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「変な先輩はさておいて本題なんですけど、勉強を教えてもらうっていっても実際のところどうします?」

「だよねえ。場所、時間、期間、考えなくちゃいけないことがたくさんあるよね」


 微妙にディスられつつも肝心の本題へ。

 勉強をみるといってもどこでやるか、いつやるか、いつまでやるかは決めておいた方がいいだろう。


「そうなんですよねー。決められそうなところから決めちゃいましょうか」

「だね」

「んー、とりあえずは期間ですかね。先輩、どれくらいの期間私に勉強教えてくれます?」


 それを僕に委ねるのはちょっとずるいのではないかと思いつつも、自分が考えていた期間を正直に答える。


「そうだなあ……とりあえず僕の受験が本格化して忙しくなるまではいけると思うけど」

「…………は?」


 すると白石さんはしばしの沈黙の後、ぽかんとした声を出した。


「え?」

「いやいやいやいや、え、は、え?受験で忙しくなる頃って大体2年生の後期とか3年生くらいからですよね?で、先輩は今1年生ですよね?」


 そのリアクションに今度は僕が呆けていると、白石さんがまくしたてるようにそんなことを言ってくる。


「うん、そうだけど」

「そうだけど、じゃないですよ!?先輩、私の勉強1年以上みるつもりなんですか!?」


 心底驚いたという風な白石さん。


 一応言っておくと、僕だって白石さんの勉強を1年もみることになると思ってはいない。

 相手が先に僕に愛想を尽かすと思う。

 ただ勉強を教えると約束した以上、もし相手がそれを望むのであれば本気で自分に余裕がなくなるまでは付き合おうと考えてはいた。


「いや、僕も実際に1年間も白石さんの勉強を見るとは思ってないよ。さっきのは僕が可能な最大値を示したというか……。後はこの期間内で白石さんがちょうどいい期間を決めてくれればいいかなって」

「あの軽いノリで決まったことに対してそんな覚悟ガンギマリなんですか!?……頼んだ私が言えることじゃないですけど、さすがに私のワガママでそこまで先輩を付き合わせるのは申し訳なさがヤバいです」

「そう?じゃあどうしようか」

「そ、そうですね……先輩に教えてもらうことでどれだけ成績が伸びるかを確認する意味も込めて、私の次のテストが終わるまでっていうのはどうです?」

「白石さんがそれでいいなら僕はかまわないけど……中学校の次のテストっていつだろ」


 高校ならともかく中学校の年間スケジュールは把握していない。


「基本的には中学校でも高校と同じ時期にテストがありますよ」

「んー、てことは7月下旬くらい?」


 うちの高校では7月一杯は夏期講習という名目で学校があり、そこで夏休み前最後のテストが行われる。

 世間では夏休みな期間にテストが行われることを知ったときは、これが高校……!なんて驚きつつげんなりしたものだけど、どうやらそれは西鶴中も同じだったらしい。


「ですです。大体1か月くらいですけど、問題ないですか?」

 

 そう尋ねてくる白石さん。こちらとしても特に異論はない。


「問題なしだよ」

「じゃあ期間は来月のテストが終わるまでということでお願いします」

「了解」


 意外とあっさり勉強をみる期間が決まった


「それじゃあ次は時間ですかね。勉強教えてもらうって言ってもいつ教えてもらいましょうか」


 次に決めることになったのは勉強を教える時間。といっても、これに関して選択肢はそんなに多くない。


「昼休みか放課後になる気がするけど……白石さんって部活はやってるんだっけ」

「いえ、部活には入ってないですね。確か先輩もでしたよね?」


 先日の交流授業で黒崎さんとそんなやりとりをしたのを覚えていたらしい。

 すごい記憶力だ。僕が逆の立場だったら絶対覚えてない。


「そうそう、よく覚えてるね。どっちも部活やってないなら昼休みでも放課後でもいけそうかな」

「んー、昼休みってなんだかんだバタバタしますし放課後の方が個人的にはいいんですけど、どうです?」


 確かに、たかだか1時間弱で昼食やら次の授業の準備やらを済ませたうえで、勉強までというのはちょっと厳しいものがあるか。


「昼休みって長いようで短いもんなあ……。放課後の方が時間の融通がききそうだし、僕も賛成かな」

「よし、じゃあ教えてもらうのは放課後で決まりですね。あ、曜日とかも決めとかなきゃですね」

「あーそっか、それもあるか。僕はこの曜日がダメとかそういうのは特にないから白石さんの希望に合わせるよ」


 一緒に遊ぶ友人すらいない僕の放課後はいつだってフリーだ。……自分で言ってて悲しくなってきたな。


「私もないんですよねー。先輩は週何日くらいならいけそうです?」


 これはちょっと意外。

 部活をしていないとは言っていたものの、エスカレーター式の進学が決まっていて受験のない中三なんて遊び放題だろうし、灰色な青春を送る自分とは違って放課後は何かと忙しいのかと思っていた。

 でもまあ、そういうことであれば。


「とりあえず平日は全部いけるよ?休日も別に無理ではないけど、会うのにちょっと難儀しそうではあるよね」

「だからなんでそんなに尽くす構えなんですか!?私たち知り合って1週間と経ってないんですよ!?どんだけお人好しなんですか……」


 再び声を荒げる白石さん。

 彼女はお人好しと僕を称したけど、僕は誰にでもこんなスタンスなわけじゃない。


「白石さんがいい人だからだよ」


 白石さんは知らないんだろう。

 

 自分の言葉が、僕にどれだけ響いたのかを。

 人の目に怯え、毎日、息苦しくて仕方なかった僕が、彼女の言葉にどれだけ救われたのかを。


 それは世間一般の価値観に照らし合わせても、ちっぽけと言われてしまうようなことだったのかもしれない。

 もしかするとこの先の人生、僕が欲しかった言葉をくれる人が白石さん以外にも現れるのかもしれない。

 

 それでも、今、この時に、僕が欲しい言葉を一番最初にくれたのは白石さんだ。白石しかいないんだ。

 そしてそれは、僕にとって全身全霊で尽くしたいと思ってしまう程度には大事なことだ。


「………………」


 流石に内心の全てを言葉にするのは恥ずかしかったので、白石さんをいい人と言うにとどめたのだけど、なぜか彼女は黙り込んでしまった。


「白石さん?」

「あ、いえ、なんでもないです。先輩は、いつか詐欺師に騙されちゃいそうですね。気を付けないとだめですよ」


 不思議に思った僕が呼びかけてみると、苦笑気味にそんなことを言われた。

 僕は結構疑り深い方なので、そんなことはないと思うんだけど……。

 いや、これは慢心かもしれない。騙された人間は皆、まさか自分はと言うものだ。

 白石さんの諫言は胸にきちんと刻んでおこう。


「っと、少し話が逸れちゃいましたね。結局週に何日、何曜日に教えてもらうことにしましょうか」


 軽く笑いながら、白石さんが話を仕切りなおした。

 といっても、僕の答えはさっきと変わらない。


「さっき言ったように僕は平日なら全部いけるんだけど……」

「そこは揺らがないんですね……。…………よし!じゃあもう平日は基本毎日ってことにしていいですか?先輩の好意に甘える形になって申し訳ないですけど」


 やはり自分は特に希望はないからそちらの都合に合わせるという雰囲気を出すと、白石さんは少し葛藤するように間を置いた後、そんな提案をしてきた。


 僕としては当然問題ない。

 申し訳ないと口にしていたけれど、僕が先にいいと言っているのだからそんなことを考える必要は全くない。僕だって、自分の言ったことくらいには責任を持つ。


「了解。じゃあとりあえずは週5のつもりでいるね。僕からOKしたんだから、申し訳なさなんて感じなくても大丈夫だよ」

「そういうわけにもいかないですって……。まあお互い何か用事があったときは連絡を入れてその日は無しにするということで。嫌になったら遠慮せず言ってくださいね……?」

「ほんと気にしなくていいんだけど……白石さんも何か用事とかあったら遠慮なく言ってほしいな」


 白石さんの心苦しそうな雰囲気を拭えなかった自分のコミュニケーション力の低さを情けなく思いつつも、こうして勉強を教える時間が決まった。

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