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「すご、今回も冴島君1位だよ」「今回は黒崎さんが勝つかと思ってたんだけどなあ。やっぱ冴島半端ないわ」「黒崎さんも流石だけどね。ほら、2位とかなり差つけてる」「2人とも何食ってたらあんな頭よくなるんだろうな」「成績優秀なだけじゃなくて運動神経抜群、容姿端麗とかずるいよねえ」「神は二物を与えずって嘘だよなあ。住んでる世界が違う感じするわ」「ま、上を羨んでも仕方ないよ。私たちは私たちのペースで頑張らなきゃ」
不快指数がぐんぐんと増しているのを感じる6月。
この時期に人が群れようものならそれはもう蒸れて蒸れて仕方がないはずなのだけど、廊下にはかなりの数の同級生たちが集まっていた。
その理由は、先日行われた中間考査の成績上位者が張り出されたからだ。
上位者だけとはいえ、成績の張り出しなんて今の時代にそぐわない行いだと思うのだけど、一応ここいらでは有数の進学校ということもあってか、生徒たちの成績に対する関心はすこぶる高いらしい。
そんな人だかりの中から聞こえてきた男女の会話。
よくよく聞いてみると似たような会話があちこちでされているようで、僕は思わず頭を抱えた。
今すぐ叫びだしたい衝動に駆られるけれど、そんなことをしたら色々と終わるので心の中だけで思い切り叫ぶ。
(僕は!そんな!!大した奴じゃねえええええええええええええええええええええ!!!)
冴島蒼真。
高校1年生。
最近の悩みは同級生たちが自分に対して集団幻覚を見ていること。
まさか高校生活に胃薬の導入を本気で検討する日がくるなんて夢にも思わなかった。
「どうしてこうなった……」
荒ぶる内心とは裏腹に弱弱しく口から零れたある種の常套句は、周囲の賑わいに飲み込まれ消えていった。
"高校デビュー"という言葉がある。
正確な定義があるのかは知らないけれど、高校進学を機に恰好や立ち振る舞いを中学校時代までとは大きく変えること、というのが多くの人にとっての解釈じゃないだろうか。
僕はそんな高校デビューを果たした高校生の1人だ。
高校デビューなんて試みるのは、大抵自分に何かしら思うところがある人だと思う。
例に漏れず、僕も過去の自分を否定したかったクチだ。
中学生だったころの僕は暗くて、ダサくて、どんくさくて、空気が読めなくて、人の気持ちがわからない……とにかく愚かな人間だった。
そんなだったから当然というべきか、中学生活は暗黒時代と呼ぶに相応しい有り様で、高校では同じ轍を踏まないよう変わらなくてはと決意をしたわけだ。
自分の中学校から進学する人が誰もいないようなレベルの高い高校に入るため、勉強量をそれまでよりずっと増やした。
強いメンタルを作るにはまずフィジカルからなんて聞いたから、筋トレやランニングをする習慣をつけた。
少しでも自分の印象に下駄を履かせるために、よくわからないと敬遠していたおしゃれやファッションについて学んだ。
そんな努力を1年以上続けた結果、ガワだけならなんとか取り繕えるようになって。
ありがたいことに第一志望だった高校にも無事合格できた僕は、どうか穏やかな日々を送れますようにと願いながら高校生活をスタートさせた。
……そして、3ヶ月弱が経った今、僕は成績優秀、運動神経抜群のイケメンとしてやたらと神聖視されている。
高校デビュー成功どころか大成功だ!ちくしょう!!
うん、明らかにおかしいよね。
高校入学後の展開、急だし雑だし意味わからないよね。
仮に僕が他人から同じ話を聞かされたら絶対「いや、そうはならんやろ」って言う。
でもこれには特殊な事情というか、カラクリがあって、それは僕では回避しようがなかったというかなんというか――
「冴島くん」
現実逃避がてら過去を顧みていると、背後から鈴を転がすような声で僕の名前が呼ばれた。
振り向いてみると、思わず息のをんでしまいそうになるくらい綺麗な女の子が1人。
「……黒崎さん」
黒崎花音さん。
文武両道、容姿端麗、品行方正な嘘みたいな女の子。
そして、僕の評価がやたら高まった原因だ。




