4.
塵一つ落ちてない廊下をポップコーンをもさもさ食べながら歩く。仁は私のスーツケースをゴロゴロと転がしてくれているし、廊下に傷でも付いたらどうしようと内心ドキマギする。
「皆変わりなく元気そうだね」
「はい。組員全員百合ちゃんが帰ってくる日を心待ちにしてたので。3年間毎日数えてました」
「ありがたい話だよ……」
涙を拭うフリをしながら、おじいちゃんの部屋に向けて長い長い廊下を2人で歩く。
10年前、私のお世話係として、25歳の仁を紹介された。親の葬式から突然引っ張りだされた私はパニックに陥っていた。怖いサングラスおじさんに大きな御屋敷に連れてこられたと思ったら周りはこれまた怖いおじさんばかりだし、その日は台風直撃の影響で嵐の音は凄いし、ずっと半泣きだった。
「あー、百合子ちゃん。ワシ、君のお母さんのお父さん。おじいちゃんってやつね。」
「おじいちゃん……」「そう、おじいちゃん。突然の事で信じられないと思うけど、ほら、百合子ちゃんと目が一緒でしょ」
サングラスを外したおじいちゃんは確かに私の目(お母さん達は百合子のキラキラお目めって呼んでくれてた)とお揃いだったのを覚えている。
いや、確かにお揃いだったがそれ以上に声がデカすぎて怖かった記憶しかない。
「それで、百合子ちゃんはまだ5歳だったよね。だから百合子ちゃんが不便なくこの家で過ごせるようにお手伝いさせてもらう人を準備したんだ」
「お手伝い……?」
「そう。入ってー!!!」
「失礼します」
襖を開けて入ってきたのは、サラサラした真っ黒な髪の毛にキリッとした瞳。
睫毛もバサバサした綺麗な男の人だった。
「はじめまして、百合子さん。百合子さんのお世話係になりました、皆元 仁といいます。」
「はじめまして、岡部 百合子です……」
「………………」
凄く綺麗な人だけど、表情動いてない…え、本当にお人形さん……??
それとも私のこと嫌いなのかな……と5歳の私は物凄くドキドキしていた。
相変わらず外は大荒れ、雷の音が響いた時。
流石の強面おじさん達もザワザワしていた。
私はもう怖すぎてリアクションする元気がなかった。
「…?何かありましたか?」
きゅるきゅるした瞳で私に向かってこてんと首を傾げた皆元 仁の姿は、まるで子犬ちゃんのようだった。
震える拳と残り僅かな勇気を握りしめ、
「…百合ちゃんのこと、百合子さんじゃなくて百合ちゃんって呼んでいいよ。仁ちゃんって呼んでも良い……?」と囁き声で聞くと、
「もちろんです、百合ちゃん。百合ちゃん、俺貴方に命かけれます」と花が咲くような笑顔で仁は笑った。
その日から3年前まで仁と百合子はめちゃくちゃに仲良しだった。本当に本当に殆ど毎日、仁と一緒にこの家で過ごしていたから、廊下の壁についたお絵描きの跡とか、飾られてる工作とかは全部仁との思い出ばかりだ。