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 黒崎さんと僕の評価に一体どんな関係があるのか。

 それを説明するには僕が通う高校について少し触れる必要がある。


 僕が通う市立西鶴高校は、中高一貫校だ。

 西鶴高校の校舎は西鶴中学校の校舎と併設されているし、西鶴中学校に通う生徒たちは受験を一切経ずに西鶴高校に入学することができる。


 僕が入学できていることからもわかるように、中学校からの内部進学者だけでなく外部からの入学者も募ってはいるのだけど、高校の生徒の大半は内部進学者で、彼ら彼女らは中学校の頃からの仲なわけだ。


 そんな内部進学者たちの中で、黒崎さんはそれはそれは圧倒的な人気がある。

 その人気のありようは、もはや信仰じみているといっても過言じゃないほど。


 とはいえその理由よくもわかる。

 大和撫子然とした美しい容姿に、誰に対しても分け隔てない優しい性格、おまけに文武両道の才女だ。人気が出ない方が嘘だろう。


 その圧倒的人気とカリスマ性で中学校時代は生徒会長を務め、歴代会長たちの比じゃない支持を集めたとかなんとか。

 枚挙にいとまがないらしい彼女の武勇伝だが、その中の1つに中学校時代テストで学年1位の座を一度も譲らなかったというものがある。

 中高一貫の進学校であるゆえに他の中学校と比べてテストが多く、偏差値も高いとされる西鶴中学校で3年間1位をキープし続けたというのは相当なことだ。


 そんなこともあって、内部進学者たちの間では1位と言えば黒崎さんだし、黒崎さんと言えば1位みたいな風潮があったらしい。

 それは高校に上がってからも当然続くものだと思われていたのだけど、なんとその流れに終止符を打つ者が現れた。


 笑えることに、僕である。

 入学して早々に受けさせられた新入生テストなるもので、僕は学年1位をとった。


 当時、必死に積み上げてきた学力が高校でもとりあえずは通じそうだと安堵していた僕は、周囲が妙にざわついていることに気づけなかった。

 長い間他者とのコミュニケーションを怠ってきた弊害か、その日を境に周りの自分を見る目が変わったように感じつつも、あまり深く考えないようにしていた。


 しばらく経つといや流石にこれはおかしいと気づいたんだけど、その時にはもう手遅れで。

 僕に貼られたレッテルは、"黒崎花音に匹敵するすごい人"になっていたのである。


 このレッテルは非常に厄介なものだった。

 というのも、何をしようにも色眼鏡で見られるというか、補正がかかるのだ。……プラス方向に。


 性別が違うので一概に比較することはできないが、僕は黒崎さんと比べると何枚も落ちるような人間だと思う。

 

 テストの成績ではなんとか勝っているものの地頭では圧倒的に劣るだろうし、運動なんかは平均より少し動ける程度。

 運動神経抜群なんて褒めそやされているのは、そもそもこの学校に運動に力を入れている生徒が少ないからで、相対的に運動ができるように見えているだけに過ぎない。

 バドミントン部に所属していて全国大会で結果を残している黒崎さんとは、比べるのも失礼だろう。

 

 だというのに、周囲は僕のことを黒崎さんと双璧を成しているかのように評価する。

 勉強と運動に限らず、容姿や人格に関しても同様だ。

 人格が評価できるほど、僕と同級生(君たち)はコミュニケーションとってないですよね……?


 結局のところ、()()黒川さんを負かしたのが凡人なんてあってはならない、ということなのだと思う。

 "超すごい黒崎さんに成績で勝っているんだから冴島君も超すごくないはずがない"と、僕の評価は現実と乖離して過剰に高くなってしまった。


 そりゃあ周りによく思われたくて高校デビューしたわけだけど、モノには限度がある。

 ここまで評価が高くなってしまうともはや怖い。

 高ければ高いほど、落下した時の衝撃は大きくなるものだ。


 周囲に幻滅されるのが怖くて自分の評判を裏切るような言動はとれず、かといって開き直ってそれを受け入れることもできず。

 メッキがいつか剥がれてしまわないかとヒヤヒヤしながらも身動きが取れなくなってしまった憐れな存在。それが今の僕である。

 

 とまあこんな感じで、僕の高校生活が思わぬ方向に転がっているのは、黒崎さんが超人じみているせいだ。

 かなり無理をしながらなんとか見栄を張っているガリ勉陰キャに、彼女のライバル役はあまりに荷が重い。

 彼女がここまでの人気者でなければ僕もこんなことにならなかったのに、と何も悪くない黒崎さんをつい恨めしく思ってしまう。


「あの、冴島君?声を掛けただけでそんな風に睨まれる覚えはないんですけど」


 純度100%の逆恨みが顔に出てしまっていたらしい。なけなしのコミュ力を総動員して何とか取り繕う。


「睨んでなんかないよ。テスト勉強でここ最近寝不足だったから、少し目つきが悪くなっちゃってたかも」

「へー……そうですか」


 ジトっとした目でこちらを見てくる黒崎さん。全然信じてくれてなさそう。

 これは旗色が悪いと話題を変える。


「あー、そんなことよりなんか用だったかな?」

「用というほどのものでもないですけど。まずは学年1位、おめでとうございます」

「……ありがとう」

「今回も負けてしまいましたが、次こそは。来月の実力テストではあなたに勝ってみせます。だから、覚悟をしておいてくださいね」

「……できる限り頑張るよ」


 好戦的な発言をする黒崎さんに、曖昧な言葉と笑顔を返す。

 困ったことに、黒崎さん本人も僕をライバル視している節があるんだよなあ……。

 

 初めてテストで黒崎さんに勝った時も同じように僕に話しかけてきて、突然宣戦布告じみたことを告げられたものだからかなりビビった。

 物腰柔らかそうに見えて、負けん気が強いんだなと意外に思いながらも、今回は運が良かっただけ的な返しをしてみたところ、『……なるほど。私は運がよかった相手に負ける程度の努力しかしてこなかったということですね。これはもっと精進しませんと』なんて目が笑っていない笑顔で言われたので、彼女の前での謙遜は厳禁である。


 正直、黒崎さんが僕を意識しているからこそ、周りも僕を黒崎さんのライバルキャラとして囃し立てている節はある。

 僕はそんな大した器じゃないと声を大にして言いたいけれど、あの底冷えするような視線を向けられるのはとても怖いので……。


「黒崎さんと冴島君が並んでいると絵になるなあ」とか「あれがトップの貫禄か……!」とか、わけのわからないことを言っている周囲の声は聞こえなかったことにして、僕はそっとため息をついた。

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