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第二話 不遇な占い師の少年少女


 「………あの?」


 「え? ああ、それはね………………………あれ? 」



 何か理由を言おうと声を出すと、あまりに自然に声が出せて思わず戸惑う結。

 やはり人見知りしない。

 自慢ではないが、結は老若男女関係なく初対面の人と話すことがままならない。

 それなのに、何故?

 


 「どうしました?」


 「え? ああ! えっと、道が分からなくなっちゃって………あはは」


 「そうなんですか。ごめんなさい、今人よけの儀具を置いてるんですよ」


 「!」



 儀具。

 儀式師がもつアイテムの事。

 付与された力を発揮し、特殊な現象を起こす。

 今回の場合、どうやら人除けの効果のある儀具らしい。



 「じゃあ君は………」


 「はい、儀式者です」



 儀式者。

 占術師、召喚師、祈祷師、呪術師、そして儀式師の総称。

 儀式使用者という意味で使われている単語だ。

 能力自体は誰もが持つが、それを職業等で公的に実用する存在を特に指す。



 それを聞いた結は、パンッと手を叩いて喜んでいた。



 「へぇ、奇遇だね! 私も儀式者なの!」


 「やはりそうですか。人除けを無視して入るほどですから、並々ならぬ力を持っていると思っていたんです」


 「そうよね!! ああっ! じゃなくて………そんな事ないけどぉ!」



 思ってもない謙遜を思ってもないような顔をして言った。

 というか一度認めちゃってるのだ。

 あまりにも分かりやすい。



 「儀式師を目指しているんですか?」


 「うん! 長年の夢なの! 師匠のような正義のヒーローになるのが!」



 結は食い気味に身を乗り出してそう言った。




 「一般人には違法な儀式者を取り締まる能力は殆どない。だから私は、最年少のこの年齢で早く儀式師になって、いろんな人を助けたいんだ」



 希望に満ちた、純真に正義を信じる顔だ。

 誰かを助けてること、救うことを生きがいとする、英雄たり得る精神だ。

 少年は、そんな結に笑顔で、



 「立派だと思います」



 と、返した。

 何度も褒められた結は、嬉しそうに笑っていた。



 「えへへ! そう思う?」


 「はい、とても」



 微笑ましい光景ではある。

 夢を語る少女と、それを笑顔で聞いている少年。

 しかし、途端に結の表情が暗くなった。



 「…………………まぁでも、加入できても所詮 “占術師” だからね。どこまでいけるかはわかった物じゃないよ」





 占術師とは、儀式の種類でも占術を用いる儀式者のこと。

 現在儀式というのは、


 呪術・祈祷・召喚・占術


 この四つの系統に分類されている。




 まずは呪術。


 いわゆる呪いだ。

 道具や自身の体を用いて、災を呼ぶ儀式。

 有名なもので言えば藁人形であろうか。


 藁人形に髪を埋め込めば、髪を埋め込まれた者は体を操られるといった風なものだ。

 最も多様性がある派閥だ。




 次に祈祷。

 文字の通り命で、現代の治療の最先端は祈祷による治療となっている。

 傷の回復、病の浄化など、癒しを祈る儀式が多いが、雨乞いなどの特殊な儀式もある。

 宗教色の強い者の多くはこの派閥に属する。




 次に召喚。

 名の通り、生物非生物関係なく何かを喚び出し、使役する儀式。

 最も強いと呼び声の高い派閥。

 悪魔や天使を召喚した者も存在し、彼らはRSOの中でもトップクラスの儀式師とされている。

 トップ集団のチームリーダーは、大半が召喚を用いる儀式師だ。




 そう、多少なりとも優劣は存在する。

 しかし、ここまでは言ってしまえば召喚師が特殊というだけの話で、ほかが不遇というわけでもない。

 大半と言ったから、トップ集団の中には当然、祈祷師や呪術師のリーダーも存在する。




 だが、この系統だけは違った。



 占術。

 占いを用いた儀式。

 索敵、探知など、知る事に特化した儀式。

 戦闘能力は皆無であり、占術を用いて戦うには、基本的に儀具を使うしかないとされている。

 サポート中心で表に立つ事はない。

 さらにそのサポートも、儀具研究の発展により、重要性は低くなっている。

 ただただ不遇な扱いを受ける儀式系統だ。





 「確かに………占術の方は、いじめほどではありませんが、何かと下に見られやすい事は確かですね。()()()()()()()


 「え?」



 少年の顔を見ると、やはりニコッと微笑んでいた。

 どうやらこの少年も占術を使うらしい。



 「じゃあ、君も仲間なんだ」


 「はい。占術師の世知辛さはよく知っています」


 「あはは!! 世知辛いなんて難しい言葉よく知ってるね………うん、神様は不公平だ」



 結は、気を紛らわすために、一層大声で笑っていた。

 そうでもしないとやってられない。

 占術は本当に不遇なのだ。

 理不尽に雑用させられ、役に立たないと後ろ指を刺され、儀式師を目指すといっても馬鹿にされる。

 そして、最も気に喰わないのは、


 『守ってやるから』


 と、弱者にされる事だ。

 何も知らない癖に弱いと決めつけ、頼んでもないのに、見えない何かから勝手に守られる。


 腹が立って仕方ないのだ。



 でも、そんなことをあって間もない子供にしても詮ないこと。

 結はいつも通りこの感情を引き出しにしまおうとした。

 すると、




 「………ただ」


 「?」


 「占術師が本当に役に立たないとは限りませんよ」



 ハッと周りを見る。

 話している間、いつの間にかカラスが周囲に固まっていた。



 「誰かがここで儀式をしたせいか、少しばかり“良くないもの”が溜まっていたみたいです。カラスが凶暴化してる」



 荒ぶっている。

 カラスはいつでもそんな雰囲気だが、何かが決定的に違っていた。

 我を忘れているというのを何となくだが感じる。



 「これを張って………」



 少年は地面の札を貼って、掌を添えた。

 そして、こう唱えた。



 「凛堂(りんどう) (しょう)の名において命ずる。『散』」



 「————————————!!」





 突如、強い風が巻き起こったように、何かが結を通り抜けて言った。

 これが、ここに溜まっていた“良くないもの”。

 儀式の残滓だ。



 「ここのガラクタは、おそらくホームレスの方々のものでしょう。こうしておかなければ、いつか被害者が出てくる」



 トン、と地面を叩くと、一気に人払いの効果が消え、ガヤガヤと騒がしく感じた。

 どうやら中から外への情報だけでなく、外から中への情報もカットされるようだ。

 これだけの儀具はなかなか扱うのが難しい筈だ。


 ただ、どこかスッとしたような気分になった。

 そして、今感じている事を、少年は代わりに口に出してくれた。



 「工夫すれば、例え占術師でも色々出来ます。諦めなくていいんです。探せばきっとどこかにある。ね? 出来る事は色々あるでしょう?」


 「! うん………そうだね!」



 うじうじ悩んでいた自分を恥じる結。

 その通りだ。

 出来ないことだけを見るのではなく、出来ることを見つけて、それで証明すればいいのだ。

 私は役立たずでも弱くもない、と。



 「ありがとう………掌くん?」


 「あ、名前を聞かれていましたか」


 「あはは、ごめんね。あ、じゃああたしの名前も教える!」



 結は何となく改まって自己紹介をした。



 「晶咲 結。高校一年生。儀式師志望です!」



 自己紹介を受けた少年は、こちらも改まってペコリと頭を下げて自己紹介をした。



 「凛堂 掌。儀式使いです」


 「わぁ、よろし………」


 「ちなみに、高校二年生です」




 ピシッ、とヒビの入った音がした。


 いや、そんな筈がない。

 良く見ろ。

 立派なショタやろ。

 17な訳ないっちゃん。

 うん、いや待て、ちょっと、んー、これは何というか、君とか掌くんとか言っとるし、ちょっと待て、マジで、とりあえず、




 「は、話せばわかる!!」


 「話は分からなくなってますよ」



 結はチラチラと思い切り目を泳がせて言い訳をしていた。

 よくよく考えると、“世知辛いなんて難しい言葉よく知ってるね!” などと完全にバカにしたようなことを言ってしまっていた。



 「いや、なんというか誤解というか………その、先輩とは思わないじゃないですか?」



 何のことかわかった掌。

 なんとなく哀愁の漂う雰囲気で、



 「いや、いいんです。僕の年齢が間違われるのはいつものこと………いつものことなんです。そう、いつもの」


 「やめて下さい! 繰り返すと哀愁がすごいんで!! 申し訳ないと思ってますから!」


 「ふふ、冗談です。別にタメ口で大丈夫ですよ」


 「あ、そう?」


 「思ってませんね」



 失礼極まりない話である。

 だが、おかしくなって、2人は顔を見合わせて笑った。

 しかし、結はなんとなく、気が晴々としていた。

 リラックス出来たのだ。



 「じゃあ、そろそろ行くね」


 「あ、その前に一つだけいいですか?」


 「うん?」



 掌は手のひらを結に向けた。

 なんのことかピンと来ない結。

 すると、



 「結さんは、何か事情があって儀式をしないようなので、僕が代わりに占ってみようと思ったのですが、いいですか?」


 「え! 見てくれるの!? それじゃあ、お言葉に甘えて!」


 「それじゃあ、左手を見せて下さい。視てみます」



 結は掌の指示通り、手のひらを上に向け、掌の差し出した手のひら上に置いた。



 「へぇ、掌くんの儀式って手相なんだ」



 手相占

 占術の中でも、下位に存在する儀式。

 少々不確定ながらも先を読む事が可能。

 お世辞にも凄い儀式とは言えない、平凡な儀式だ。



 「手相占はハズレもいいとこですが、多少の不幸に対する予防戦くらいなら張れますので………では」


 「!!」




 『起動(セット)




 地面から、光の粒子が浮かんできた。

 神力。

 人間が体内に持つ、儀式を使うための資源(リソース)

 儀式の際、これが体内から放射されるため、光が見える様になるのだ。


 召喚は燃える様な朱い光を、呪術は何処までも深い漆黒の光を、祈祷はあたたかな若草の光を。

 そして占術は、淡い蒼の光を。



 掌を包むように揺蕩う蒼白い光は、ゆっくりと動き始め、吸い込まれる様に掌の手の周りへと集まっていった。



 結は、この光が好きだった。

 どれだけ蔑まれようが、この柔らかな光を見ると落ち着くのだ。






——————






 

 1分弱程の儀式だった。

 手相を見終わると何やら手のひらがほんのりと暖かい。

 他人に占って貰う機会なんて滅多に無いので、少し結果が楽しみだった。




 「どうだった?」


 「………結さん、今日散々だったんじゃないですか?」


 「お、正解。精度はいいんだね」


 「一応地元ではこれで小遣い稼ぎをしてたので。それにしても酷いですね。ただ、今日はあと1度か2度と言ったところでしょうか。何かが起こります」



 今まで散々な目に遭っていた結は、ゴクリと唾を飲んだ。

 だが、それでもあと一回。

 耐えて見せると意気込んでいた。



 「用心するに越した事はありません。それでは、試験頑張って下さい」


 「うん! ありがとう!」



 結は掌が見えなくなるまで手を振って、その路地を後にしたのだった。




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