3.装飾過多令嬢達が美人お嬢様に大変身しました
ヒロインちゃんが令嬢達に絡まれた週末の休日に街へと繰り出して、服飾店で彼女達に似合うブラウスと髪飾りを探して購入した。
上等な素材に装飾が控えめながらも華やかで上品に映る物を各々数種類ずつ。結構良い物を選べたと自分では思っている。
ブラウス等と一緒に「お近づきの印に是非どうぞ」という手紙も添えて彼女達に送る。
ミッレ伯爵は今とても注目されているからご両親に私と仲良くするように言われ、学園に身に着けた状態で接触してくることだろう。彼女達の心がどれだけ複雑であろうとも。
今後の事を考えると溜息が零れそうなんだけど。
週明けが憂鬱だわー…。
「ごきげんよう、シャルロッテ様」
「ごきげんよう、フィオーラ様」
クラスに到着して早々に挨拶をしてくれたのはフィオーラ・キュウスベリー侯爵令嬢。ミントグリーンの柔らかな髪に夕焼けのような綺麗な瞳をした美人さんだ。
キュウスベリー侯爵領は広大な耕作地を所有している為、干ばつによる多大な損害を受け、我が家から援助を受けている。
だから仲良くしようとしてくれているのか、ただ単に仲良くしたいのかが区別がつかないんだよね。
一応失礼にならない程度に話は合わせるけどさ。相手は侯爵令嬢だし。
他にも支援を望んでいるクラスメイト達に囲まれてお世辞を言われ続ける。瞳の奥に欲望のようなものが垣間見える気がしてあまりいい気分ではない。
それに我が家の資産にだって限りがあるから誰にでも支援が出来るわけではないし、それで家が破産したら元も子もない。
彼ら彼女らの気に障らないようにのらりくらりと躱しながら今日もチャイムが鳴るまでの時間を稼いだのだった。
午前の授業は王国学や魔法学の座学だった。
殆どが学習済みの内容なので早く実習に取り掛かりたいけど、カリキュラムだから仕方ないね。
午前授業が終わったら二時間の昼食休憩となる。本当に無駄に長いと思うの。
未だに仲の良い友人が出来てないから苦痛以外の何物でもない。攻略対象者達を探すのには良いんだけど、折角の学園生活でボッチというのは虚しい。
「シャルロッテ様はいらっしゃいますか?」
声のする教室後方扉の方へ振り替えると、そこには送り付けたブラウスと髪飾りを身に着けた令嬢達がいた。
彼女達はゴテゴテと装飾で飾り立てて長所をかき消している令嬢ではなく、上品な雰囲気を醸し出している美しい高貴な御令嬢へと変貌を遂げていた。
クラスの男子達も彼女達の麗しさに目が釘付けになってるよ。このまま視線を掻っ攫った状態だと男子全員が昼食に行けないわ。
「どうかなさいましたか?」
「ランチのお誘いに来ましたの」
…どうせ他の生徒と同じで支援のための交流希望だろうから断りたいけど、断れば角が立つよね…。
「分かりましたわ。一緒に食べましょう」
「ええ!では、行きましょう」
パッと顔に華を咲かせて学食へ向けて廊下を並んで歩いていく。その途中途中で彼女達を二度見三度見する男子生徒も結構多かった。
到着したカフェテリアでは四人掛けのテーブルへ座ってスタッフを呼び鈴で呼び、注文する。
私が何となくサンドウィッチのセットを選んだら、皆も同じものを注文。私に合わせずに普通に食べたいもの選んでくれていいんだよ?
教室と同じ居心地の悪さに出そうになる溜息を噛み殺しながら彼女達に話しかける。
「先ずはお互いに自己紹介を致しましょう?私はミッレ伯爵長女、シャルロッテ・ミッレと申します。よろしくお願い致しますわ」
「私はソフィール伯爵家長女、クレア・ソフィールと申しますわ。シャルロッテ様が選んで下さったデザインが凄く私好みで気に入りましたの!」
「わたくしはレイラ・メイベルですわ!仕方なくですから勘違いなさらないで下さいまし!」
「わ、私は、子爵家次女のスーリズ・ルージュミラ、と申します…。あの、ありがとうございます…」
と、それぞれに返事をしてくれた。
クレア様は黒髪茶眼のとても見慣れた色味をした方だけど、顔は大人っぽく落ち着いた雰囲気をしていて、レイラ様はクリーム色の綺麗な髪に水色の瞳が可愛らしい人。ちょっと口調がきついけど、頬を赤らめているからツンデレさんかな?
スーリズ様は茶髪茶眼でおとなしい控えめな感じ。守りたい系男子は放っておかない見た目だと思う。
先日見た時より確実に顔色もいいし、堂々としている感じがする。
何か眩しいわぁ~…こんなにも変わるとは思わなかったんだけど。
……いや、よく見ると化粧も服装に合うようなナチュラルメイクに変えてる!元が良いとこんなに変わるんかい!なんでああなってしまったのか謎過ぎる!
…やっぱり私を昼食に誘ったのは仲良くするように言われたからかなぁ…ヒロインちゃんの事もあるし、どうしたものかな…。
「先日は申し訳ございませんでした。その、私達の領地も干ばつの影響を受けて焦っておりましたわ。あのような品のない行動は以後致しませんので、ご容赦下さいませ」
ちゃんと反省してくれたみたいで良かった。
ヒロインちゃんにちょっかいを掛けるのは悪役令嬢達だけで十分だもの。心折れちゃったらストーリー的にマズいから、一応念押ししとこ。
「分かりましたわ。あの場面を他の方に見られでもしたら、きっと面白おかしく誇張して噂するに決まっていますもの。貴女方の品位を保つためにも、今後はなさらない方がいいと思います」
「それもそうですわ!急いては大物を逃してしまうかもしれませんもの!」
「その言い方は、どうかと思うよ…?」
「恋は戦でしてよ!」
「それもどうかと思うよぉ…」
「ウフフ…」
クスクスと笑ってふたりを眺めるクレア様に快活なレイラ様を諫めるスーリズ様。
…なんか普通だな。こうもっとさあ、「援助を!」みたいなのがあると思っていたんだけど。
「…皆さんは私に援助を求めませんのね?」
こういう時は直球で聞くに限る。
仲良くなってから「友人なのだから援助して当然よね?」とか言ってくると面倒だ。そういう人がクラスにいたから誰とも親しくならずにボッチ学園生活を送っているんだし。
私の問いに彼女達は顔を見合わせて困った表情をしている。
「援助して欲しいのが本音だけれど、それはあまりにも貴方に対して失礼ではないかしら?」
「ふん!わたくしはそんなに礼儀知らずではなくってよ!」
「わ、私も、そう思います」
ま、ま、ま、ま、ま、まともだー!!!!!
びっくりするくらいまともな思考回路してたよ!なのに!
「先日はなぜあのような?」
「それはその、……羨ましかったのよ!彼女が!」
「?というと?」
「私達はあの格好をするように両親から強制されていましたの。それで自分の思い描いていた学園生活を送れそうになくて、荒んでいて…。恥ずかしい限りですわ」
「…あんなにゴテゴテしたフリルも厚化粧も、とても恥ずかしくって…」
「そう、でしたの」
やっぱりそれぞれに事情があるよね。こんな世情だもん、仕方ないよ。ご両親も彼女達の将来を思ってのことだろうし。
空回りしてたけど。
「シャルロッテ様のお陰で好きな服装を自分で選んで学園に通う事が出来る事になりましたの!本当に感謝していますわ」
「それに関しては、ありがと!」
「ありがとう、ございます」
彼女達の清々しい笑顔を見れたから良かったとしよう。
予想に反して無理に距離を縮めようとしてこないから時々お話しする知り合いくらいにはなれそうだし。
その後運ばれてきた昼食を食べながらおしゃべりをして教室に戻った。
学園生活始まって以降初めて、昼休憩を楽しく過ごすことができました。
説明が分かりづらくて申し訳ないのですが。
・シャルロッテはすっごいお金持ち
・主人公と仲良くなって援助して欲しい
・なら助言されたことにおとなしく従って、贈り物を身に着けて友好アピールするのは当然
という経緯で令嬢達がブラウスなどを身に着ける事になりました。
ちゃんと良い物を贈っているので、結構気に入って使ってくれています。
本日中にもう二話投稿予定です。