1563年 家操30歳 交易
「こんにちは! 家操様ちょっと話したいことがあって来ました」
「ん? どうした(大黒)夷三郎じゃないか? お前日ノ本一周の旅に出たんじゃなかったか?」
「五千石船を使えば1カ月もかからずに1周できたわ。堺や博多見てきたんですけど、堺は三好の嫡男が病没して三好政権が動揺している余波が堺にも影響が出ていて、三好の証文の価値が下がっていました。あと堺商人達は南蛮人や明の交易船の目的地が堺から浜松に変わったことに動揺しています。今信長様に堺の有力者が利権を守るために交易の交渉をしているらしいですよ」
「ほう……永禄通宝の流通はどうだ?」
「堺衆が尾張で大量に交換した永禄通宝を堺で宋銭と交換して手数料を取る商売を始めたらしく、堺を中心に広まりつつありますよ。あと堺では茶道が流行りらしくて唐物の茶器が基本高くて和物(日本の茶器)は安いのですが、常滑の上物、浜松の硝子茶器、ボーンチャイナでしたっけ? 乳白色の光沢のある茶器……それは和物ですが唐物よりも高い評価と唐物よりも一部は超えた評価を得ています。あと信長様が一部の者に褒美として渡している魔法瓶、大黒屋に褒美として渡していただいた黄金に輝く茶釜は堺の茶人の千宗易(千利休)、今井宗久、津田宗及と茶会に出席して浜松の茶器で揃えで茶会に挑んだのですが……」
「めちゃくちゃべた褒めされました。茶釜は城1つに匹敵する逸品、青く光る硝子の茶入れは千貫に匹敵、乳白色の茶碗は鶴の絵柄を入れることで唐物に匹敵と言われました! いやぁ家宝が増えましたわ」
「そ、そうか……茶道が広まれば浜松の茶器や茶の需要も高まるからありがたいが」
茶道のブームは堺だけでなく博多でも広まっているらしく、商人の流れの多い尾張でも広まり始めているらしい。
五位様の周りにいる貴族達も新しい文化として研究しているらしいが……。
あとそう言えば信長様の事だから茶道ブームを絶対に活用するだろうなぁ……。
「博多は南蛮船と明の密貿易船が多かったですよ。永禄通宝も少量流通していましたが、石見銀山があるので銀決済が基本でしたね」
「北九州は大友家の勢力が大きかったですが、キリスト教の教会が建設されていたりしたのが印象的でした。既にそこそこの人数もいるようで……」
「あ、南蛮商人に奴隷と硝石や火縄銃の交換をしている光景も見かけました。正直南蛮商人が増えれば浜松でも奴隷貿易するんでしょうか?」
「いや、こっちは相手が欲している商品が沢山あるから奴隷を輸出する必要は無いな。利益も低いし……」
「家操様ならそう言うと思ってました! あと琉球王国へも交易をしましたが、勘合符が無かったので結構な金額を支払って勘合符を入手しましたが次に行った時に何か欲しいものありますか? 明との中間貿易で儲けていましたが」
「琉球との貿易か、こっちからは布を多めに輸出するか? 琉球と言えば砂糖か……あと島豚。香料や薬類も手に入るか……まぁ適度に島豚持ってきてくれれば自由に貿易して良いよ」
「ありがとうございます!」
「他に九州情勢はどう?」
「鉄砲の需要が高そうですね。津田家では旧式の火縄銃を輸出しますか?」
「うーん、余剰在庫は売っても良いかもな。どうせ使わないし……次行くときに売ってきて良いよ」
「わかりました……あと交易の海路ですが浜松から出発して堺まで行き、堺から瀬戸内海は通らずに琉球まで行き、琉球から博多に行き、博多から越前、越前から越後、そのまま蝦夷近くの海域を通り、関東で一度補給して浜松に帰る海路が良いかと。逆も然りで、瀬戸内海は五千石船が通るには岸が近すぎますし、海賊が酷いのでね」
「五千石船も量産するが、なるべく失いたくないからな。利益になる海路の開拓を引き続き頼むよ」
「は!」
「ふーん、やっぱり三好は歴史通り崩壊するかな~、色々弄ったけど、歴史の揺り戻しってやつかもしれないな。正直畿内経済一時的にぐちゃぐちゃにしたけどあんまり効果は無かったし……一番ダメージ受けた堺もまだまだ力あるしなぁ」
俺は史料を読みながら夷三郎の話を咀嚼していく。
「よっこいしょっと……うん、いい作りをしているな」
俺は執務室に置かれている牛皮製のソファーに座りながら今後の事を考える。
この牛皮のソファーは中は畳の稲藁とい草を使っており、それを鞣して色付けした牛皮で包んでソファーにしてある。
フレーム部分は木製で、そこにパーツごとにソファー部分を乗せている形なので、分解することも可能だ。
分解すると座布団代わりにもなる。(重いが……)
新しい家具として売り出しているが、金持ちの商家や重臣達が買うに留まっているため、そこまで売れていなかった。
俺は気に入っていたが……。
「さてと、北条や上杉に情報収集させている忍びからの情報だと、両家共に豊作の予定、昨年広めた農法の効果が実感できたからだろうな。これで米価が暴落するようなら買い支えを行って畿内や西国に売り払うが……いや、空売りして利益だけ確定させるか? ……いやいやそれをやるとせっかく育ってきた関東や東北の商人が絶滅するな……」
武田はここ数年大人しく飛騨に侵攻するくらいで特に暴れてないし、北条、上杉も共に大人しい。
比較的平和な一年になりそうだな。
「今年でようやく全部の銃をライフル火縄銃に交換することもできたし、蚕の糞を用いた硝石製造法も軌道に乗った……小麦と智と千秋の出産がそろそろか」
最後の妊娠と決めていた3人の出産が近く、臨月になっていた。
長男の信球の子供も産まれそうだし、30歳でおじいちゃんか……
時が経つのは早いな。
「勝負の10年になるかねぇ」
信長様の飛躍になればよいのだが……。
妊娠していた小麦、智、千秋に男児が産まれた。
相変わらず俺の子供は男児になりやすいことで……。
これで俺の子供は27名……野球チーム3つ分まで子供が増えたことになる。
それぞれ、小麦の子に香取、智が鹿島、千秋が香椎と名付けられた。
信球と桃の子供も無事男の子が産まれ、とりあえず直系ではないが、世代を繋がることはできた。
「そう言えば8年くらい加増が無いな……準備もできたし武田を着火させるか」
俺は武田を暴発させるために武田領内の米相場に介入を始め、流言をばら撒き始める。
織田領内は随分と栄えているし、織田は弱兵だから精強な武田であれば倒せるであろうとか、織田信包と津田家操の関係が悪化しているとかの噂をばら撒いた。
信包様にも一芝居打ってもらい、外交方針を巡り口論になっているのを度々行い、噂の信憑性を深めたりした。
効果が出るのは秋頃であろうがどうなることやら……。