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1556年 家操23歳 信包と早川姫の婚姻 ヤカン

「ふぅ、長い間会えなくて済まなかったな」


「ハァハァ……確かに寂しかったけれども子供達や妻達で仲良くしていたので大丈夫ですよ」


 浜松城内の本丸に作られた畳が敷かれ、夏は涼しく、冬は暖かい様に工夫された生活区域……奥御殿。


 そこで布団を敷いて、裸の男女が5人……俺、小麦、智、霞、千秋が行為を終えて転がっていた。


 米の収穫が終わって少し涼しくなってきたが、肌寒いとは言わず、行為をしたためか皆汗ばんでいた。


「これだけ出されたらまた子供が産めそうですね」


「男の子も良いですが、血縁を広げるために女の子が欲しいです」


「あら智は女の子をご所望?」


「智さんは4回連続で男の子ですもんね」


 転がりながら妻達が話している。


 もう皆20代中盤となり、少女から女性らしく変わってきていた。


 それがまた良いのだが。


「しかし男の子が増えるということは家が増えるということになりますよね。子供達が家を起こせば領地等で揉めない?」


 千秋がそう言うが俺は問題ないと断言する。


「確かに当主はよほど問題がなければ天龍(小麦の嫡男)が継ぐことになるだろうけど津田家は織田家一門衆とはいえ少し離れた距離にいる特殊な家だ。だから新しく家を起こすのは全然問題ないし、俺には各種工場の利権がある。武士でも土地ではなく権利を使うことで家を養えるくらいの金は得れるだろう。なに、俺が生きている間は津田家でお家騒動は起こさせないから安心して子供を沢山産んでくれ」


「旦那様がそう言って愛してくれるだけで私は嬉しいです! 産めるだけ子供を産みますよ!」


「霞さんと気持ちは同じ! 私も産むよ!」


 智もそう断言し、小麦と千秋も頷く。


 でも俺が何か起こった時に家督の継承問題で争うと面倒だ。


 最年長の球磨は家督を継げなくても自分の力量で成り上がると言っているので問題ないが、年長者として家中を纏め、天龍を補佐してくれなければ困る。


 信長様も叔父である信光様が家臣に暗殺されて信秀様の兄弟で有力者が不在となっている。


 津田家は俺が何かあれば伊達アニキや秀吉、秀長兄弟が支えてくれるだろうが……


「時間がある時に家中の継承や財産分与等の優先順位を決めておこうか」


 そう思うのであった。









「お初にお目にかかります。織田家準一門津田家操でございます」


「おいおい、忍びの俺にそんなかしこまらなくても良いのに」


「いえ、同盟国の忍びは同盟国の家臣とも同等……たとえ武士でなくても礼儀で答えるのが筋というもの」


「そういうものかねぇ……悪い気はしねぇがな。家操さんところの忍び頭の多聞丸から話は聞いているが、北条一族と密会を求めるというのは本当か」


「はい、私自身が北条と交渉を行いたいと思っていまして……」


 目の前にいるのは北条の忍び風魔小太郎と思われる人物で、本物かどうかは分からないが、風魔党の上忍ではあるだろう。


 多聞丸に頼んで俺は忍び経由で北条とのチャンネルを繋ごうと思っていた。


 北条一族は三代目当主である北条氏康の下で纏まっており、勢力は駿河、伊豆、相模、武蔵、下総半国の4カ国半の領土を持ち、約120万石程を領有する巨大勢力である。


 税率も四公六民を徹底し、目安箱を城下町に設置したり、公事赦免令という法令を用いて賦役や他の作物の税を減税や簡略化することで民を最優先した統治体制をおこなっていた。


 というのも北条氏は初代当主である伊勢宗瑞(北条早雲)が幕府の役員から今川家の家督争いの仲介をするために関東情勢に介入してできた部外者の家柄のため、領地支配の正当性が薄いのを民意という力で確保していた。


 ただその民意を力とした政策の数々により領土拡張に成功し、関東管領である両上杉氏の領土を削り取る形で勢力を広げていた。


 現在は里見、佐竹、上杉氏残党が各所で抵抗しておりそこに長尾家(後の上杉謙信)が介入する素振りをしていて関東最大勢力であるが敵も多い家であった。


 今川を滅ぼして駿河を確保したのも本拠地の小田原城のある相模の防衛をしやすくするためでもあり、今川との敵対関係に終止符を打った事で織田家と同盟を続けていれば西を気にしなくても良いという事情もあった。


 北条の目指すは関東の地域覇権であり、天下統一や畿内進出みたいなことは頭になかった。


 俺としても北条と事を構えるよりも貿易をして場合によっては種籾や芋を外交戦に活用して友好が得られるのなら関東の生産能力を上げてもらっても別に構わなかった。


 関東は残念ながら銭の流れの博多から堺……最近は尾張もそうだが、経済的中心地から外れてしまっており、どれだけ生産能力が上がって人口が増えようとも独自通貨を発行し始めるまでは織田家の経済力で押しつぶす(鉄砲や大砲等の金のかかる兵器や常備兵など)事が不可能であった。


 それに北条の主力の相模と武蔵の兵は尾張兵と同等くらいに弱兵で有名であり、鉄砲の集団運用をすれば瓦解するのが目に見えていた。


 だから怖くないのだ。


 だったら農業国として安く原料を輸入して俺の領地で加工し、それを尾張に売った方が織田家にとって特になる。


 尾張からどうせ畿内に転売されるだろうしな。


 まぁ俺の方の対武田家を見据えた防衛計画でも北条との挟撃は避けたいので北条と同盟を強くすることができれば東の安全に繋がり、その分信長様も美濃攻略に兵を送ることが出来るだろう。


「北条一門と何を交渉するのだ?」


「織田家と婚姻同盟を結ぶ気はありませぬか。織田家家長織田信長の弟で遠江守護代の織田信包様がまだ未婚なのですが……婚姻が成立すれば北条との強固な同盟となると思われるが」


「確かにそれは良いことであるが……なぜ忍びを介する必要がある?」


「私が動いていると思われたくないのですよ。できれば北条から婚姻を持ちかけた様に見せれば婚姻の成立になる確率が上がると思われまして……」


「しかしそうなると対価が必要となるが……」


「今年は関東でも不作と聞いております。一方畿内では豊作と聞いておりますので1万貫分の兵糧を贈らせてもらおうかと。あとは互いの港での貿易の奨励を行い、商いの活性化等はどうでしょう」


「わかった。とにかく上に相談してみることにする」








 実は俺の動きは信長様の指示であり、武田家は信用できないが、北条は基本条約や約束は守るので将来の敵を減らす為に俺に信包の婚姻で北条の姫を引っ張り出せという命令がされていた。


 で、俺は北条との外交ルートを持っていなかったので忍びを使って外交戦を展開するという回り道をしたのだ。


 風魔小太郎と交渉をした後日に駿河の旧今川館を改修して作られた駿府城に俺と北条早雲の末子で北条家でも大きな力を持っていた北条宗哲(北条幻庵)と交渉を行った。


 その席で俺は茶を出す茶釜代わりにマンガとかに出てくる様な黄色のヤカンで湯を沸かしたが、それに宗哲殿は驚いており、今回の会談に合わせて職人に作らせた逸品(実際はホームセンターの倉庫に転がっていた物)として出した。


 茶釜の様にお玉で湯を取り出さなくてもヤカンを傾ければ湯が注がれるのを見て宗哲殿は感心していた。


 茶を注ぎ、そして茶菓子としてスイートポテトを出し、織田家は砂糖をこれだけ使うことができるという財力のアピールも行った。


 ただそれ以外は、北条家が農本主義に対して織田家は重商主義であることを再認知したり、民をいかに優しく良政を敷く事の重要性の話題になると熱く議論を繰り返し、互いの共通点を見つける事ができ、有意義な話し合いとなった。


 その後1ヶ月に1度駿府城にて茶会が開かれ、最後の時に救民作物として薩摩芋とその育て方を書き記した農書を贈り、北条の方も北条氏康の娘で現在10歳の早川姫を14歳の織田信包に嫁がせる事が決まった。


 信長様にも直ぐに報告に行き、許可を得て、信包様と早川姫の婚姻へと直ぐに移る。


 信包様は婚姻の話が進んでいると聞いて遂に自分かと覚悟していた雰囲気であったが、実際に早川殿と会ってみると年の割にしっかりしている(現代なら学級委員長をしていそうな)真面目な性格と器量良しの将来の良妻賢母が約束されているし、顔立ちも凛々しい姿をしていたのでメロメロになり、直ぐに意気投合した。


 史実では今川氏真と苦楽を共にして目まぐるしい人生を送ることになる早川姫であったが、信包との相性も良くて城でいつもベタベタしている姿がよく目撃されることになる。


「子供できるのも早そうだな……」


 と俺は思うし、北条家は早川姫が信包にベタベタに惚れているという情報を風魔から聞いて信包は知らないうちに北条一門認定を受けることになり、よく駿府城に招かれては北条一門の誰かと茶会をするようになる。


 その時に必ず俺が北条宗哲に贈ったヤカンが湯沸かしに使われ、将来一級茶器扱いを茶人から受けることになるのだった。

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― 新着の感想 ―
黄色のやかんは、ワロタwww ホーローのやかんだよね。
でも、茶色いアイツは長持ちはしないから、へんてこ逸話のアイテムがうまれんのかな?ブンブク茶釜のタヌキサヨナラバージョンみたいな。
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