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 翌日、今度は僕以外の生徒も一緒に集められ、交流授業について説明を受けた。

 

 交流授業は来週木曜日の5限目と6限目とのことで、科目は英語と数学を1時間ずつだそうだ。

 今日は金曜日なので、6日で準備を整える必要がある。

 

 配られた課題のプリントは結構難しくて、これをちゃんと理解してもらえるよう教えるのは中々骨が折れそうだけど、引き受けた以上は何とかするしかない。


 集められた生徒の中には当然と言えば当然だけど黒崎さんもいて、「がんばりましょうね」と微笑まれてしまった。

 余裕そうで羨ましいなあと思いつつ、「善処するよ」と曖昧な返事をしておいた。


 

 そしてあっという間に交流授業当日がやってきた。

 

 準備としては、本当にできる限りのことはやったと思う。

 自分がかつてどこで躓いたか、どうやって理解したかを思い出しながら課題を解いて、どんな風に説明しようかもシミュレートしてきた。

 昔のノートや参考書なんかも引っ張り出して参考にできそうなところはメモしてきたし、2時間くらいなら凌げるレベルに仕上がっていると信じたい。

 

 指定された中学校の教室に行ってみると、想像以上の歓迎ムードで迎えられた。

 その理由の大半は、黒崎さんが同じ教室に割り当てられているからのようだ。

 まるでアイドルでも来たかのような盛り上がり方をしていた。

 流石というべきか、後輩たちにも黒崎さんの威光は及んでいるらしい。


 僕たち高校生組は軽く挨拶をした後、それぞれ中学生が作った班につく。

 僕が付くことになった班は男女それぞれ3人ずつの計6人の班。

 当然ながら知り合いはゼロである。

 

 隣の班には黒崎さんが付いていて、すごい盛り上がりを見せているためやりづらいことこの上ない。

 僕の班にも黒崎さんがついた班を羨ましそうに見ている生徒がいて、ごめんよと謝りたくなる。


 とはいえ黒崎さんと今更代われるわけでもないので、気まずさをぐっと押し殺して口を開いた。


「えっと、西鶴高校1年の冴島って言います。なるべくわかりやすいよう説明するつもりだけど、解説でわかりづらいところとかもっと詳しく話してほしいところとかがあったら、遠慮なく言ってくれると助かるな」


 年下相手のコミュニケーションは妹で多少慣れていることに加えて、ぶっちゃけ、中学生の子たちとは今後関わることもないだろうから、少しくらいやらかしてもなんとかなるだろうという考えにより、同級生相手よりは緊張せずに喋れる。

 僕は初対面の人相手の方が饒舌になるタイプのコミュ障だった。


 中学生たちは、僕の言葉に遠慮がちにうなずきや返事を返してくれた。

 完全に初対面の先輩相手だし、この反応は当然だろう。

 多少のぎこちなさを感じながら、交流授業はスタートした。


 流石に中学受験をしている子たちということもあってか、僕がいざ解説を始めると生徒たちは真剣な表情で説明に耳を傾け、メモを取ったり質問を飛ばしてきたりした。

 僕が逆の立場だったら見ず知らずの先輩に質問をするのはかなりの勇気を要するだろうから、その姿勢は立派なものだと思う。


「冴島先輩、ここの問題についてなんですけど」

「ああ、そこはね――」


 相手が真面目に自分の話を聞いてくれると、教える側としても嬉しいし頑張ろうと思える。

 ちょっと楽しくなりながら勉強を教えていると、いつの間にか交流授業の1時間目が終わっていた。


「はい、これで5限目は終了です。中学校のみんなも、高校のみんなもお疲れ様。中学生の皆さんは、いつもより勉強になりましたか?6限目もありますのでちゃんと休憩をとってくださいね」


 先生のそんな声を合図に、休憩時間に入る。

 中学生と高校生で仲睦まじく交流を深めている班もあるが、あいにく僕にそんなコミュニケーション能力はない。

 こういう時は先輩から話を振った方がいいのだろうけれど、何を話せば初対面の後輩たちと盛り上がれるのか皆目見当もつかない。


 しかし黙ったままだと中学生たちも気まずいだろうし、僕が「最近暑いよね」なんてカスの会話を切り出そうとした時、隣の班――黒崎さんがついてる班だ――の会話が聞こえてきた。


「黒崎先輩に勉強を教えていただけるなんてすごく光栄です!」


 すごいな、勉強教えただけで光栄と言われる高校生とかそういないぞ。


「黒崎先輩の解説めちゃくちゃわかりやすかったです!さすがは不動の学年1位ですね!」


 どうやら黒崎さんは人に教えるのも上手いらしい。

 天才キャラにありがちな、人に教えるのは下手クソとかそういうパターンをちょっと期待していたのに……。

 いやでも、仮に教えるのが下手だったとしても、それはそれでギャップがあっていいとか言われそうだなあ……。

 

 黒崎さんほど完璧な人だと欠点をどうにか探してみたくなる。

 何か弱点とかないのだろうか――と、そんな不埒なことを考えたのが良くなかったのかもしれない。


「ふふ、ありがとうございます。でも私はもう不動の学年1位じゃありませんよ。高校に入ってからはずっと2位です。ねえ、冴島君?」


 いつものように微笑を浮かべながら、こちらに水を向ける黒崎さん。

 その視線の意味は中学生たちも理解したようで、僕に注目が一気に集まったのを感じる。

 黒崎さんに悪意はないのだろうけど、自分の人気を理解して発言をしていただきたい。

 いや、わかっててやってるのだろうか。どっちにしろ質が悪い……!


 僕に向けられた視線の圧がすごい。

 驚愕とか猜疑とか憧憬とかいろんなものが混じった視線を受け止めながら、なんとかこのキラーパスを処理しようと試みる。


「いや、黒崎さんは部活やってるけど僕は何もしてないし。同じ条件だったらきっと黒崎さんが勝つよ」


 さすがにこの空気で「僕は黒崎さんに勝ってるんだぜ(ドヤッ」なんて口にする勇気はない。

 というかどんな空気だろうとそんなことは言えない。


「部活をすると決めたのは私の選択ですし、そんな仮定に意味はないと思いますけどね。というか私、部活して生徒会にも入ってましたけど中学時代はそれでもずっと1位でしたし」


 黒崎さんは不満そうにしているが、これは謙遜とかでなく100%本音なので受け入れてほしい。

 なんともいえない空気になってしまってどうしたものかと考えていると、6限目の開始を告げるチャイムが鳴った。

 ナイスチャイム!助かった!


「ほ、ほら、6限目始まったみたいだし。ちゃんと勉強しなきゃ」


 そういって解説に戻ったものの、中学生たちの僕を見る目が1時間目とは明らかに変わっていて、めちゃくちゃやりづらかった。おのれ黒崎さん。

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