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2.


雛生(ひなせ) 組に厄介になること早3年。

他の組の事なんて詳しくは知らないが、

うちは所謂(いわゆる)温かい職場だと思う。

近隣住民や警察官共にとってどうかは知らない。

あくまで我が組員にとってだ。


雛生(ひなせ)といえばなんたって組長が変わり者。

面白かったらそれでいいじゃん!を地でいくその人は、かなりのやり手ながら本当に自由人で、

下っ端の俺達も親父にとって面白ければ自由にさせてくれる。

薬はご法度だが、兄貴たちも手荒な“躾”を嫌って、

無駄に殴ったりもしてこないし、俺達みたいなクソ毒親生まれの家無し子は組長のバカ広い家に住まわせて貰えるし、この組に入って良かったなと心から思える。

最近始まった年1回の格闘ゲーム大会は地獄だが。

格闘ゲーム大会とは名ばかりで気づけば乱闘騒ぎ、

兄貴分にただただぶん殴られる日となっている。


それはさておき、

何よりこの組には、皆元(みなもと)さんがいる。

皆元さんは、とにかく顔が綺麗だ。

本当に綺麗だ。学がない俺には到底言い表せれないほど綺麗な顔をしていて、身長も190cm弱あり筋肉質。常に無表情なのに関わらず男女問わず虜にしてしまうような色男だ。

噂では1000人斬りしたらしい。

他のパンピーの男がそんなことを言おうものなら、鼻で笑ってやるが、皆元さんならば信じられる。

クルクルとしたパーマがこれまた色っぽいと夜の蝶達の間で話題だ。

それに加えて最年少幹部。雛生(ひなせ)組内で憧れる若手は馬鹿みたいに多い。

俺もそんな若手の1人にしかすぎないが、いつか皆元さんの右腕となれるように日々兄貴分について回りながら取り立てや取り立てや取り立てなどのシノギに身を費やしている。俺はまじで頭は悪いけど声やガタイだけはデカいしゴツイから、これから期待できるぞと兄貴達に目を掛けてもらっている、と思う。

そんな雛生組組長の家だが、何だか今日は朝からザワめいている。

「おい。今日なんか予定あったか?」

「おー、何でも今日は加賀の親父のお孫さんが3年ぶりに帰ってくるんだってよ。それで幹部方がやたら張り切ってるらしい。正面玄関、ポップコーンの屋台まで出てるぞ。お孫さんが好きなんだって。」

「親父の……?え、稲口(いなぐち)のアニキが半グレ達を脅す合間に鼻歌混じりに準備してたのってポップコーン?」

あー、3年ぶりに帰ってくるとか言ってたな。同期の男と話しながらぼんやりと考える。

俺が組に入るのとほぼ入れ違いに、何でも親父の大阪のイロの所へ孫娘が引っ越したらしい。

男だらけのこの家では成長に限界があるからとかこれで関西弁と東京弁を使いこなす最強娘の誕生やー!!ガハハ!とか親父は笑っていた。

まじで親父そういう所あるよな、昔からそうなのかな。あの人が実の祖父って実際どうなんだろとか色々考えながら同期と別れ、朝の日課である裏門付近の清掃をする。ちょっとでも落ち葉があると、綺麗好きの兄貴に小言を言われるのだ。いや、桜の花散りすぎだろここ。正直今の時期の清掃は四季の中で1番ダルい。


「すみません!!!!!あの!!ちょっとここから入らせてもらってもいいですか?何だか正面玄関が見たことないくらいザワついてて。」


「アァ?」


顔を上げるとそこらでは見ないレベルの美少女が青ざめた顔色で目の前に立っていた。まじで可愛い。髪の毛とか茶色くてフワッフワだし、うるうるの向日葵の瞳、顔色はとんでもなく悪い癖に唇はプルップルのピンク色だった。

いや、顔ちっっっちゃ!

思わず見とれてしまう。


「あの……?」


半泣きの声で美少女が再度問いかけてくる。

可愛い子って声まで可愛いんだな。誰かアニキのイロか?と思いつつも、ここは雛生組組長の本宅だ。

怪しい者を入れる訳にはいかない。

細い手首をつかみつつ、

「お前、どの口きいてこの家に入れさせろとか言って……」

とアニキ直伝の凄みをしようとした瞬間、凄まじい衝撃を喰らった。

……え?熱い……?

違う痛い!!痛い痛い痛い!!!


「百合ちゃんおかえり」

「え、仁……?何してるの……」


何が起きた?頭、いや、額から血が流れている。え、俺の血?訳が分からない。は、え、皆元さんだよな。皆元さんに横から膝蹴りされて倒れて門にぶつかったのか、?


「予定時間になっても春日(かすが)サン1人だけ来て百合ちゃん来ないから。裏門から1人でこっそり入るって言ってたって聞いて迎えにきた」

「いや、えっと、迎え、?え、その人…血…」

「百合ちゃんの手掴んでた。」

「は、え、そりゃ手首くらい掴んじゃうよ!!!!!小娘がヤクザの家の裏口に突然現れてるもん!!自分で言うのもあれだけど私、めちゃくちゃ怪しいよ!!!!??」

「オヤジも百合ちゃんのこと待ってる、早く行こ。稲口のアニキがポップコーンも作ってる。百合ちゃんが好きなキャラメルと塩バターだって。バターとキャラメルは北海道から取り寄せたって言ってたし」

「え、無視!??ちょっと待って!!!

(じん)ちゃん!!!ステイ!!!」

その声に皆元さんはムッとした顔をしながら止まる。立ち上がれない俺の前に美少女はかがみ込むと、

「あの、私のせいで、仁がすみません、、!!

これ良かったら使ってください、本当に本当にすみません。私怪しかったですよね、お兄さん悪くないです、、。悪いの全部私です、、。いや、仁です、、」

と、もうくっしゃくしゃのシワシワの黄色い奴みたいな顔をして、いい匂いのするハンカチをそっと額に添えてくれた。

俺は痛いし、訳が分からないしで頭は回らず会釈しか出来ない。


「百合ちゃんのハンカチが勿体無い。俺が欲しい。」

「いや誰のせいかな!?本当に怒るよ!?」

そういいながら、皆元さんは半分土下座している百合?さんの腰を抱き寄せ、スーツケース(プードルのステッカーがめちゃくちゃ貼ってある)も我が物顔で転がしてどこかに去っていく。顔に見とれてて、スーツケースなんて全く目に入っていなかった。

あの皆元さんを呼び捨てにできて、

叱れる人なんて今まで見た事ない。

いや、そういえば皆元さんには心に決めた人がいて、自分の刺青(すみ)にその人の名前の花を入れてるって聞いたことあるな…

百戦錬磨の皆元さんには有り得ない噂だと思ってたけど、それってもしかして本当で、もしかして百合の花だったりするのか……?

グラッグラの頭を抱えながら唸っていると、

武闘派兄貴の岩館(いわだて)さんと小松さんがやってくる。


あーーーこりゃあまた派手にやられたな。

また威嚇時期に入りましたかねー、今回は何人やられますかね。仁の相変わらずのクソ忠犬っぷりには脱帽ですよ。

忠犬ーーー?百合子さんの前で可愛子ぶってるだけで手の付けようのないとんでもねえ狂犬だろうがよ!

はあ、この前の時病院送りになった奴らって両手で足りたか?百合子さんも更に可愛くなったし余計大変なことになりそうだな、何人補充すりゃあいいんだ。

まずこいつからだな。植木のヤブ医者に連れてくか。

ははは、笑えませんね〜。君も散々でしたね。

まあ植木さん、腕だけはいいからデコも綺麗に縫い合わせてくれますよ。君あんまり頭賢くないって有名ですから、ちゃんと伝えておきますね。百合子さんは仁の逆鱗ですよ、これでまた1つ賢くなりましたね。


なんて話す兄貴達の話を聞きながら、

いや、事前に教えといてくれ…初手で裏口エンカウントは無理ゲーすぎるだろ……なんて、言えるはずもない文句を胸に緩やかに意識は遠のいていった。


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