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16:エルフ VS セクハラ上司(2)

「二糖部長、それは結構です。私の身体は自分自身で診ます」

「ほう……しかしそれでは後になって……」

「困ることもあるかもしれません。ですが、今は大丈夫です。お気持ちだけで結構です」


 もうたくさんだ。


 これ以上このセクハラ上司に付き合っている暇はない。


 会議室を出ようとした際に、二糖は何を思ったのか会議室のドアを開けようとした俺の右手をガシッと掴んできた。


「!いきなり何をするんですか?!」

「土江君、君は少し興奮しすぎだ。明らかに錯乱しているような感じではないのかね?」

「錯乱なんてしていませんよ!だから大丈夫ですってば!」

「まぁまぁ、そう言わずに……」


 二糖は、話を続けようとする。


 というか、こいつの手がかなりガッチリ掴んでいるせいか全然振りほどけない!


 目をチラリと見てみる。


 コイツの目は笑っていない。


 気持ち悪い笑みを浮かべながら、俺を狙っているんだ!


「いいかね、私は部長だ。このオフィスの決定権は私にあるんだよ」

「ええ、それは知っていますよ!だからといってこれ以上干渉するのはプライバシーの侵害ですよ!やめてください!」

「土江君……私の裁量で君の行動が会社にとって相応しくないと判定することも出来るんだよ?」

「……!」

「ふふふっ、土江君、嫌じゃないのかね?職を失って後悔するのは自分自身だよ」

「二糖部長……貴方って人は……」

「土江君、君は何も動かなくていい。私が()()()()()()時にジッとしていればいいんだ。それだけで君は会社に残る事が出来るのだよ」

「それはッ……脅迫じゃないですか!」

「ふふっ、断れば君は解雇されるのだ……私の言う通りにしていればいいのだよ」


 とうとう、二糖は一線を超える発言をしてきた。


 つまるところ、彼のいう事を聞かなければ解雇するという事だ。


 あまりにも許されない。


 そして、これまでに多くの女性の新人社員が会社を自己都合による退職を余儀なくされたのは……!


 目の前にいる男に脅迫をされたのだろう。


 セクハラを受け入れるか、解雇されるかのどちらか……。


 大半が泣き寝入りだったに違いない。


(こいつのせいで……多くの女性社員が……本当にどうしようもない人間だよ……)


 こみ上げてくる怒り。


 どうにかして、このセクハラ上司を懲らしめなければ。


 俺の内心は溶岩のようにぐつぐつと煮えくり返っている状態だ。


 しかし、暴力的な手段で訴えればこちらが不利になる。


 万が一警察がやってきた場合、俺を信じて釈放してくれた枝葉さんにも迷惑をかけてしまうかもしれない。


 既に枝葉さんには魔法が使えるという事を話してしまっている。


 魔法が使ったことが明るみになったら、彼女にも迷惑がかかる上に、下手をしたら傷害罪で捕まってしまうだろう。


 今は釈放されているとはいえ、警察がその気になれば逮捕することだってできる。


(とはいえ、このピンチを切り抜けるには……魔法を使うしかないか……)


 結論からして、なるべく()()な感じにやるしかない。


 故意でやったのではなく、()()()に引き起こされたように装う。


 これしか方法がない。


 必死に考える間にも、二糖が俺の身体に手を寄せてくる。


 すごく鼻息が荒くなっているのが分かる。


 鼻息だけで前髪がふわっと動くぐらいには顔が近い。


 もう少しだけ辛抱しろ!


 目だけを動かして、会議室をパッと見渡す。


 使える物……使える物……。


 ……あった!


 目線の先にあったのは天井に取り付けてあるスプリンクラー。


 この危機的状況を打開するには、これを作動させるしかない。


 しかし、炎魔法を直射してフロア全体を火の海にしたらそれこそ大惨事に繋がりかねない。


 心の中で、ライターの火がスプリンクラーの手前で着火するのをイメージしておく。


 こうすることで、火炎放射器から放出されるような火力にならないように調整することが出来るはずだ。


 ちょうど二糖がもう俺が逃れられないと思っているのか、勝利を確信してズボンのチャックを開けてベルトを緩めている。


 やるなら今だ!


 小声で呟く。


灯火(とうか)(小声)」


 すると、イメージ通りにスプリンクラーからちょっと手前ぐらいに、ライターの火のような灯りが一瞬だけ灯された。


 そして、次の瞬間に会議室からけたたましい警報音が鳴り響いた。


 ジリリリリリリリリリリリッ!!!!!


 それと同時に、会議室内をスプリンクラーの水が噴き出して大量に水を放水してくる。


 ぷしゃああああああああっ!!!!


「う、うわあああああああ!なんだなんだなんだ!!!」


 突然のスプリンクラーの作動にパニックになる二糖。


 俺はそのチャンスを見逃すはずもなく、二糖が離れた一瞬の隙をついて扉を開ける。


 そし一目散に会議室から逃げ出した。


 スプリンクラーの作動によって警報音が鳴り響くフロア全体が、会議室の方を見てきた。


 俺は叫んだ。


「スプリンクラーが!みんな!来てくれ!」


 その言葉に真っ先に反応して駆け付けたのが田城だった。


 やはり俺が呼び出された際に、何かされると思っていたのだろう。


 真っ先に駆けつけてくれた田城は俺の名前を叫んだ。


「無事かドエロッ!一体何があった?!」

「ああ、田城!二糖部長が……」

「あのセクハラ製造機が何かやらかしたのか?!」

「うん……あれを見てほしいんだ……」

「えっ……?マジ?何あれ……?ええ……」


 俺が会議室の方向に指差しをする。


 会議室では、ベルトが脱げ落ちてズボンだけではなく、パンツまでずり落ちてしまった二糖部長の姿があった。


 スプリンクラーの水をモロに浴びて、全身がずぶ濡れになっている。


 彼は突然作動した(俺が作動させた)スプリンクラーに対して、怒りをぶつけていた。


「畜生!畜生!一体どうなっているんだ!あとちょっとで良い所だったのにッ!!!」


 数々のセクハラ行為に対して咎めていた田城ですら、パンツが脱げていた状況を見て、言葉を失う。


 そして状況を察してくれたようだ。


 怒り狂う部長をよそに、騒ぎを聞きつけて周りに人が集まったところで、俺は声を滲ませながら呟いた。


「部長に……部長に乱暴されそうになったんだ……」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 部長に乱暴されたというよりは、ただ「セクハラされた」でよくないかと。なんか「乱暴された」だとなんか変な感じがするし。 あと、声を滲ませるよりは声に怒りを滲ませるの方がいい気がする。あま…
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