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第十九話 物議を醸す少年少女


 形勢逆転というほどではないが、二人になった途端突然と言っていいほど戦いやすくなっていた。


 二人と言うのは、通常一人よりもずっと強い。

 攻撃回数も敵の追い込みやすさも、戦術の選択肢も、何もかもが上。

 戦力が倍になるどころの話ではない。



 二人………特に、戦いの心得がある者が二人になると、その戦力は何倍にもなる。



 「グギギギ………………ギィィアアア!!」



 オークは重たい一撃を喰らわせるが、二人はそれを交わし、接近する。

 ここまでは一人の時と対して変わらない。

 

 重要なのは、ここからだ。



 「剣伍くん!!」


 「おうよ!!」



 スッと目が据わる。

 ゆっくりと歯の隙間から漏らすように息を吐き、一瞬脱力。

 意識を、沈めるように、鎮めるようにして無へ辿り着き、無駄な動きを削ぐ。

 そして、



 ——————斬る。




 斬撃の雨がオークの出張った腹に降り注ぐ。

 無数の斬り傷が出来た。


 ズキズキとした痛みに耐えかね、オークは抵抗する。

 攻撃は当然剣伍に。

 その瞬間、二人は入れ替わり、攻撃を交代する。


 そして、



 「掌!!」


 「はいッ!!」



 グッと力を溜める。

 剣伍とは対照的に、ドンドン強く、激しい覇気を纏っていく。

 溜めて、溜めて、溜めて、溜めて、




 「ハァァァアアアアァァッッ!!!」



 一気に衝突する。

 拳が体に、傷を掘るように刺さる。

 深く、どんどん奥へと突き進む。

 一撃一撃が激しい連打の嵐は、先程まだ叶わなかった体力の削ぎ落としを、確実に行っていった。




 「ギ、ァア、あ………………」




 本当にすぐであった。

 二人になった途端、一瞬でオークの体力を削り、ここまでこられたのだ。


 もう、終わらせよう。


 あれは元は人間の男。

 しかし、救えないものは救えないのだ。



 「止めです。剣伍くん」



 掌は、オークまで近づき、限界まで貯めた一撃で、緩んだガードを思い切り弾き飛ばした。



 「今です!!」



 開いた道を堂々と駆け抜けていく。

 オークはもう抵抗も出来なかった。

 深々と出来た傷に目掛けて飛び上がった。


 斬り裂く。


 皮を裂き、肉を斬り、そしてついに骨を断ち切って、その巨体に風穴を開けたのだった。



 「………!!」



 着地し、しばらく残心をとる。

 オークの腕はダランと下がり、膝は崩れ、巨体は受け身をとる事もなく正面に倒れ込んだ。


 ここでようやく、剣伍は構えを解いて、気を緩めたのだった。

 



 「………………………………ふぉー………………」




 息を整える。

 ほんの数分だったが、限界を超えた動きをしていた剣伍の額からは滝の様に汗が流れていた。


 文字通りの全身全霊。

 その末に、勝利を収めたのだ。


 剣を振って血を飛ばす。

 そして、剣を納めるのだった。


 フルフルと振るえる剣伍。

 拳を叩く突き上げ、大声で、



 「勝っ………たァァァアアア!!!」



 と、叫んだ瞬間、



 「ああああぁぁ、ぁ………」

 


 オークと同様に、前に倒れ込んだ。

 掌はそれがわかっていたので、あらかじめ移動し、倒れた剣伍をキャッチした。




 これが、剣伍が守れと言った理由である。

 自己催眠は諸刃の剣。 

 例えば、前借りした時間………五分動くときに、身体能力を常人の5倍まで引き上げていたら、その後5かける5から5分を引いて、20分間動けなくなるのだ。

 凄まじい能力であるが故に、代償は大きい。

 それに、何倍かを無限に引き上げられるわけではないので、限界はある。

 決して無敵の儀式ではないのだ。



 「ふむ………試験終了まで残り10分ですか。それまでは確実に動けませんね。約束通り守ります」


 「ぐごおおおおおおおおお………………」

 


 眠っていた。

 図太い男だと言うことにしておこう。

 では、残り10分どうするかと考え始めた。

 ガードを見る限り、どうやら剣伍達は首位になっておらず、掌達が相変わらず首位であった。

 

 それは知られていない。

 知られていないが………



 「自分より強い敵が戦闘後に大荷物背負った状態なら、まぁ狙いますよね」



 と、冷静に向かってくる野次馬たちを見ていた。

 すると、



 「掌くん!」



 捕縛した二人組を引きずりながら、結が駆け寄ってきた。



 「大丈夫!? 怪我は!?」


 「無事です。まぁ、無傷ではないですけどね。あはは………あれ? その子は………」



 妙に距離をとった少女が、近くに立っていた。

 原因は結だとわかるのだが、見覚えのない少女だった。

 掌がじっと少女を見ていると、ああ、と言って結が紹介を始めた。



 「えと………この子は、稲荷坂(いなりざか) 九衣奈(くいな)ちゃんですっ!」



 声が上ずっているので、紹介するのにも人見知りが発動しているらしい。

 ここまで来ると何というか、律儀に人見知りというか、徹底したキャラに感服しそうになっていた。

 すると、紹介を受けた少女………九衣奈は、挨拶がてら軽くお辞儀をした。



 「ご紹介に預かりました、稲荷 九衣奈です。そちらにご迷惑をおかけしているポンコツ剣伍のパートナーをやっているものです。以後お見知り置きを」



 口が悪かった。



 「えーっと………凛堂 掌です。パートナーさんのご協力には本当に助かりました。ありがとうございます」


 「いえ、お礼を言われることは何もしていないのでお気になさらず。馬鹿の面倒を見てもらって、その上ポイントまで恵んで貰えて………こちらこそ助かりました」



 一応初対面の人物には丁寧な様だ。

 それで言ったら、いきなり年下扱いして、挙句に“難しい言葉知ってるんだね!” などと言った結よりはるかに礼儀があるとも言える。



 「え、なに? 何でこっち見てんの?? え?」


 「え?」


 「え?」



 何かしたのかわかっていないのは仕方ない。

 そう、仕方のないことなのだ。


 さて、気を取り直して今後のことを考えることにする。

 というか、もう時間はない。

 野次馬たちはジリジリとこちらに迫ってきていた。



 「で、どうするのですか? 凛堂くん。全員引き摺り回してやればいいですか?」


 「すんごい怖い表現しますね」



 しかし本当にどうするか………と、考えていたその時。

 ふと、捕縛していた金髪の少年が目に入った。

 視線に気がついたのか、目が合う二人。

 掌がなにを考えているのか、金髪は気がついたらしい。



 「そうですね……………いい隠れ家があるのですが………」


 「ほぅ? それはじっくりと聴きたいものですね」





 金髪たちに、掌達の魔の手が迫るまで、そう大した時間はかからなかった。


 そして4人は、金髪の使う『かくれんぼ』の空間で残り時間を過ごすのだった。













——————————————————————————————













 10分後。

 空間から脱出した4人は、外で終了のアナウンスを聞き、その直後に地上へと召喚されたのだった。



 「んっ………………………っぁあーあああ………やっと外の空気が吸える」



 結はグッと身体を伸ばしてそう言った。

 地下の廃校した街では、煙臭くて仕方がなかったのだ。

 熱気で体力は削られるし、そもそも試験なので気が抜けない。

 精神衛生上実に良くない場所であった。


 しかし、やはり掌はケロッとしていた。

 本人自体はそこそこに嫌な空間であったと思っているが、なにぶん涼しい顔が癖づいているせいなのか、全く応えている様子が見受けられなかった。



 「一位取れたかな?」


 「うーんどうでしょうか? まぁ、緊張せずに待ちましょう。焦っても何も起きませんしね。それに………」



 掌の視線は剣伍に向いていた。



 「あー、うん。なんとなく焦っても仕方ない様な気分になったわ」



 倒れてる剣伍に好き勝手している九衣奈を見ると、確かになんというか気が抜けた。

 よく言えば緊張がほぐれたという事だ。


 と、和んでいたのだが、どうやら時間が来たらしい。


 チャオム音が聞こえた。

 アナウンスが始まるらしい。

 結果発表だ。




 『………………あー、あー………えー、一次組の皆さんお疲れ様でした』



 アナウンスはやはり、『指切り』の試験官であった。

 試験前のやりとりがあったので、結はなんとなく安心した様な表情であった。



 『緊急のアナウンスですが、如何だったでしょうか。侵入者を受験者であるあなた方に処理をさせてしまったのは心苦し勝ったのですが…………()()()()()()()()()()()()()………えー、本当にいい経験になったかと思われます。お疲れ様でした』



 露骨に強調していたので、掌は思わず苦笑いをしていた。

 ただ、悪い気はしなかった。



 『えー、結果発表ですが、大々的に行うつもりはありません。時間がありませんので。なので、順位は名前付きで入場許可証からご確認ください。えーそれでは、第二次受験科目まで待機の程よろしくお願いします』



 そう言って、試験官のアナウンスは終わったのだった。



 「っ………いよいよだね」



 あえて最後の10分間順位を見なかった二人。

 特に意味もなく思えるが、なんとなく願掛けのつもりだったのだ。


 一緒にカードを取り出す。

 これに結果が載ってある。


 ゴクリと唾を飲む二人。

 この瞬間は、緊張するなと言っていた掌も緊張するようで、額に小さく汗をかいていた。

 結の方は言うまでもない。



 「じゃあ、見ます!」



 くるっとひっくり返して、ホログラムを映し出す。



 まるで受験の合否発表だなと思ったが、まるでではなくこれは実質そうであった。

 結果を見たのはもちろん結たちだけでなく、殆どが一斉に見たようで、ザワザワと声がどんどん増していく。

 

 そして、ざわめきが最高潮になったとき、二人は黙ってその結果を見ていた。


 



 散々無能だと言われた占術師。

 始まる前の不躾な視線はもとより、そう言う空気感や風潮には慣れつつあった。

 そんな占術師同士のペア。

 その二人がなんと、




 「………一位だ」





 馬鹿にしてきた連中を軒並み飛び越え、山の頂点に立ったのだった。




 「あ、はは……… やッッッッ…………たああああああああっ!!! 私達が、占術師が!! 1000人もいる中で一番をとったんだ!!」




 結は飛び跳ねて喜んでいた。

 あまりに大声だったので、周囲にもその声はよく聞こえていた。


 


 前代未聞。

 そう言う他ないだろう。

 誰もが屈辱を感じていた。

 強ければ強い程、悔しくて仕方がなかった。

 自分達を馬鹿にしていた占術師に負けた事が、どうしようもなく許せなかった。


 波紋を呼ぶ。

 それは二人にとってどう転ぶかわからない。

 しかし、これだけは言える。

 受験者達の注目は、間違いなく、二人の占術師に集まったというのは、確かであった。











——————————————————————————————








 



 そしてこの事実は、受験者のみならず、観測をしていた儀式師達はもちろん、注目していた支部長や、彼らを見知っている盟蓮までしっかりと伝わっていた。




 「あっはっはっはっは!! おいおいやりやがったよ、あのガキども。偉っそうにふんぞり帰ってる他の儀式者達を出し抜いてマジで一位をとっちまったぜオイ。こりゃ楽しいねェ」



 盟蓮は、わざと他の職員に聴こえる様に大声でそう騒いだ。

 こちらも、やはり数名の儀式師達が苦虫を噛み潰した様な顔をしいたので一層気分が良くなった。


 そして、盟蓮はいよいよ空想が目の前に近づき、二人への期待を増していくのであった。




 「このままマジでとるかもな………歴代誰もとった事がない占術師同士の首位合格をよ!!」



 


 

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