3rdファイル:VS『猟奇霊』
【前回のあらすじ】
松原文乃は、霊に襲われていたところを、『霊が視えない霊能探偵』で男装女子である、神園 輝 に救われる。
輝から『霊的な存在による封鎖結界』、通称『鳥籠』に囚われてしまっていると伝えられた文乃は、鳥籠から出るため…友人を守るために、渋々輝に協力することとなるのだった。
霊を捜索中………
「……で、結局探偵さんはなんなんだ。」
「さっきの名刺に書いてあるじゃん?」
「そういう事じゃなくて!
もっと詳しい説明が欲しいって言ってるんだよ!」
「…あんまり人に話すようなことでもないんだよ。
君も知っての通り、霊に対して人は基本的に何も出来ない…そういう風な認識が一般常識だからね。」
「そう!なのに貴方は霊を倒してたじゃないか。
上から支給された銃って言ってたが…」
「あぁ、うん…そっからか…これ外に情報漏らしたらダメだよ?」
「……分かった。」
そう言うと、探偵さんは説明を始める。
「まず、僕たち霊能探偵は、普通の人では対処出来ないような害意を持った霊を除霊するのがお仕事だ。
そして霊能探偵は『悪霊対策本部』っていうお国からの組織の管轄下にある組織なんだ。」
「…にわかには信じ難い話だな…」
「そりゃそうさ、これらの存在は徹底的に世間からは秘匿されてるからね。」
「…知られててもいいような気もするけど。
こう…ヒーローみたいなもんで人気も出ると思うんだが。」
「………いるんだよ、『アイツらが夜出てるなら俺達も夜出ても大丈夫だろ〜www』……みたいに考えるやつがね。」
「…あぁ…」
正直、分からなくはないと思ってしまった。
現代日本、誰かがダメなことをやっているのを見たら一緒にやりたくなってしまうということはよくある。
『赤信号、みんなで渡れば怖くない』理論である。
まぁそんなことしたらどうなるかオチは見え見えだけど。
「だからこそ、僕達が夜動いて朝と昼間の安全を確保するのがお仕事って訳。」
「…でも、探偵さんって霊が見えないんだよな。
お仕事できてるのか?」
「少年、世の中には知っていいことと悪いことがあるんだよ。」
「…もしかしてあんまり仕事出来てないんじゃ」
「少年。」
「はい。」
「怒るよ。」
「………俺と多分そんなに歳変わんないくせに…」
「なんか言ったかい?」
「なんでもないっす…」
…この人に除霊を任せるの、一気に不安になってきた。
「…にしても、気配すらも感じないね、撃たれたのが初めてで驚いて逃げおおせてるのかな?」
「そりゃそうだろ…」
日本人ですら発砲とは無縁の生活を送ってるんだ、霊も尚更そうだろうに。
「…!……」
「?どうかしたかい、少年。」
「…この教室、俺のクラスの教室だ。」
「ふむ……そういえば君が『鳥籠』に囚われた入口もここだったね」
───あの時の悪寒が、背筋に走る。
「っ…近くに、いる…!?」
「…なるほど、霊っていうのはその死んだ場所に縛られていることが多い。
恨み辛みがあるなら尚のこと…
少年、君を襲った霊はどんな見た目だった?」
「……口が裂けていて、手には鎌を持ってました。」
「ふむ…ではその霊のことを今回は『猟奇霊』と仮定しようか。」
「言ってる場合ですか!もう何処かに居るってことなのに…!」
「だからこそ…少年がみてくれないと共死にになってしまうんだ、落ち着いて、深呼吸して…よく周りを見るんだ。」
「そんなこと言ったって…!」
さっき俺は、その『猟奇霊』とやらに目の前で殺されかけたんだ…まだ、あの恐怖が拭えていない。
「落ち着いて考えて。その恐怖は霊に対抗できないからこその恐怖だ。
でも…今は僕がいる、霊に対抗出来る方法がある。
そのためにも…君が目になってくれないと。」
「っ……すぅぅぅぅ…はぁぁぁぁ……」
深呼吸して、頭を冷やす。
…空気が張り詰める。
静寂が空間を支配する。
教室には…いない。
自分の後方にも…いない。
廊下側……いない。
探偵さん側……!
「探偵さん!後ろだ!!」
「!」
「◇◇□□■◆▽▽▲◇◇◇!!!」
今まさに霊が持っている鎌を探偵さんに振り下ろされそうになっていたその時…
「ふ…っ!!!」
少し肩を斬られながらも、探偵さんは鋭い拳で霊の腹に一撃を入れる…え?
「…えっ、霊、殴っ………」
…物理的攻撃通用しないのはわかる。
そして、霊に対抗する為の銃で攻撃が通用するのも…まぁわかる。
なんで素手で効いて…!?
「驚いてるところ悪いんだけど、続いて場所を教えてくれないかな!」
「っ、探偵さんの目の前にまだいる!」
「了解!」
探偵さんは先程の銃を再度霊に対して構える。
「▽▽■──□▼!!!?」
霊はそれを見てマズいと思ったのか、また逃げようと姿を隠そうとする。
「探偵さん!アイツまた消えて逃げる!」
「ワープするタイプか……!逃がさないよ……!」
探偵さんが一瞬で拳銃を1発を撃つ。
今度は霊の脚が消し飛んだのが見え、そのまままた姿を消した。
「っ、逃げられ、た……!?」
「ダメか、これじゃ埒が明かないな…しょうがない。」
窓から探偵さんが教室の中に入っていく。
「な、何して…!さっきの話じゃそこが霊の本拠地だって……」
「ほら少年、君も早く来て。策ならあるよ。」
「………めちゃくちゃ嫌ですけど…しょうがないな…」
自分も窓から教室に入る。
先ほど以上に嫌な空気が感覚を支配してくる。
「…!」
「◆●◆●▲◆▼□◇…………」
唸るように霊が目の前に現れる。
「いる、目の、前に……!」
「さて、デスマッチと行こうか。」
探偵さんがサイコロのようなものを地面に投げると…ソレが光り、薄い緑色の光を教室を包むような形で展開される。
「▲▼◆■●▼▼▼▽!?」
「これは……?」
「上が開発した人工的な『鳥籠』だよ。霊にも効く…ね。
どうだい?今まで捕まえるだけだったのに、逆に捕まえられた気分は。」
「●▲●■◆◇●▼◇!!!」
霊は怒り狂うような声を上げ、再び探偵さんに襲いかかってくる。
「前から来てます!」
「1……」
また探偵さんが素早く射撃をし、受けた幽霊は姿を消す。
「次頼むよ!」
「えっと……!右!」
「2!」
2発目の弾丸は霊に避けられ、また姿を消す。
……さっき見た感じ、探偵さんの持ってる銃は…俗に言うリボルバーで弾数が多分6発。
さっきので1発、今戦闘したので2発…あと3発しかない……!?
「探偵さん!あんたあと3発しか…」
「……じゃあ簡単な話だ。
僕の3発を耐えしのげば霊の勝ち、3発以内に霊をぶち抜ければ僕の勝ち。
単純明快で…いいじゃあないか!」
「▽▽▽■□◎※◎◎─※▽◇▽▽!!!」
「っ!?」
霊もそれを理解したのか、フェイントみたいに消えて現れを繰り返し、見えている俺を翻弄してくる。
「っ、右っいや、左っ……!?」
「なるほど、小賢しいね。」
探偵さんは惑わされて2発射撃してしまった。
…あと、1発。
「■●■■※※※◎◇□◆!!!」
霊は俺たちを嘲り笑うように現れ、消えを繰り返している。
「……少年…後1発だよ。」
「わ、わかってるって……!」
……ダメだ、目が追いつけない…俺には…
「少年!!!」
探偵さんが、急に大きな声を出す。
「っ……!?」
「………見るんじゃない、『視』るんだ。」
「み、視る…?見るんじゃなくて…?何が違うんだよ…」
「視界で見るだけじゃない…感覚でも感じるんだ。」
「感覚…………」
……考えろ、アイツは残りの1発を撃つのを待ってる…
でも、撃たなかったら…?
もしかしたら、耐えきれずに攻撃してくるかもしれない。
「………………」
「少年?おーい、しょうねーん。」
「▲■◎▽▽─※※+●▽▼●!!!」
痺れを切らしたのか、霊が正面から鎌を振り上げ、襲いかかってくる…!
「っ……!」
「!?少年!?」
それを俺は…正面から肩に受ける形で霊の持つ鎌を受け止める!
激しい痛みが身体を駆け巡る。
「っっっっ………探偵さん!!!」
「▽▲◎◆■─◎※■+!!!???」
「…………本当に君は……はっ、大好きだよそういうの!」
パァンッ!!!
最後の1発が、霊体の脳天を撃ち抜く。
「◎▲◎▲◎◆─▽▽─●◎─◎◎─◎─+─◎!!!!!!!」
「っっっ……」
脳天に響くような悲鳴を上げながら、霊体がゆっくりと消えていく。
しかし今度は逃げるような消え方ではなく…完全に消滅するような消え方だった。
しかし…この斬られた痛みは、やはり消えない。
「……っ……は、っぐ、ぁぁぁぁぁ……!!!」
「動くな少年!今応急処置をする!」
探偵さんは慣れた手つきで俺の傷を応急処置をし、少しの間休憩することとなった。
『鳥籠』は無事に消え去り、俺たちは学校から抜け出した。
「後でしっかりと病院に行きたまえ、少年。」
「…うす。」
「後、今回のことは…」
「他言無用だろ、わかってるよ。」
「なら良かった。
……さて、それじゃあ僕はこの辺で…また縁があればね。」
「…うっす…まぁ、その…色々ありがとうございました。」
「うんうん……少年よ、今夜のことはすっぱり忘れて…それから、夜更かししすぎも良くないよ。
それじゃ〜ね。」
「…………」
探偵さんは、朝日が登る方にゆっくりと歩いて去っていった。
こうして俺は、夏休みの宿題と…探偵さんの名刺。
そして…夜の世界に残された数多くの謎を手に、帰路に着くのだった。
次回
『4thファイル:零能探偵事務所』