基本的に運営というのはプレイヤーを大事にしてくれて、丁重に扱ってくれる。それが今回の運営には無いという時点でこの国の運営では無いという事が分かる気がする。では他国か? と言われればそれはノーだ。もしそんな事を言ったら『HAHAHA!』と嘲笑されるだろう。これらを踏まえてやはりこのゲームは異世界からの来訪者による運営だと玲奈は確信した。


 異世界なんてあり得ないと最初は玲奈自身も心の中で笑っていたが、この会場全体に貼られている様々なポスターは、私の知り得る7139種の中のどれにも当てはまらない。これに加えて、玲奈が入ったこのビルは元々無かった物。何日前から無かったのか、それは一日前。つまりだ、ビルを即席で作る事は現代技術では不可能、更に現存する言語以外の文字。


(これはもう、このビルに入った時点で異世界に来ているという事になるね)


 馬鹿げた話だ、現実離れし過ぎている。そんな感想は玲奈の脳内には発生しなかった、ただ異世界という物に興奮している。異世界自体というよりも異世界のデスゲームは何があるのだろうというワクワクの気持ちが玲奈の脳内を駆け回っていた。


「あの、デスターさん? どうしたんですか、さっきから黙り込んで......」

「ん? ああ、ごめん。ちょっと考え事をしていたから」


 考察を深め始めるとこういう事になるのは玲奈の日常だった。考えても実戦への影響は微々たる物だというのに。ピンク髪のヴァーナが話しかけなければ恐らく、ずっと考えていた事だろう。


 私は会場の奥にあった壇上に一人の男が立っているのを確認した、四人も少し遅れて気がついた様だ。その男はピエロの服を着て、頭にはシルクハットという何ともアンバランスで気持ち悪い姿だった。


 目を凝らして再度、玲奈は男を見た。その男の衣装は身体と一体となっていた、まるで接合されて離れなくなった鉄の様に。


 ピエロ服の男は壇上のマイクを弄り回す。やはり気持ちが悪く気味が悪い。そして遂に男は話し始める。


「ええ皆さん、異世界デスゲームギャンブルへのご参加ありがとうございます。簡単に説明しましょう。ゲームのステージは自動生成ダンジョンで行われます。通常のデスゲームギャンブルでは地図が配布されますし自動生成ダンジョンでは無く決められたフロア内でのゲームです。今回は自動生成ダンジョンである事に加えて地図が無いのでとてもスリルのあるゲームがお楽しみになれます。あと、デスター様」


 区切り区切りのテンポが悪い喋り、聞く側の人間を不快にさせる高音と低温の混ざりあった機械音声。フルコースだ。


 男はデスター……玲奈を指差しこう言った。「あなたはこのゲームの主役です。できるだけ早く全員を安らかにそして納得のいく死を与えて下さい。それができればアナタは異世界のデスゲームギャンブル......デスゲームギャンブルファンタジーDie」への参加権を得る事ができます」と。


「異世界?」

「何だよそれ」

「何、言ってるの」

「......ひいっ!」


 最初の自己紹介と同じ順番で反応を四人は示した。そんな『異世界』という単語に驚いている四人を余所に玲奈は顔を赤らめ興奮していた。その顔を見られない為に両手で顔を覆うが意味は無かった。声は既に漏れていた。


「ハァ......ハァ」


 息が止まらない。もう少しで♡が付くのではないのか? と思うほどには絶頂寸前だった。


(駄目、我慢しなきゃ、このままゲームを始めたら、死んじゃう......、でも良いッ! もっと興奮できるゲームがこれをクリアすればできる。殺らなきゃ、皆に快感を与えて挙げないと!)


 今日も玲奈を死は愛してくれている。そして玲奈もまた、死を愛している。


「私の死、全て死に捧げる。だから頂戴、私に死をッ!」


「「「「......」」」」


 四人は唖然としながら、玲奈の行動にドン引きしていた。そしてピエロ服の男は皆に告げる......。


「フッ、喜んで頂けて何より。それではゲームを開始いたします。皆様壇上に訪れたゲートにお入り下さい」


 壇上にはいつの間にか白いゲートが現れていた。五人は玲奈に続いてゲートに入っていく。そして全員が入った時、ピエロ服の男は宣言する。


「デスゲームギャンブル、開始」


 猫又は終始黙っていた。

 


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