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10:エルフ、会社に出勤する(1)

 ★ ★ ★


 鳥のさえずり声で目が覚める。


 朝が来た。


 朝がきてしまった。


 昨日は枝葉さんに覆面パトカーに乗せてもらって帰宅した後、疲れがドッと押し寄せたので午後9時には眠ってしまった。


 午後9時に寝るなんて小学生の時以来だ。


 怒涛の展開だったなと思いながら、ひょっとしたら一回眠れば解決するんじゃないかと僅かな望みがあったが、それは敵わなかった。


「あー……やっぱエルフのままだわ……」


 胸と耳の感触で分かる。


 起きてすぐに洗面所の鏡の前まで移動し、鏡に映る俺の姿。


 この両手で支えることがやっとのデカい乳、長い耳、褐色肌と白銀の長い髪の毛、そして美しくファンタジーのようなエルフ。


 俺の身体はもう完全に女性のエルフなんだと自覚してしまう。


 おまけに、うつ伏せで寝ようとすると胸がつっかえてしまい、寝ようとしても胸が押し付けられているような感覚で息苦しくなり、寝ることができないんだ。


 だから仰向けで寝るか、もしくは横向きになって寝るしかない。


「さて……起きたことだし、出勤の準備するかぁ……」


 出勤する時間までにまだ余裕はある。


 シャワーでも浴びてから朝ごはんを食べよう。


 ……でもちょっと待て。


 魔法が使える事が分かっている。


(つまりこれで魔法を使えばシャワー代として使われる代金かなり節約できるんじゃね?)


 割と節約術としてならいけるのではないだろうか?


 そう思った俺は、早速実践として髪の毛を洗うために服と下着を脱いで浴槽に入る。


「最近は都市ガスも値段が高くなってきているからなぁ……電気料金もそうだけど……節約のために魔法を使ってシャワーを浴びてみるか」


 そんな思いを胸に秘めながら(まぁ、胸はでっかいので何かが秘めているのは間違いないだろうけど……)俺は輪唱を行う。


 スーパーで強盗を撃退した時は中二病っぽく英語混じりにやったが、これは日本語でも魔法は発動するのかが分からないので、試しにやってみる価値はありそうだ。


 頭の上に両手を軽く抑えた上で、輪唱をした。


 そして、頭の中で暖かいお湯がゆっくり湧き出るイメージを作り出す。


「温泉のような暖かいお湯……40℃……勢いはゆっくり……そっと流れるような感じで……」


 すると、イメージした通りに両手から暖かいお湯が流れだしてきた。


 それも、しっかりと勢いも調整出来ていたので、スーパーの時のように水を勢いよくドバーッ!と出すようなことはなく、暖かいお湯を自分の加減で出来ることが分かった。


 しかも、よくみれば温泉のような匂いもしている。


 ちょっと硫黄っぽい臭いがしているなと思い、手から溢れ出ているお湯を見てみると、透明な色ではなく乳白色な色をしている。


 どうやら本当に温泉のお湯が手から溢れているようだ。


「えっ?!これどうやって出しているんだよっ?!水ですらビックリしたのに温泉のお湯もいけるのか?!」


 衝撃の真実。


 いや、自分で出しておいては何だが、水だけしか出ないと思っていた魔法は……どうやら温泉のお湯すらも取り出せてしまうようだ。


 なんだこれは……俺は未来の世界からやってきた何でも不思議な道具を取り出してくるロボットじゃないんだぞ。


 これはもう魔法の類を越えているのではないだろうか?


「どうやら自分の魔法は脳内でイメージをして、それを現実に転換することが出来るらしいな……いやこれ半分チートみたいなものじゃん。強すぎるのでは……」


 明らかに強い。


 というか手から温泉が湧き出るエルフって何だろう……傍から見ればシュールすぎる光景になっている。


 でも、温泉のお湯で頭を洗うなんて結構贅沢なやり方だと思うし、これはこれで気持ちがいい。


 それに、今手から湧き出ている温泉のお湯は無料タダだし、何処から盗んでいるものではない……はずだ。


 つまり、法律に触れるようなことは一切していない。


「節約とはいえ、こりゃ贅沢な使い方だな……あぁ^~お湯が気持ちええなぁ~」


 思わず似非関西弁が飛び出してしまう程に気持ちが良かった。


 帰ってきたら、浴槽に蓋をして温泉のお湯をたっぷりと出して湯船に浸かろう。


 次に朝食だ。


 レトルト食品になるが、電子レンジで加熱して出来上がる白米、冷凍鮭……御椀の上にお湯を注ぐだけで出来上がる味噌汁、そしてパック入りの納豆、最後に紙パックに入っている緑茶。


 これで平均的な日本食の完成だ。


 試しに食べ物も出来るのかと思い、ステーキ肉をリアルに想像してみたが……これは出来なかった。


 どうやら食べ物に関しては出来ないらしい。


 ……まぁ、食べ物まで出てきたら、もう食費も掛からない最強の状態になるからね。


「それじゃあ……頂きます」


 朝食をササッと済ませてしまおう。


 鮭を軽くほぐしてから、ホカホカのご飯の上にかけて食べる。


 ……うん、鮭の味がご飯とマッチして旨い。


 それでいて、味噌汁を流し込むように飲みながら、ご飯を口の中にかきこむ。


 どういうわけか分からないけど、このエルフの身体になってからかなり食欲が沸いてくるから、食べても食べてもお腹が空いてしまう。


 だから沢山食べる必要があるのだ。


 朝食を10分程で食べ終えると、箸と御椀を洗ってから出勤用のスーツに着替える。


 スーツを着ると、やはりどうしても胸元が目立ってしまうな。


 まぁ、男物のスーツだし……女性用のスーツも買った方がいいかな?


 でもこれはこれでビシッと整っているので、問題はない。


 後ろ髪をヘアゴムで縛り、一つ結びの状態になる。


「服装ヨシ、髪型ヨシ……部屋の電気ヨシ!」


 自分の服装をチェックし、部屋の電気を消したことを確認した俺は、ドアの鍵を閉めて会社に向かうのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「エルフさんが魔法で生み出す天然温泉水」 これ売り出せば仕事辞められますよ! 動画サイトで生み出す様子を投稿すれば、売れまくる事間違いなし!エルフさんの可愛らしさと珍しさという価値は、他…
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