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第十三話 ド派手にかます少年少女


 集合がかかり、(むすび)(しょう)は第一受験科目の準備に取り掛かっていた。

 場所は、地下1000m地点。

 技術の発展及び儀式の普及で、人類は空と地底をも我がものとした。

 空飛ぶ島も、地底の都市も、もはや空想ではない。



 儀式対策特別局第弍支部



 地下には、専用に訓練施設を保有している。

 広さは申し分ない。

 回数を3度に分けて、第一試験を行うことになった。


 ちなみに叶絵(かなえ)達特別推薦者は戦闘か否か、どちらかの試験片方を選択し、特権付きで参加可能。

 彼女達は当然戦闘を選んだので、トーナメントの決勝シードで参加となった。

 故に、ここでは参加しない。



 結達は最初の団体の入ることに。

 初っ端から出番が用意されていた。

 集められた1000人のうちの1組。

 物凄い人数だ。

 だがやはり、占術師同士のペアなど結達以外でどこにもいなかった。


 わかっていたが、やはり好奇の目に晒され、結はすこぶる不機嫌そうであった。



 「わかってるけど面倒だなぁ………やっぱイラっとする」



 それとは対照的に、掌は妙に落ち着いていた。

 さっぱりとした表情には余裕すら感じる。

 それはやはり笑顔であった。



 「油断されるというのは、武器です」


 「?」


 「下に見ること、これを油断と呼ぶわけではありません。どれだけ小さかろうと、自分を傷つけうる刃を見逃すこと。これが油断です。だから、」



 結の肩を軽く叩きこう言った。



 「肩の力を抜けばいい。貴女の儀式(懐刀)は、存分に首を刈り取れる業物ですから」

 


 結は、そっと肩に手を置いた。

 緊張で力んでいた硬さも、舐められたことへの憤りからの硬さも取れた。

 言葉とはつくづく不思議なものだ。

 あんな一言二言が、ここまで人を変えるのだから。

 硬さはない。


 ニッと笑みを浮かべる結。

 晴れやかな表情だ。

 今あるのは、揺るぎない心の堅さのみである。




 「えー、ではルールを説明します」



 やはり、試験官は変わらない。

 そろそろ聴き慣れた声は説明を始めた。

 少しばかり長ったらしい説明だが、要約すればこういうことになる。






——————






 これから行われるのは、ポイント制の実践型試験だ。

 制限時間は1時間。

 それ以内に、下記の3つを行う。


 違法者を想定して作られた神力の込められたデコイの破壊。

 現場の儀具、又は所持している儀具か儀式を用いた罠の設置。

 要救助者の治療。



 これは、非戦闘員の主な現場作業を想定して行われるものだ。

 上から数が減っていくが、下は一つのポイントが高い。

 数もバランスよく設置されており、どの系統でも平等にこなせるようになっている。

 ただ、戦闘という種目が用意されているぶん、索敵、治療、罠の設置のいずれにも特化できないため、召喚師は僅かにハンデを背負っている。

 まぁ、召喚するものによってはハンデもないのだが。



 次に、他受験者への攻撃行為は五組まで可とされていた。

 そして、これが重要なのだが、直接攻撃をして戦闘不能状態にする、又は降参を宣言させるとポイントを奪える事になっている。

 ただ、罠にかけたり、建物ごと巻き込んだりしてもポイントにならないのでそこは注意だ。



 それと、設置された罠や周辺の儀具、要救助者へのダメージは減点となる。



 儀具はペアで8つまでとされている。

 不公平かもしれないが、儀具も実践ではズルだのなんだの言えない。

 保有している時点のその者の力だし、使いこなせれば立派な実力のうちである。

 結達の場合、手のが二つだけ身につけ、それ以外は全て結に儀具を用いる事となった。

 一応持っていけるだけ持っていくが、全て使う可能性は低いと思われる。






——————






 「えー、以上で説明を終わります。これから5分後に行われるアナウンスの後に、皆さんを会場に召喚するので、今のうち体を慣らしておいてください。それでは」




 説明が終わると、言われた通りワラワラと準備運動や神力の調整、儀式の手馴しをするものが多くいた。



 「よーし、それじゃあ私たちも………」


 「ストップ」



 掌は水晶を取り出そうとする結を止めた。



 「あれ? なんで?」


 「ありきたりな話だけど、“試験はもう始まってる” って言うやつです。周りを見て下さい」



 すーっと視線を一周させ、周りにいる人物をみた。

 見るも何も、みんな準備をしていると思ったが、よくよく見ると、じっと他人を観察している人物やわざと見せびらかしている人物など、周りとは違う事をしている人が数名いた。


 ハッと気がつく。

 そうだ。

 手の内を晒すのは危険。

 これだけの人数がいれば、目をつけられる事もある。

 そうなれば厄介だ。

 儀式や神力の運営の仕方を見れば、実力をなんとなく測れる。


 だが、見せびらかしている方は何故だろうか。

 意味はあるのだろう。

 しかし、よくわからない。

 すると、



 「隠してる方は分かったみたいですね。では見せびらかしている方、あれは何をしているのか」


 「全然わかんない」


 「まぁ、一般的な知識ではないですもんね。それじゃあ、儀式師の二つ名ですけど、なんでそんなものが必要なのか知ってますか?」



 何で?

 考えたこともなかった。

 よく考えれば、二つ名は本人の儀式に由来するものが多い。

 手の内を晒すのは危険だと言うのに。



 「儀式には、知名度が不可欠です。認識されることにより、儀式はより強力になる。一時的にでも構いません。多人数に認識される事が重要です。特に、人の多い場所なら大人数でなくても周辺で認識しているものがいるということで力を増すんです。いろんな場所で知られているか、狭いところで注目されるか」



 結は誘導されるように、空へと目を向けた。


 真っ先に目に入ったのは、宙に浮かぶ巨大な鷹。

 鋭い爪と、吸い寄せられるような強い瞳がなんとも猛々しい。

 まさに、圧巻の迫力。

 注目を浴びるのは自明の理である。



 そして次の瞬間、



 「!!」



 目にしたのは、息を飲むような光景であった。

 変わったのは骨格そのもの。

 巨躯はさらにひと回り大きくなり、鋭い爪には凶悪さが増し、纏う神力はより力強くなった。


 結はこの光景を見て驚愕の色を隠せないでいる。



 「あ………あれが!?」


 「はい、あれです。しかも、今のでより注目を増したので更に強くなると思います」


 「なるほど………」



 有名になればなるほど強くなるのはわかりやすいルールだ。

 結のヒーローになると言う夢も、強くなる為の要素になるだろう。

 俄然やる気も増すと言うものである。


 いよいよ時間も迫る頃。

 試験開始まで、ついに1分を切った。

 そこで、アナウンスが入る。



 『試験開始まで、残り1分を切りました。テンカウントになったらカウントダウンを始めます。各々準備を終え、いつでも動ける状態で待機して下さい』



 結は水晶を抱え、儀具の棒を背負った。

 準備万端。

 いつでもいける。

 

 ——————いざとなると、やっぱり緊張はする。

 足元はふわふわするし、頭がじんじんする。

 呼吸と鼓動が早くなって…………でも、すぐに収まった。


 そっと肩に手を置いて、思い返す。

 そうだ。

 緊張する必要はない。

 肩の力は抜いていけ。

 


 「頑張ろう」


 「ええ、勝ちましょう」



 カウントダウンが終わる。

 猶予は1時間。

 可能な限り高得点を目指す。



 『3………2………1………制限時間1時間。試験開始』



 会場中が紅い光に包まれた。

 召喚の神力は殺風景な空間を崩していく。

 人も、ものも。

 切り替わった世界の先にあったものは——————












——————————————————————————————











 「………………こ、こは………どこかの建物、かな?………………っ、しかも………相当暑い………」



 息を吸うごとに喉が痛み共に痺れる。

 目を細めていないと、熱で焼き切れそうになった。

 肌が焼け、服に篭る熱気で更に追い討ちをかけるように暑さを増す。


 少し離れた場所に掌がいた。

 窓際で外を見つめている。

 すると、



 「これは………よくできた舞台ですね………」



 と、難しい顔でそういった。

 結もすぐさま駆け寄り、ヒビの入った窓から外を覗く。



 「ッ………!!」



 それは炎上する都市であった。

 燃え盛る火炎と、崩れ去った無機物の山々は、日常を跡形もなく踏み潰した災害の凄惨さを、雄弁に語っていた。


 どうやらこんな場所が今回の試験の舞台となるらしい。



 『起動(セット)



 周囲を確認しながら水晶を起動させ、起動完了と同時に監視に入る。

 かなり手際がいい。

 周囲の探り方も様になっている。


 掌は思わず感心していた。

 物を知らないと思いきや、戦闘に関しては基礎ができている。

 流石、伝説の儀式師の弟子だ。



 「掌くん………」


 「はい、居ますね」



 近くに1組隠れているのがわかる。

 掌には結ほど正確な探知能力はないが、それでもある程度は読めた。

 

 仏眼線——————一般的にはあれば霊感が高いと言われる相。

 そこに神力を注ぎ、線を濃くする事で、人間なら誰しもが持っている神力の探知の能力を遥かに上昇させる事で、人の細かい位置を把握する事ができる。


 正直、マルチな能力を持つにしては便利すぎる索敵能力だ。

 掌自信もそれは自覚している。

 しかし、



 「………げ、さっき絡んできた男の人やんか………」


 「!?」



 個人まで特定する結の索敵能力は、掌から見ても異常であった。

 以前リヴァースメンバーの奏次郎と戦った時も、結は個人を特定するばかりか、その者の儀式系統まで暴いたのだ。


 散々占術師を舐めるなと言っていた掌だが、舐めていたのは自分だったかもしれないと反省する。

 しかし、これは嬉しい誤算であった。



 「………ふふ」


 「? どうしたの?」


 「いえ、なんでもないです。ちなみにこの建物に何人ほどいますか?」



 パッと外を見た感じ、ここは高さは30m程。

 7階から8階と言ったところだ。

 しかも、まだ上がある。

 3分の1は破壊されているが、結構な人数がいるだろう。



 「………18人………デコイも3つあるよ」


 「場所は?」


 「1つ下とここの間だね。隠されてるみたい」



 ふぅんと、呟く掌。

 次の瞬間、周囲に黄金の光を纏った蒼い神力が浮かび上がった。


 ——————熾す。

 燃え上がる炎のように。

 激しく、強く。



 掌の集中が強まるにつれ、蒼は濃くなり、黄金の光は輝きを増していった。



 『起動——————形態(モード)・リライト』



 親指を手のひらに当て、鍵のように回す。

 青い紐が浮かび上がり、掌はそれを強く引っ張った。

 スポーツ線、生命線を強化。

 体が組み変わる感覚は、掌にしかわからない。

 不思議と、痛いわけでも気持ちが悪いわけでもない。

 

 そこにあるのはただ、強くなっていることへの歓びと高揚感のみ。



 「結さん、しっかり捕まってください」


 「へ…………え!? うわわわっ!?」



 掌は結を抱え、部屋の隅から中央へ向かって飛んだ。


 空中で一回転。

 しっかりと足を上げ、背中を限界まで曲げて力を貯める。

 弦を引いた弓のように、しっかりと、じっくりと堪えて、堪えて、堪えて、着地と同時にしなるようにして、





 「ふッ、ゥウッッッ!!!」





 叩きつける。


 中央から広がるように、大きな音を立てながら床が割れる。

 床は瓦礫と化して落下し、見てみると不自然な空間が露出していた。


 

 ——————あった、デコイだ。



 掌はそのまま着地するや否や、デコイを3つとも蹴り壊した。

 破壊されたデコイからは神力が消えていく。

 恐らく消えたら記録される仕組みなのだろう。



 「なるほど、簡単に壊せる様にはなっているんですね」



 手応えがないので、相当脆いが、人が壊そうとしない限り壊れない程度の強度は持っている。


 それとこのデコイ、3つ置いてる辺り隠し要素なのだろう。

 凝った事をするなと思うと同時に、やはりそれをあっさりと見つけた結に感心していた。



 「! 掌くん、2人近づいてくる」



 2人というのは、先程言っていた男とそのペアだろう。

 見つかったら、さぞ文句を言われ絡まれるに違いない。

 なので、丁度良かった。


 これでもう、試験中に会うこともないだろう。



 「………結さん、ここから出るとしたらどの方向に行けば人がいないかわかりますか?」


 「人? えーっと………………南西だね。ビルにはいるけど、まだ人は出てきてない………何する気?」



 ブンブン腕を回す掌に、何か不穏な物を感じたらしく、結は苦々しげな顔でそう尋ねた。

 もちろん、掌が返すのは笑顔だった。


 それも、とびきり嬉しそうな笑顔だった。



 「何ってそりゃあ………」



 あーっ!! と掌達に向かって怒鳴るような声が聞こえる。

 2人はこのタイミングでやってきてしまった様だ。

 予想通り、怒り心頭といった様子で文句を言おうとする男。



 「テメ………さっきのガキども!! もう容赦しねぇ………ここでテメェらの邪魔を………」




 青い光が、部屋中に広がった。


 金色はさらに輝き、触れれば掴めそうなほどはっきりと、くっきりと部屋を漂っている。

 濃密な神力は男やその相方、そして結までも圧倒した。



 「結さん。ド派手に行きます」



 突き上げた拳に神力をのせ、地面を目掛けて構える。

 そして、



 「ッッッァアアアッ!!!」




 一撃。




 たった一撃の拳が、ビルを粉々にしたのだった。

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