表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死売人  作者: 童の簪
12/22

少女-2

二週間の休養明けです


 あたしは平凡な人間だ。


 どこにでもある平均的な高校の、どこにでもいる平均的な二年生。

 家庭環境はよくある核家族。特筆すべき問題も特徴もあるでも無い極々普通の一家。


 容姿は美人かと言われればそれほどでもなく。

 だからと言ってブスかと言われればそれほど酷くは無い。

 百人中百人が普通と言う。

 よく言えば無難な顔立ち。悪く言えば特徴という特徴の無い無個性な顔立ち。


 運動神経が良いとか、暗記力が凄いとか、努力家だとか。

 そんな風に何か一方に優れている、とかそういうのも無く。

 得意不得意は多少あれどその差異は人並みだ。


 中身も容姿も名前でさえも、あたしはどこにでもいる普通の人間だ。


 世界から見れば数十億人いる人類の中で目立ちもせず、歴史に消えるだけのちっぽけな一人。

 代わりなんて千でも万でもいる。



 それがあたし。



 あたしにしか出来ないことは無い。

 何一つ特別を持たない。


 でもあたしは誰かのスペアじゃない。

 あたしの代わりは誰にもなれないはずだ。

 あたしはこの世界数十億人の中のたった一人だ。


 あたしはあたしだ。

 何人同じ名前が居ようとも、あたしはあたししかいない。


 特別になりたかった。


 一人や二人からの特別じゃない。

 国中、いや世界中の人たちが、あたしという一人の人間を認めるような特別だ。

 連日TVに呼ばれて、海外にも何度も呼ばれるような。そんなあたしになりたい。


 普通の中じゃだめだ。埋もれてしまうから。

 ならば普通から抜け出そう。


 学校で禁止されてる化粧に手を出した。

 ブランド物の服やカバンにも挑戦した。

 雑誌で公募しているモデルに応募した。

 珍しいスポーツの体験してみたりした。

 社会から外れた人達にも会ったりした。

 下手をすれば法を犯す行為だってした。


 思い立った日から、教師や親が嫌な表情をするのもお構いなしに色んな所を闊歩して特別になれるあたしを探した。


 結果は、あたしが如何に普通の人間かをこれでもかと思い知らされた。


 いくら高い化粧や服装で着飾っても容姿もセンスも普通。

 スポーツにしたって才能の欠片もない。

 違法行為は躊躇いが先に出て結局出来なかった。


 どこへ行っても普通。普通でなくとも変な女だ。

 特別じゃない。







「だから派手に殺してよ。全国ニュースになって見た人がトラウマになるぐらいのさ」


 特別になれない普通のあたしが求めた特別。

 何よりも鮮烈に、強烈に人の記憶に焼き付く一瞬の出来事。

 言葉通りの命を賭したその瞬間。死の瞬間。

 それならば、普通のあたしでも永遠の特別になれる。


 春先の街角で、探していた燕尾服を着た特別な彼を再び見つけた後、無理やり路地裏に引っ張って言ってやった。


 だが彼は目深に被ったシルクハットの頭を大げさに揺らして言う。


「再三言うが、私は殺人鬼でも無ければ殺し屋でもない。私の売る死は君の思う死ではないし、君の求める死を提供するつもりもない。どうしても死にたいと言うのであれば、それこそ本物の殺人鬼か殺し屋にでも頼むといい」


「そんなのただの殺人じゃん」


「君が私に求めているモノと何が違うのかね?」


「ぜんっぜん違う! ただの殺し屋にひっそり殺される女子高生と、大衆の面前で都市伝説に殺される女子高生とじゃ話題性が段チでしょ!」


「君、思ったよりめんどくさいね」


「だったら早く殺してよ」


「何度でも言うが、私は売人だ。殺し屋ではない」


「あーはいはい。死を売るだのどーたらね。お金が欲しいの?」


「金銭目的で殺しをするのは殺し屋だろう。君は私の求める対価を持ち合わせていないし、私も君の求めるモノを持っていない。はなから商談の余地がないのさ。わかったら精々後悔の無い様に生きたまえ」


 恐ろしく冷たい腕であたしの手が振り払われる。

 まるで子供を乱暴にあしらうような雑さだった。

 その扱いが無性に腹立たしく思えた。


 こちとら真剣に考えての結論だというのに。


「じゃああたしはどうやったら特別になれんのよ!」


 都市伝説の背中に言う。

 どうせ子供の戯言とか思ってるだろうが、声に出さずにいられなかった。


「何の取り柄もないあたしは! どうやったら麻衣先輩みたいな特別になれんのよ!」


 麻衣先輩。

 身体が弱い事で有名な先輩で、毎年出席日数ギリギリで進学していたところ、去年の秋ごろに難病を患い入院。そのまま日数が足りず念願の卒業を迎えられなかった人。

 そして今学校に居ないのに、学生たち全員が注目する渦中の人。


 卒業をした先輩を中心に、彼女のためにチャリティ活動を開始、その活動は学校をはじめ様々な所に影響を与え、規模はどんどん大きくなるはずだ。


 きっと彼女は特別になる。

 周りの人たちがそう望んだから。


 羨ましい。

 たった一つ上の先輩にあたしの望んだ特別になろうとしている人がいることが妬ましい。


 あたしと麻衣先輩の違いは何?

 顔? ぶっちゃけ美人じゃない。痩せこけてるし不気味に青白いし髪もダサい。

 才能? 麻衣先輩の武勇伝のような話はほとんど聞かない。

 環境? 割と普通の高校生じゃない。



 あたしはどうやったら特別になれるの?



 それは死だ。

 あたしと先輩を隔てる決定的な差。

 差し迫った明確な死のイメージ。


 難病という死と戦う先輩を、卒業生の人たちは特別視したんだ。


 きっと先輩は手術に成功しても、途中で死んでも世界にとっての特別になる。


「あたしは死んで特別になりたいの!」


 喚くあたしを騒がしいとでも思ったのか。

 死売人は足を止めあたしを見る。


 生気のない目が振り向いたとき、あたしははじめてまともに彼の顔を見た。


「君たち生きている人間は、いささか死を特別視しすぎではないかね」


 普通の男だった。

 生きていることが希薄に感じるほど生気がないことと、燕尾服という恰好以外を除けば、どこにでもいるような男性。

 全然特別ではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ