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 土曜日、僕は妹のお願いを果たすべく、映画館が入っているショッピングモールを訪れていた。

 予約が取れた中で最も早い時間の上映を見て、入場特典を確保し、頼まれていたグッズを購入する。

 瑠璃にお願いされていたものは全部買いそろえることができた。


「あー……めっっっちゃよかった……!」


 お使いを一通り済ませた僕は、少し疲れたこともあってショッピングモール内のベンチに腰掛けながら映画の余韻に浸っていた。


 『みーてぃあず!』は劇場版も素晴らしかった。

 昨日遅くまで『みーてぃあず!』の2期を見ていて寝不足だったので、映画中眠ってしまうんじゃないかと不安に思っていたのだけど、映画が始まると寝不足なんてどこかへ吹き飛んでしまうくらい引き込まれたし、最後の方なんて少し泣いていた。

 テンションが上がって自分の分のグッズまで買ってしまったし、正直入場特典を妹に譲るのが惜しくなってきたほどだ。


(瑠璃と交渉……いやさすがにそれは不義理だよね。……なんならもう1回見るのもありかなぁ)


 そんなことをぼんやりと考えていると、目の前を通り過ぎた女の子のカバンから、キーホルダーが落ちたのが目に入った。

 落とした当人はそれに気づいていないらしく、誰かが拾ってあげる様子もない。


 落としたところを見ておきながら知らないふりをするわけにもいかないので、仕方なくキーホルダーを拾って女の子に近づく。


「あの、すみません」


 声をかけてみるも女の子は振り返らない。

 自分の声が小さすぎたかのかと、今度はきもち大きな声で声をかけてみる。


「あのっ、すみませんっ……!」

「はい?」


 すると今度はちゃんと声が届いたのか女の子はこちらを振り向いてくれた。

 ――が、僕はその顔を見て思わず固まってしまう。


「あの、なんでしょう……?」


 不思議そうな顔でこちらを見ているのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 先日僕に強烈な印象を与え、しばらくの間は忘れることなんてできないだろう相手――白石さんだった。


(マズいマズいマズいマズいマズい!)


 声をかけた女の子がまさかの顔見知りという事態に僕はとにかくてんぱっていた。

 色んな意味で今は会いたくない相手だ。


 白石さんのことは昨日の件があって鮮烈に記憶に焼き付いている。とはいえ、さすがに後ろ姿で判別できるほどではなかった。

 知っていたら絶対声なんてかけなかったのにと後悔するも、ばっちり手遅れだ。

 

 幸いというべきなのか、彼女は声をかけた相手が冴島蒼真()だとは認識していないらしい。

 今日は映画だけ見てパッと帰るつもりだったから、今の僕は髪も整えていないし、瑠璃お墨付きのダサメガネをかけている。そのせいもあって、学校とは全然印象が違うからだろう。


 こうなってしまった以上、通りすがりの初対面という体で落とし物だけ渡してさっさと去るのがベター……!

 声をかけてきておきながら挙動不審な僕に対して、ますます怪訝そうな顔をする白石さんにキーホルダーを渡す。


「ぁ、あの、その、これ、落としていたので……」


 めちゃくちゃ声が震えていたけどもうこれは勘弁してほしい。言葉が出てきただけ上出来だ。


「あ、私落としちゃってたんですね!拾ってくださってありがとうございます」


 声をかけた用件がはっきりしたからか、僕を見る目が幾分か和らいだ白石さんはお礼を言ってキーホルダーを受け取った。

 やることは終えたのでさっさと撤退を試みる。


「い、いえ。では、その、自分はこれで……」

「あ、はい、ありがとうございました」


 最後の最後まできょどりながら、彼女に背を向けて歩き出す。

 確実に気持ち悪い奴だと思われたよなあと少し凹みつつも、僕だとばれなかったことに安堵した――その直後のことだった。


「……あ!冴島先輩……?」


 ショッピングモールの喧騒の中でもその声はやけにはっきりと僕の耳に届いて、頭で考えるよりも先にその声の方に振り返ってしまう。

 すると、驚いた顔をした白石さんと目が合ってしまい――


(あー……終わった……)


 キャパオーバーを起こして思考も足も止めてしまった僕に、白石さんはにこやかな顔を浮かべながら近づいてきた。


「あれ?あれあれあれあれ?昨日ぶりですね?冴島先輩」


 面白いものをみたというような彼女の声に思わず肩が跳ねる。


「あの、人違いで……」

「あんなにばっちり反応しておいて、さすがにそれは苦しくないですか?」


 なんとか言い逃れできないかと足掻いてみたが、完全に無駄な抵抗だった。


「ここであったのも何かの縁ですし、ちょっとお茶でもどうですか?」


 いたずらっぽい笑みと一緒に告げられた提案。

 生殺与奪の権を握られてしまった僕の答えは1つしかなかった。


「よ、喜んでご一緒させていただきます……」

「どうして敬語なんです?おかしな先輩ですね。別に取って食おうってわけじゃないんですからそんなに緊張しないでくださいよ」


 微笑みかけてくる美少女というシチュエーションは本来であれば胸躍るもののはずなんだけど、それが悪魔の笑みに見えてしまった僕はさっきと同じことを思った。


(終わった……)

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