5.ヒロインちゃんも転生者だったなんて…誰推し?!
下校時間になったため、一応ヒロインちゃんが誰かに絡まれていないか学園を確認して回っている時だった。
「貴方のような男爵家風情が調子に乗ってるんじゃあないわよ!」
「きゃっ!」
言い争っている方向へ足を進めると、予想通りヒロインちゃんが令嬢達達に囲まれて地面に座り込んでいた。
「貴方達!何をしていますの!」
「!シャルロッテ様ぁ!この卑しい男爵家風情が身の程も弁えずに、婚約者のいる男子生徒に言い寄っていますのよ!」
「本当に貴族の令嬢なのかしら?まるで娼婦のようですわ」
「まあ!汚らわしい!」
顔をいやらしく歪めてクスクスと笑っている令嬢達。
寄って集ってよくもまあこんな事するなぁ、どいつもこいつも。私が味方になってヒロインちゃんを罵ると決め込んでいるのが、更にイラっとする。
「彼女の言ったことは本当ですか?リリアーナ様」
「な!わたくし達の事を信じて下さらないのですか?!」
「私は両者の言い分を聞いて、判断しようとしているだけですわ。それでリリアーナ様、身の覚えがありますか?」
「いいえ、ございません」
地面に座り込んだままの彼女は俯いて首を左右に振っている。
でしょうね!ヒロインちゃんに冤罪を掛けるのが学園で流行り過ぎだと思うの。
「そうですか。では、その言い寄られたという男子生徒は誰か教えて頂けますか?」
「な、なぜ!男爵令嬢風情の味方をするのですか?!」
「わ、わたくし達は、ただ!」
「先程も申し上げた通り、私は公平に判断しているだけですわ。ですから、どちらが正しいのかを明らかにするために証言者の名前を教えて頂けませんか?私自ら、今すぐに、確認して参りますわ」
「そ、それは…その……」
令嬢達はそこまで想定していなかったのか、名前が一向に出てこない。それぞれが目配せを行い、誰が言うかを押し付け合っているようだけど、それを待ってあげる義理はない。
「出ませんのね。でしたら貴女方はただの噂を信じて、彼女に難癖を付けた事になりますわね?」
「わ、私は!…はい、おっしゃる通りです…」
「でしたら、謝罪をしてこの件はお終いに致しましょう?その方がお互いに都合がいいのではなくて?」
完全に因縁をつけてヒロインちゃんを突き飛ばした彼女達が悪いけど、婚約者のいる令息に言い寄っていたなんて噂は不名誉でしかない。だからこれで納めるのがベストなんだけど、毎回泣き寝入りしているだけのような気がしてならない。
「わ、わたくしは間違っておりませんわ!」
お!このパターンは初めてだわ。
最近、私とヒロインちゃんが大事にしないのをいい事にやりたい放題しているから、いい機会ね。少し痛い目を見てもらいましょうか。
「そうですか、分かりましたわ。貴方のような噂を真に受ける方とは、今後のお付き合いを考え直させていただきますわね」
「い、いえ!そのような事は決して!!」
「あら?貴方、先程ご自身でおっしゃったではありませんか。私は間違っていない、と」
「いえ!あの…」
「では、私達は失礼致しますわね」
ヒロインちゃんを連れてそそくさと退散しながら、顔面蒼白な彼女達を眺める。
これで虐めがなくなればいいが、そんな簡単にはいかないだろう。私と友人関係になってくれれば守ってあげられるんだけど、ヒロインちゃんが人を利用する事を良しとするような性格をしているものだろうか…。
でも、私がシナリオに介入しすぎた影響か、ゲームのヒロインちゃんと違うところがあるんだよね。落ち着いているというか、大人びているというか何というか。
考えても仕方のない事だけど。
「リリアーナ様、怪我はないかしら?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございました」
「いいのよ、気にしないで。…もし良かったら、今からお茶でもしない?」
「お茶、ですか。かしこまりました」
「じゃあ、行きましょうか」
「はい」
取り敢えず、今の状況を打開するために話し合いをするべきだろう。そう思い、私が経営する個室完備のスイーツ専門店『ミア・フィーユ』へ向かう。
急に訪れたにもかかわらず、スタッフの皆は快く出迎えてくれ、空いている個室に通してくれた。
テーブルに着いて私はフルーツロールケーキと紅茶を、ヒロインちゃんはショートケーキと紅茶を注文した。
待ち時間の間にさっさと対応策を話し合って、後はじっくりケーキと紅茶を楽しめるようにしよう。
「それで、お茶に誘ったのには、、」
「あの、すみません。その前に確認したい事がございます」
「?何かしら?」
彼女の方から話しかけてくるなんて珍しいし、身分が上である私の話を遮るなんて。
それだけ大事なことって事だよね。
どこか張り詰めた空気をしていることに、自然と背筋が伸びる。
少し躊躇うような素振りをした後、彼女は引き締まった表情をして口を開いた。
「シャルロッテ様は、『日本』という国をご存知ですか?」
…へ?
一瞬、時が止まった。
「な、何で…」
「やっぱり、知ってるんですね」
どこか納得した表情をしている彼女に全く理解が出来なくて。
でも、どこかでその事実がストンっと腑に落ちている自分もいて。
「貴方も、転生者、なの…?」
「はい」
私は驚きで彼女を凝視してしまう。
転生者が私だけとは限らないのは確かにその通りなのだが、なんだか納得いかない。
「…ならなんで警戒していたの?」
「それはシャルロッテ様が私と同じなのか分からなくて」
まあ、そうだよね…。
確証がないと確認しづらいよね。
でも、どこで気が付いたんだろう?
「どうしてわかったの?」
「ショートケーキが決め手ですね」
「あ~…なるほど」
名前も見た目も同じスイーツを売り出しているのが、このお店しかないもんね。
そりゃあ、確信的だよね。
という事は、だよ?今までの悩みの種だったのが、マルッと解決するのでは?
「取り敢えずリリアーナ様?に、聞きたい事が私にもあるんだけど、『未来を君と共に』っていう乙女ゲームって知ってる?」
「知っていますよ。あと、私の事はリリィって呼んで下さい」
「じゃあ私も二人きりの時ならシャルでいいし、敬語もなくていいわ。それで聞くんだけど。……同担拒否派の人?」
これマジ大事。もし同担拒否派閥だったら、即戦争になる。確実に。
私自身は同担ウェルカムだからいいんだけど、彼女がどうなのか…。
「同担?全然オーケーよ!むしろ語りたい!私ポルクス様推しなんだけど、シャルは?」
「わ、私もー!!!」
異世界で同士に巡り合えるなんて…!
「本当?!ファンクラブには入った!?」
「入った!リアルポルクス様、ホントかっこよくない?!」
「わっかるぅー!!二次元クオリティーがそのまんま!むしろ現実の方がヤバイ」
「そうだよね!そうだよね!」
キャラたちが現実になったこの感覚を理解してくれる人がいるの、本当に嬉しい!
「あと襟足がエロい」
「そうなんだよぉ~…!」
「やっぱりシャルも、バッドエンドのスチルを見てポルクス様推しになった感じ?」
「そうだよ!でもあれはしょうがなくない?」
「それな!」
リリィちゃんの同意に全力で縦に首を振って賛同した。
この乙女ゲームにはそれぞれのキャラルートに対して2種類ずつのバッドエンドしているのだが、唯一ポルクス様ルートだけはヒロイン死亡エンドが存在する。そこで画面に映し出されるスチルが本当にヤバイ。
常に緩い雰囲気や口調のポルクス様が、喪服を着てヒロインのお墓を見ているのだが、普段の印象を覆すほどの儚さや寂寥感、孤独感は本当に言葉に出来ない。そしてその後、彼は独身を貫いてその生涯に幕を閉じた、という説明書きで締め括られていて、当時のポルクス様推しのプレイヤーの殆どはこのギャップにやられていた。
私もその一人。だから私は彼に幸せになって欲しいのだ。
「それで今後の事なんだけど、リリィちゃんはポルクス様を攻略してるって事でいいんだよね?」
「うん、そうなんだけど。シャルはそれでいいの?」
「私?私ガチ恋勢じゃないからさ。ただ推しが幸せになってくれたらいいよ」
それがヒロインであるリリィちゃんであれば、きっと彼は幸せになれるはずだ。
「じゃ、遠慮なく攻略しちゃうね!後で恨まないでよ?」
「ないから!安心して!」
「でもさ?これだけシナリオが変わってたら、ヒロインと言えどもただの男爵令嬢を好きになってくれるかな?」
「そう、だね…。でも、干ばつで苦しんでるっていう前提条件は変わってないから大丈夫じゃない?だからこのままストーリー通りに進むように頑張ればいいと思うよ?」
「ステータス上げ?」
「自分磨きって言おうね?」
「…そうね。ここはもう、ゲームじゃないもんね」
「うん」
そう。ここはゲームじゃない。れっきとした現実で一度きり、セーブデータもリセットもない。
私も今まで生きてきてもどこかふわふわとした感覚があったけど、今やっと、完全に理解できた気がする。
しかし完全にゲームとこの世界を切り離すことは出来そうにない。
「…リリィちゃんは今、ストーリーで言う所のどのあたりにいるの?」
「そうねぇ、まだチュートリアルが終わった所かな」
「全然だね…」
「仕方ないでしょ?このゲームのストーリー自体が三年間の学園生活でキャラを落とすっていう設定なんだから」
「それもそうなんだけど…他の攻略対象とはどうなの?」
リリィちゃんが彼らをどう考えているのか、聞いておきたいのだ。
私自身は他の人達も幸せになって欲しいと思って一応、調べてはいる。
先ず、カストル様。
彼もポルクス様と同様に悪役令嬢と婚約者になってはいない。
次に、第三王子殿下。
彼は原作では支援を理由に隣国の我が儘王女様と婚約者になるのだが、今の所そうなってはいない。
次に、チェスター君。
このゲームにおいての唯一、平民の攻略対象者。彼はストーカーお嬢様の婚約者にならざるを得ない状況にされるのだが、私が結果的に資金援助や物資提供をしたからかそうなってはいない。
その他にも第三王子の側近候補として騎士団長と魔法師団の息子がそれぞれいるのだが、彼らは干ばつとは関係のない政略結婚なので、この2人はこの世界でもゲームと同じように悪役令嬢と婚約していた。
だからこの世界でも苦労させられている攻略対象がいるので、私としては何かしてあげたいというのが正直な思いなんだけど、それにはヒロインであるリリィちゃんの協力が必要だと思っている。
彼女自身にやる気がなくても、自分の出来る範囲だけは頑張るつもりだけど、出来れば手伝ってほしい。
リリィちゃんを窺うように見ると、苦笑を返してきた。
「特に面識もないかな」
「どうするつもりなの?」
「困ってるんなら助けたいけど、男爵令嬢程度ではどうにもならないっていうのが正直なところかな。他家の問題に首突っ込むのって、この世界ではタブーでしょ?」
確かに彼女の言う通りだ。「男爵令嬢と伯爵令嬢如きに何ができるのか?」と言われたら、「ほとんど何
も出来ない」と返答することだろう。
でも。
「それでも私は、何もしないなんて出来ないよ…」
「うん、やっぱりそうなるよね!だからさ、協力しない?私、どのキャラも結構やり込んでるからさ、役に立つよ?そのうえで、同じ転生者で、お金持ちで、私より権力のあるシャルが味方になってくれたら絶対何とかなるでしょ!ね?」
「そうかも…!」
ウィンクを決めて笑う彼女は最高に可愛いんだけど、この時はとてもかっこよく映ったのだった。
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