まひろくんの紙飛行機は音速で飛ぶ
「まひろくん、好き。」
勇気を出して琴羽が告げると、まひろの表情が一瞬無になった。
でもそれは本当に一瞬で、まひろは困ったような顔になる。
「ありがとう、琴羽ちゃん。」
そして、その言葉とともに嬉しそうな顔に変わった。
「でも、なんで?」
「この前、具合が悪いときに助けてくれたから。ずっと背中撫でててくれたでしょ?
とっても温かい手で。」
「あぁ。そんなこと。ボクの手はカイロになるから。」
ニコニコ嬉しそうな顔をしているまひろ。
なのに、声や言葉に温度を感じなくて琴羽はぞくっとする。
理科の時間、みんなで紙飛行機を作ることになった。琴羽はチラリとまひろを見た。
(え!?)琴羽はぎょっとする。まひろの瞳には目盛りがあったのだ。
瞳孔が大きく開いて、そのなかに細かい線が等間隔に入っている。
(そんなことあるわけない。)琴羽は一度ぎゅっと目をつぶってもう一度まひろを見た。
まひろと目が合って、まひろが小首をかしげてニコッとする。
(気のせい…だった?)琴羽は混乱した。
紙飛行機を作るまひろは、他のクラスメートのようなワクワク感をまるで感じさせない。
けれども、だからと言ってつまらなそうでもない。授業で作ることになったから
淡々と作る作業をしているように見える。
果たして出来上がったまひろの紙飛行機は、誰の紙飛行機よりもきれいだった。
細身で正確に左右対称な機体は折り目もきっちりしていて歪みがなかった。
翼の両端が少しカールしていたが、そのカールさえ全く同じに見えた。
「さあ、じゃあみんなで飛行機を飛ばしてみましょう。」
先生の声で、みんな一斉に空へと飛行機を飛ばす。
作が雑なものは手から離れた途端に地面に落ちた。
そんな中、まひろの飛行機は真っ直ぐ遠くへ飛んで行った。
「わぁ、すごい!」
みんなが拍手する。まひろは照れた顔でぺこりとお辞儀をした。
それぞれ自分が飛ばした紙飛行機を拾って教室へ戻る。
まひろの飛行機は遠くまで飛んだので、拾いに行くのに時間が掛かる。
琴羽はそんなまひろを待っていた。
「まひろくんすごいね。すごくきれいな紙飛行機だね。
まひろくんて、目の中で長さ測れるの?」
「やっぱり見られたか。測れるよ。それにホントはもっと力もあるよ。」
そう言うと、まひろはもう一度飛行機を飛ばした。さっきの比じゃない速度で。
ひゅんと空気を切り裂く音で、紙飛行機が飛ぶ。
「ボクがアンドロイドなのは内緒ね。」
まひろが熱のない声で言った。