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2:エルフ、まだ慌てる時間ではないと冷静に分析する

 ソファーに腰掛けた俺は深呼吸をした。


「すぅーっ……はぁーっ……すぅーっ……はぁーっ……うし、ちょっとは落ち着いたかな」


 落ち着く時間が必要だ。


 深呼吸をして、状況を頭で整理する。


 一文で今の自分を説明をしよう。


『朝起きたら、自分の身体が女性のエルフになっていた』


 うむ。


 これはひどい。


 自分に身に起こった出来事とはいえ、信じ難い話だ。


 ネット掲示板の相談コーナーに、ありのまま起こったことを話しても信じてはもらえないだろう。


 仮に返信を貰ったとしても、大半が「嘘やろ」「それだったら証拠として身体の写真アップロードしろ」「汝、下着の色は何色か?」といったコメントしか返してこないだろうな。


 それか、今俺が見えている世界が異質なものになってしまい、実際には変化していないという事も考えられる。


 精神的な病で、自分の身体が別人のものになっていると錯覚する現象が起こる事が稀にあるらしい。


(いや、それにしても胸の弾力までは再現はできないはずだ……となれば、妄想妄言やそれを引き起こすような精神的な問題の類ではない……という事になるな……)


 それを証明するためにスマートフォンのカメラを使って、念のため自分自身の身体が映り込むように写真を撮影する。


 ――パシャというシャッター音と共に、スマホの画面に映し出されたのは、冴えない男ではなく洗面台の鏡で見たエルフの美女が映っている。


 あっけない程に、自分自身が納得してしまった。


 こんなマンガやアニメでしか見たことがないような体験をしてしまうなんて……。


 一昔前に流行した転生系小説とか、漫画にも男性が女性やモンスターの身体に入れ替わってしまう話ってあったよね?


 とはいえ……異世界に転生したわけでもない、つまるところ……。


「ああ、やっぱり……俺、朝起きたらエルフになっちゃったんだな……あぁん……なんでなったのか分からないけど……」


 かつて、伝説の実写作品と謳われたアクション映画において、普通の高校生だった主人公が図らずも怪物になってしまい、怪物になったことを自覚するシーンみたいな台詞が自分の口から飛び出した。


 それはあまりにも素っ気ないを通り越して棒読みな台詞や、スタッフや出演者の悪ふざけを含めて、悪い意味で伝説になった作品なのだが……。


 今の俺にはそんな棒読みな台詞ですら、色っぽい声のせいでキャラクターの特徴みたいな感じになっている節すら出てくる。


 もしかしたら、エルフの身体になった事で身体面以外で何かしらの効果が起きているのかもしれない。


 ファンタジーゲームでお決まりともいうべきエルフの特徴といえば、やはり耳が長くて長寿、そんでもって弓矢などの射撃能力に優れているはずだ。


「でも、射撃に関しては現代日本で必要な技術ではないよねソレ……耳が良いから役立つ仕事もあるかもしれないけど……」


 生憎、今の仕事で生かせるかと言えば生かせないだろう。


 俺の仕事の主戦場はデスクに向かって一日10時間以上座って事務作業をこなすだけだ……。


 パソコンのモニター画面と睨めっこしながらキーボード入力を行う。


 ただ口うるさくて女性社員にセクハラ行為をすることが生き甲斐のクソ上司から言われる作業に従うだけの仕事……。


 仮に射撃の才能があれば、その上司のこめかみに鉛玉を喰らわせたほうが色んな意味で早いのかもな。


「本当に、これからどうしたらいいのか……分からないなぁ……このままだったら色々とマズいな……」


 仮に、この姿が戻らないとなれば今後どうするか真剣に考えないといけない。


 一時的な現象であれば、また元に戻った際に『変な体験をしちゃったなぁ~あははは』と笑って過ごせるかもしれない。


 ……だが、今後このままの姿だったらどうなるか?


 まず、間違いなく会社に出社したら「誰だコイツ」となるのは避けられない。


 おまけに人間からエルフになるというとんでもない事態な故に、会社の同僚やクソ上司も俺に対してどうしていいのか分からない扱いになる事は間違いない。


 その上、免許証や役所に登録されている性別が「男」なので、これを「女」に変更しなければならない。


 さらに言えば、エルフということもあって免許証に使われている写真よりも、顔も身体も大きく違ってしまっているので変更は必須だ。


 性別が変わるという事は、それだけお役所手続きとしても面倒くさいことこの上ないのだ。


「はぁ~……ホントどうしようか……」


 今後の事を考えると思わずため息が出てしまう。


 あ、よく考えたら今吐き出している息はエルフの吐息になるのかな?


 エルフの吐息なんて、多分だれも吸ったことは無いだろう。


 というか、エルフとしての存在が恐らく世界で初めて認められる可能性も帯びてきた。


 冷静に考えると、ファンタジーの存在であるエルフとなって俺の身体が具現化したとすれば……世界初なのでは?


 歴史的快挙かな……?


 いや、これ偶発的な事故なのかすら分からないケド。


 少しでもポジティブに考えようとする。


 しかし、ポジティブに考えたところで問題が生じてしまう。


「しかし……胸の辺りがきついな……改めて見てみると、ホント支えていないとつっかえるな……」


 そう、今問題なのはボイン、ボインと揺れる程の巨大な胸だ。


 エルフ特有の長い耳とかは、まだ帽子とか被せたり髪を下げておけば何とかなる。


 だが、この胸は隠しようがない。


 服の上からでも、大きいなと分かる程のデカさだ。


 エルフとはいえ女性の身体になったということは……つまるところ、胸を支える下着が必要という事だ。


 現時点で胸が大きい上に、ダンベルに引っ張られているような感覚があるぐらいには胸の辺りが苦しい。


(目立つ上に、前屈みになったり腕で隠すわけにはいかないからな……それに、ブラジャーなんて買ったこともないし……)


 まずは、この巨大な胸を支えるブラジャーを買いに行く必要がある。


 胸の大きい女性が苦労しているという話を聞いたことがあるが、いざ自分がその様な状況に置かれると、その苦労を身をもって実感する。


 他人に見られるかもしれないが、ネットショッピングとかで買うにしてもサイズを測ったりしたことのない現状では、女性向けの下着を取り扱っている服屋に行って計測して買うのが手っ取り早い。


 周囲から巨乳を見られることよりも、1リットル入りのペットボトルを両胸に抱えているような感覚をどうにかして楽にしたい気持ちが上回る。


「とりあえずブラジャーを買いに近所のお店へ行くか……」


 俺は意を決してブラジャーを買いにいくために立ち上がった。


 男物の服しかないが服はまだ男物でもいいし、帽子を被った上で長い耳も前髪などを整えて隠すようにすればいい感じに人間の女性と変わりない感じに見える。


 とはいえ、Tシャツの上からでも目立ってしまう胸の為、ブラジャーの代わりにさらしをぐるぐると胸に巻いて出かけることにした。

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