24:エルフ、勝利を祝う(4)
気分転換にと、唐揚げとフライドポテトを頼んだのだが、これが話題を切り替える良い材料となった。
「土江、お前は唐揚げにはレモン汁を垂れ流しにする派か?」
「いや、俺は唐辛子とマヨネーズを付けてピリ辛派にするよ。小田さんは?」
「えっと……唐揚げにはポン酢を掛けます」
「おお、割と渋いね。田城、右にある唐辛子とマヨネーズ、それからポン酢の容器取ってくれ」
「あいよ。先に小田さんからね」
唐揚げを小皿に分けておく。
こうすることで、各々が好きな調味料を使って食べることができる。
いきなり唐揚げにレモンを掛けるような真似をしたら怒る予定だったが、流石に田城は食に関してはふざけたりするような人間じゃなかった。
カリッカリに揚げられた唐揚げだ。
一口食べる度に、衣と肉汁が口の中に染みわたる。
―じゅわぁっ
熱々で美味しい。
「うーん、うまいなコレ」
「だろ?唐揚げ専用の装置を使っているらしいぜ」
「マジか、確かに最近唐揚げに力を入れているとかで話題になっていたよな」
「本当に、衣が乗っていて美味しいですね……」
カリカリの食感。
そして熱々のから揚げ。
実にうまい。
美味しくて涙が出てきそう。
おつまみにと頼んでみたが、これはおつまみではなく立派な夕食のメニューとして抜擢できそうだ。
「これだけ美味しいと白米と一緒に食べたいな」
「おっ、なんだ土江……ご飯頼むのか?」
「うん、なんだか白米も食べたくなってきたんだよ。ついでに冷奴も」
「冷たい奴と書いて冷奴か……なんか外国人がクールな人間って意味だと思って刺青に入れちゃったエピソードあったな」
「冷奴を刺青としていれたのか……何というか、それ意味知ったら卒倒しそうだな」
「まぁ、刺青入れるのは本人の自由意思さ……」
「そうだねぇ……しかし、自由意思であるなら、このエルフの身体もどうにか出来ないものかね?」
「いやー……それが出来たら苦労はしないんじゃないですかね?」
「だよねー」
これが自由にエルフになったり、元に戻ったりすることができれば、それはそれで苦労はしないだろう。
しかしながら、エルフになってしまった身体では、居酒屋で飲んで食べているだけでも注目の的になってしまっている。
ここで座って飲んでいる間にも、外国人観光客と思われる人達がやってきて、写真撮影してもいいかと尋ねられたほどだ。
俺は「いいですよ」とにこやかに挨拶して写真撮影を許可したけど、冷静に考えたら後でSNSに写真を上げられる可能性が高いことに気が付いたが、時すでに遅し。
まぁ、目立つ見た目だから仕方ないけどね。
エルフ特有の長い耳が無意識のうちに動いていたらしい。
田城が不思議そうな顔をして指摘してくれていた。
「おいおい、土江……その耳って自由に動くのか?」
「ん?耳って……ああ、これ動いていたのか?」
「おおう、そりゃもうピコピコ動いていたぞ。まるで猫みたいにひくひくと動いていたわ」
「そんなに?!」
「ええ、けっこう見てみると声の出している方向に耳が動いている感じですね、近くでみると結構動いていますよ」
「マジっすか……」
「映像で確認してみます?」
「ああ、お願いします」
衝撃の事実。
小田さんがスマートフォンで俺の顔を10秒ほど撮影したのを見せてくれたのだが、声を出している方向に確かに耳が動いている。
犬や猫に関してはじっくりと見たことはないのだが、言われてみれば確かに猫みたいにぴくぴく動いている。
そんな様子を見て、小田さんが呟いた。
「なんだかよく見てみると……可愛いですね」
「可愛い?」
「だって、こうしてみると耳が音に合わせて動いているのって、なんだか可愛いなぁと思って……」
「そんなに可愛いですかね?」
「いや、本当に可愛いですってば!」
声に反応してぴくぴくと動いているのは分かる。
だが、ここまで動いているとは予想だにしていないことでもあった。
小田さんは可愛いと言うし、田城は田城で「うーん、また土江のチャームポイントが増えてしまったな」と呟いていた。
俺ってそんなに目立つもんかね?(今更だけど)




