7.ヒロインと攻略対象が揃う夢の昼食会
あれからリリィちゃんとクレア様達は同じクラスという事もあって仲良くしていた。特にレイラ様は服装の趣味が合ったようで和気藹々としている。
そして私たちと行動を共にするようになって彼女への嫌がらせはピタリと止んだ。
資産家である私が庇っていた事もあって下手に手を出して不要な怒りを買いたくはないのだろう。
さて、今は最近恒例の五人揃っての昼食会の最中。
「皆さまごきげんよう。私達も一緒によろしいでしょうか?」
「ごきげんよう。ポルクス様、カストル様。こちらのお席で宜しければどうぞ」
そして時々ポールスト侯爵兄弟がこれに参加する。今日がその日でリリィちゃんは今回初めて二人とご一緒するのだ。
未だにすごく緊張する。やっと普通に会話できるくらいになったような気がしているのに、ヒロインと攻略対象者の食事だなんて…。
ご褒美か?ありがとう、異世界転生。
「こちらのご令嬢は初めてお会いしますね。私はカストル・ポールスト。そしてこっちが弟のポルクスです。よろしくお願いします」
「この前の~。よろしくねぇ」
「レバン男爵家長女、リリアーナ・レバンと申します。よろしくお願い致します。…その、先日は失礼致しました、ポルクス様」
「いいえ~?リリアーナが言った通り医務室の方が実際良かったよ~」
「まあ!お役に立てたようで良かったですわ」
「おや?お二人は顔見知りでしたか」
「そうそう。前に言ったでしょ?面白いことあったって。それぇ~」
「なるほど?弟と仲良くしてくださいね」
「はい!是非!」
和やかに自己紹介を終わらせて雑談に華を咲かせている三人なのだが、それだけで絵になるわぁ。
今の会話で分かったんだけど、リリィちゃんはポルクス様以外のイベントには本当にまったく触れていないらしい。
潔くポルクス様一筋。素晴らしいね!
因みにポルクス様の初対面イベントは、ガゼボで昼寝をしているポルクス様の近くをヒロインちゃんが通りかかって起こしてしまう。
そして、寝起きが悪くて不機嫌そうにしている彼に。
「ここではなく、医務室のベッドで眠る方が疲れが取れますよ?」
というちょっと的外れな助言をして気に入られるのである。
正直私はポルクス様の琴線を理解できる気がしない。『面白れぇ女』枠なのは何となく分かるんだけど、それ以外はさっぱり。
そういうのもあって恋人にしたいとは思えないのだ。私にとって『推し』は『推し』以上でも以下でもないって感じだろうか?
普段の数倍凶悪になった尊さに殴られている私と未だにこの空間に慣れないスーリズ様を抜きにどんどん雑談が盛り上がっていく。
『推し』を前にしても普通にしていられるリリィちゃんが本当に羨ましい…!10分の1だけでも分けて欲しい、その精神。
やっぱりスーリズ様は私の理解者だわ…!
運び込まれた料理を黙々と摂って食事を終えて紅茶に心を落ち着かせ、昼休憩も終盤に差し掛かった時だった。
「えぇ~?それのどこが良いわけ~?」
このポルクス様のセリフに思わず顔を上げてしまったのだ。だってこれは第二の好感度イベント発生なのだから!
会話の流れとして最近の流行りに話がシフトし、それについて良し悪しの理解がないポルクス様への端的な説明台詞を選択肢の中から選ぶというものだ。ゲームでは何種類かパターンがあったのだが、現実では悲恋を題材とした観劇の内容についてらしい。
何でも、自由恋愛が主流の隣国で今大人気の小説が輸入されたことでじわじわと話題を呼び、本国から劇団が観劇をしに訪れるらしい。そこからポルクス様の疑問が発せられたという流れである。
三つの選択肢の中からひとつ選ぶのだが、選んだセリフによって好感度が上昇するか現状維持か減少するかのどれかになる。
やり込んだと言っていたリリィちゃんの事だから当然ゲームで好感度が上昇する台詞と全く同じ言葉を口にするはずだ。
「私は…教訓にしますね」
「教訓~??」
「大体の観劇では言葉に出さない、あるいは最後まで話を聞かなくてすれ違いを起こすじゃないですか。自分は登場人物みたいにはならないようにしようって思いますね」
「ふ~ん…なるほどねぇ。それならまだ理解できるかも?」
リアルでイベントを間近に見られるとは……感無量です…。
すっごく感動はしているのだが、私にはこの考え方が全然理解できないのである。
普通にヒロインに感情移入して悲しくなってしまうのだけれど、私っておかしい?
「私は大団円の観劇が好きですから何とも言えませんが、好ましくはありませんわね」
「わたくしもよ!悲恋はつまらないわ!」
「わ、私もあまり悲劇は好きじゃないですね…」
……あ、え?そうなの?みんなそっち側?私だけ少数派なの?多数派に属していると思ってたんだけど?
え?ホントに?
「…カストル様はいかがですか?」
「私もポルクスに考えは似ていますね」
マジかぁ~……。
攻略対象者全員にとってヒロインちゃんって『面白れぇ女』枠だったの?驚愕の新事実なんだけど…。
いやむしろここでは私が『面白れぇ女』枠か???
ねえどっち?!
「ミッレ嬢はいかがですか?」
カストル様、それ聞きます?聞いちゃいます?友人と群れてないと心配になる、外れた行動は絶対にしないステレオタイプの日本人だった私に?
皆さんと違う意見を言うのがちょっとキツイよ…!でも、こんなことで嘘吐くのもどうかと思うし。
質問しないで欲しかったです、切実に…。
「…私は、ご令嬢役の方に感情移入してしまいますわ」
「まあ。そうなのですね」
「シャルロッテ様はとても変わっているわ!」
「本当の事ですけどはっきり言いすぎですよぉ…」
これほどストレートに変だと言われると流石にグサッと来ますね…。特にスーリズ様の言葉が何気に一番ダメージ食らったんだけど…。
「感受性豊かなのですね」
「そのような事は…」
「私は素敵だと思いますよ?」
「…ありがとうございます」
カストル様が微笑んで褒めて下さっているけれど、私が気落ちしたために気を遣わせて言わせた感があって居た堪れないのだが…。
気を遣わせたようで申し訳ないよぉ…!
「男爵家のリリアーナ様が気丈に振舞っていたんですもの!私もポルクス様やカストル様とお話してみよう…!」
この日以降、スーリズはたどたどしくも言葉を発するようになっていった。そしてそれに感化されたシャルロッテも会話に参加するようになり、『推し』との交流に心の中で感激の涙を流していたのだった。
シャルロッテ会話参加前「スーリズ様の裏切者ー!!!」
シャルロッテ会話参加後「きっかけをありがとう、スーリズ様」
主人公がいる国では政略結婚が主流で現実のその辺に『悲恋』がゴロゴロと転がっているので、創作物はあまり好まれません。
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