2.前途多難なスタートを切ってしまった…
「貴方、このように派手な格好をするのはいかがなものかと思いますわよ!」
令嬢の甲高い怒りの声が聞こえてきた。
ポルクス様ファンクラブ会員にやっとなれたうえに、攻略対象で推しのポールスト兄弟を遠目から眺められてルンルン気分だったのに最悪だよ!
誰だ?私の気分をダダ下がりさせた令嬢は!
文句を言う為に話し声の聞こえる方へ歩いていくとそこにいたのはどこか見覚えのあるふわっふわっのピンクブロンドの髪に桜色の柔らかい瞳をした可愛らしい令嬢と、派手に着飾ったけばけばしい令嬢達だった。
…何か見たことあるような、ないような…。ピンクの髪に瞳…この世界では初めてな、よう、な…。
……………ってもしかしてヒロインちゃん?!
「貴方達、何をしていますの!」
「!ごきげんよう、シャルロッテ様。見て下さいませ、この者の制服を!」
「制服がどうかしたのかしら?」
「派手過ぎませんこと?もっと控えめな装飾が施されたものを取り入れるべきだと思いませんか?」
ああ~…、身分が下の人間が自分より良い物を身に着けているのが納得できないってやつ?確かにヒロインちゃんが着てるブラウスは良質なシルク生地に大きなフリルが付いてて可愛らしいけど、それ以外に目立った装飾はない。
多分だけど狙ってる令息が彼女の事話してたんだろうな。
ヒロインちゃんの領地は主な産業が鉱山から採れる鉄や宝石で整備された街道を利用する商人達からの通行税が財政源だから領地経営には干ばつの被害がない設定だし。それにこの世界では商売にも手を広げていて繁盛しているようだし。
でもこんなやり方、見られた瞬間に幻滅されちゃうよ?
「いいえ?彼女にとても似合っていると思いますわよ?寧ろ貴方達の方が控えめにするべきじゃないかしら」
ゴテゴテと着飾ってこんな事して、本当に勿体ない。
それぞれの魅力を引き出すようにコーディネートすれば、良い家柄の男性から婚約を申し込まれると思うんだけど。
皆ド派手に着飾って資金力のアピール合戦をしているから差別化されて普通にモテると思う。
でも、必死に考えて頑張った結果、こうなっちゃったんだろうなぁ。
「貴女方は元々綺麗なお顔立ちをしていらっしゃるのですから、更に着飾る必要がありまして?特に貴女は装飾の控えめな清楚なブラウスにしてはいかがでしょう?そして貴女は彼女のような大きなフリルの付いた可愛らしい物が似合いますわね。そして貴女はもっと上品なデザインの物の方がいいのではないかしら?」
うん、その方が絶対に似合うわ。元が良いから言える事なんですけどね?
でも彼女達は納得できなかったみたい。顔が真っ赤になって震えてるわ。
「そんなこと…!…誰もがシャルロッテ様のようにはいきませんのよ」
「そうですわ!わたくしも、わたくしだって…!」
怒りではなかったみたい。彼女達も自分の着たい服があるけど家のために我慢しているのね。
青春時代を着たくもない服装で過ごしてもし棒に振ることになったら、悲惨よね…。
…よし!決めた!
「彼女には私から言い含めておきます。それと、貴女方に似合う物を後日送りますわ」
「?!ありがとう、ございます…。ですが、」
「!!施しのつもりですの?!」
「いいえ?私が貴女方に似合う物を勝手に購入して送りつけるだけですから、何の問題もないでしょう?」
「ありがとうございます…!」
彼女達は嬉しそうな、けれど複雑そうな表情をしていたが、何とか感情を抑えてもらってこの場は解散になった。ただ、涙目になって喜ぶってよっぽどよね…。
この身に着けている装飾品で人の価値を図る風潮を今すぐやめるべきでしょ。その根底には飢饉への不安があるんでしょうけど。
「あの、ありがとうございました」
…ヒロインちゃんの事すっかり忘れてたわ。
慌ててそちらに振り向くと眉を下げて困った顔をしていた。
…近くで見るとすっごく可愛いな!流石ヒロインだわ!
「いいのよ、気にしないで!私はミッレ伯爵家長女、シャルロッテ・ミッレよ。よろしくね?」
「私はレバン男爵家長女、リリアーナ・レバンと申します。宜しくお願い致します」
名前はリリアーナ・レバンなのね。
ゲームだとプレイヤー名を自分で決められたから、知れてよかったわ。
「今は皆余裕がなくて神経質になってしまっているから、許してあげて欲しいの。ごめんなさいね」
「…シャルロッテ様は悪くないではありませんか。それに、仕方ない事だって理解していますから」
「…何かあったらいつでも私に相談してね?力になれると思うの」
「はい、ありがとうございます」
う~ん、彼女達を庇ったのが良くなかったかも。信用されてないっぽい。
でもなあ、それぞれ事情ってものがあるから非難するのはちょっと気が引けたんだよね。
このストーリー開始の仕方は、ちょっと前途多難かも…?