8.未来への備え
先日ヒロインであるリリィちゃんを本命のポルクス様と昼食会で対面させたことで交流する下地は整ったといって良い。これからはよりゲームに詳しい彼女が粛々と進行させることだろう。
あとは彼女に任せて私はこの国を襲っている飢饉の対処策を練っておこうと思う。
まず、ゲームでの飢饉対処についてだが、これはそれぞれの攻略対象のルートで変化する。
ポールスト兄弟の場合
・ポールスト領で干ばつに強い野菜や麦の品種改良を行う。
このルートではポールスト侯爵家として褒賞はされるが、国王陛下がカストル様達の功績を顕彰してふたりが褒美を贈られる事となり、そこでヒロインとの婚姻を望むという流れである。
ポルクス様ルートに入っているのでこの方法で解決できればいいけど、たった一年やそこらで品種改良が成功するなど、ゲームでは相当なご都合主義だったとしか言いようがない。現実的に考えて無謀もいいところ。
チェスター君の場合
・ゲーム内で第三王子の婚約者兼悪役令嬢の母国へ留学し、品種改良された野菜の種等をチェスター君へと送託して食糧難を解決する。
この解決の肝はヒロインではなく、チェスター君の実家が叙爵される事。これにより身分差がなくなり、彼はレバン男爵家へ婿入りする事になる。
騎士団長の息子の場合
・魔物討伐に勤しみ、森の奥深くで精霊と出会い願いを叶えて貰う。
何とも異世界らしいファンタジックな方法で眉唾物。それに加えて精霊自体伝説上の生物なので、現実的でもない。
これのおかげでヒロインは高位貴族の養子となり、結婚が可能となるが、こんな不確定な設定に頼るのも馬鹿馬鹿しいのでこれはない手段として扱うべきだろう。
第三王子と魔法師団の息子の場合
・魔法国家と呼ばれる他国へヒロインが留学し、魔法の造詣を深めて雨を降らせる
これに関しては既に再現可能である。
この世界の魔法は火・水・風・地・闇・光などがあり、どれも魔力を消費して発動するが、無から有を生み出すことはできない。
であるならばどのようにして魔法は発動するのか?
それは魔法が何かを生み出すための過程の役割を果たしているからだ。
簡単に例として水を用いて説明すると、サバイバルなどで飲み水を確保するためにはまず泥水でも海水でもとにかく水を汲んでくるところから始まる。そこから海水であれば塩を取り除いて煮沸消毒で菌を死滅させ、泥水であれば濾過装置で不純物の除去後に煮沸消毒で飲み水を確保する。
魔法は海水や泥水から飲み水を確保するまでの過程を素っ飛ばして清浄な水を齎す手段のひとつという事。
砂漠などの水源乏しい場所では魔法を発動しても元となる物質がほとんど存在しない為、魔法は失敗するか、膨大な魔力に見合わない量の水しか手に入れられない。反対に水源豊富な所では容易に水を確保する事が可能である。
現代日本の義務教育レベルの理科を学んで原理を知っていれば大して魔法に苦労する事もなく、干ばつの対処を可能とし、飢饉を抑え込むこともできる。
しかしそれは、リリィちゃんにも言える事である。
きっと彼女もルート関係なくであれば既に干ばつ対処に乗り出しているはず。でも現実として行動を起こしていない。
それはなぜか?
ゲームとの齟齬が発生した場合の展開が予測不能だから。
そして私が行動を起こさない理由はヒロインが攻略対象と結ばれる可能性を潰すことに繋がるから。
今、私が飢饉の対応をしようと思考を巡らせているのは、リリィちゃんがゲームに忠実に品種改良を選択した場合のバックアップ及び成功しなかった際の布石である。
まだ何も考えはまとまっていないし、いい案があるわけでもない。
でも、このゲームのような一度きりの現実を将来後悔しないために早急な対応策を講じておきたい。
であるならば、私の活かせる強みとは何か?
それは莫大な資産、資金援助により作り出した権力、現代家電を再現するために研究を重ねてきた魔法技術。
これらを駆使してヒロインの功績を奪うことなく、強力なアシストを行うが、不測の事態に陥った際にはバレないように裏で動かなければならない。
困難である事は重々承知しているが、人は誰しもやらなければならない時があると思う。それが私にとってはこの学園生活の三年間というだけ。
私自身はモブだけど、リリィちゃんの友人として助力を惜しまない。
『推し』には幸せになって欲しいから。
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