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その8「直接対決(前編)」

〜前回までのあらすじ〜

ディアーというショッピングセンターを潰すという無謀な計画を諦めようとしない力也を、千昭と薫は懸命にやめさせようと説得しますが・・・

放課後になり、5人はそれぞれ家に帰った。


そして今度は、学校ではなくディアーに集まる予定になっている。


千昭は帰宅すると堅苦しい制服を脱ぎ捨て、歩いてディアーに向かった。





「千昭、遅いぞ」ディアーの入り口に立っている力也が言った。


「歩いてきたからな。他のみんなは?」と千昭は言った。


「あいつらならとっくに始めてるよ」


「はぁ、そうか。で、どんな嫌がらせをしてるんだ?」


「これ」力也はそう言うと、ポケットから白色の丸い石ころみたいなものを取り出した。「こいつを使う。とりあえず中に入ろう」


「なんだこれ?」


「商店街の駄菓子屋で買ったんだ。知らないのか?踏んづけたらバンッて音がするやつだよ。爆竹みたいな感じだな」


「これをおれに持たせてどうしようっていうんだよ?」


「ディアーの床に落としていけばいい。それだけだ」


こんな小石みたいな物を床に落としたって誰も踏みはしないだろう、と千昭は思った。


しかし、すぐにそうでも無いという事に気がついた。


ディアーの床も真っ白なため、この小型爆弾が目立つことは無い。


力也はせっせと、千昭は仕方なく罠を設置していった。





薫はエレベーターの中に1人きりで突っ立っていた。


カートが2台も入っているため、エレベーターの中はぎゅうぎゅうである。


薫は小さくため息をついた。何でわたしがこんなことを。


「真希と薫には簡単な仕事をやってもらう」今から約10分前、力也はそう言った。「この2台のカートと一緒に、エレベーターに入っててくれ。それだけでいい」


「えぇ!?そんなのつまんない!」と真希は言った。


「じゃあおれたちと一緒にこれ仕掛けるの手伝うか?」


「うん、そっちのほ――」「真希、行くわよ。カートに何か入れておきなさい」薫は慌てて真希の言葉をさえぎった。


今の力也を止めることは不可能だろう、と薫は思った。


薫がそう判断するしかなかったほど、力也のやる気は凄かった。


彼はメンバーにてきぱきと指示を繰り出し、数年前と同じく見事リーダーの座に返り咲いている。


せめて真希だけでも力也に巻き込まれないようにと、彼女の背中を押しながら薫はエレベーターに向かった。


そして今、薫はエレベーターの中にいる。


力也の考えたこの作戦の意図を、薫はすでに理解していた。


ディアーにあるエレベーターは全部で4つ。


3階建てのためか、エレベーターを利用する客は意外に多い。


4つのうちの2つを、薫と真希は満員状態にしていた。


全体の半分のエレベーターがふさがっているので、かなりの迷惑になる。


力也の考えたこの作戦は、とても簡単で効率の良いものだった。


今ごろ力也たちは仕事に取り掛かっているころだろう、と薫は思った。


彼らは自分たちのことに集中している。


今わたしが持ち場を離れたとしても、力也にバレることはない。


すでに10分間はこうしてエレベーターの中に立っている。


何人かの大人たちからは不審な目で見られた。


もうそろそろやめておかないと、警備員に捕まってしまう。


ちょうど1階にいた薫は、2台のカートを押してエレベーターを降りた。


そして薫が隣のエレベーターに近づいた時、どこからともなく『パンッ』という大きな音が聞こえてきた。





千昭と力也、そして優一はせっせと小型爆弾を設置していた。


近くにいる大人たちからはジロジロ見られている。


「全部仕掛け終わったよ」と優一は言った。


ほぼそれと同時に、千昭たちのすぐそばで『パンッ』という音がした。


「どっかのマヌケが引っかかったな」力也は拳を握りしめながら嬉しそうに言った。「じゃあ優一、真希たちのところに行っておいてくれ。おれたちもすぐに行くから」


「分かった。それじゃ、またあとで」優一はそう言うと、千昭たちから離れていった。



それから数分間は何の問題も起こらなかったが、小型爆弾が作動する回数は徐々に増えていた。


「よし、おれも終わったぜ」と力也は言って、千昭の方に近づいてきた。


「またお前たちか!」不意にどこからともなく、あの警備員の低い怒号が聞こえてきた。


千昭は頭を上げて後ろを振り返った。


するとそこには、ものすごいスピードでこちらに近づいてくる大男の姿があった。


千昭たちのイタズラを目撃した大人が、警備員を呼んだらしい。


「バレちまった。逃げろ千昭!」力也はそう言うと、千昭の背中を押して走り出した。


背後からは警備員の鈍い足音と、小型爆弾のはじけるような爆音が聞こえてくる。


千昭と力也は懸命に走った。


「どいてくれどいてくれ!」力也はそう叫びながら千昭のすぐ隣を走っている。


時間帯が夕方のためか、通路は買い物客であふれていた。


客たちは千昭と力也の姿を見るなり、慌てて通路の脇へ飛びのいた。


警備員との距離は少しずつ縮まってきている。


千昭の足は、そろそろ限界が近づいていた。


もう200メートルは全力疾走している。これ以上は無理だ。


「千昭、右だ!」と力也は叫んだ。


かろうじてその声を聞きとった千昭は、力也に合わせて右に曲がった。


千昭たちが急にコースを変えたため、警備員はそれに対応する事ができなかった。


そのままスピードを緩めず、警備員は数日前と同じく再び陳列棚に突っ込んだ。


千昭と力也は立ち止まり、息を弾ませながら振り返った。


床のあちこちには缶詰が散らばっていて、その中に警備員が埋もれている。


店内がざわつき始め、客が集まってきている。


千昭と力也が再び走り出そうとした時、トロールのような大声が背後から聞こえてきた。


「待て小僧ども!よくもやってくれたな」


缶詰の山がグイッと盛り上がり、その中から大男が姿を現した。


千昭と力也はそれを見るなり、大急ぎで走り出した。





薫は、隣のエレベーターから出てきた人物を見て驚愕していた。


そこには真希がいるはずだったが、出てきたのは40台前半の女性だった。


「あの、そこにわたしぐらいの女の子が乗ってませんでしたか?」と薫は聞いた。


「ついさっきまでは乗ってたんだけど。店長さんに連れられて行ったわよ」と女性は言った。


あぁマズイ、と薫は思った。真希が店長に連れて行かれただって?


「そうですか。ありがとうございました」薫はそう言うと、真希を救出する作戦を考え始めた。


早く助け出さなければ、アホな真希は店長に何を喋ってしまうか分かったものじゃない。


口を滑らせて住所なんて言ってしまったら、面倒なことになる。それこそ警察沙汰だ。


「薫、こんなところで何してるの?」と、いつの間にか目の前まで来ていた優一は言った。


「大変なことになったわ。真希が店長に捕まったの」と薫は言った。


「そんなあ。どうする?」


「今考えてる。とにかくあなたは千昭たちを呼んできて。わたしはカートを片付けるから」


「分かった」優一はそう言うと、目にも止まらぬ速さで去っていった。




「2階に逃げよう。エスカレーターを使うぞ!」と力也は言い、エスカレーターを駆け上がり始めた。


千昭も後に続き、必死になって走る。


エスカレーターを半分ほど上がったところで、力也は立ち止まってしまった。


前方にはたくさんの客がいて、これ以上先に進むことができない。


千昭は後ろを振り返った。


追いかけてきていた警備員は、いつの間にか4人になっている。


「ヤバイぞ!どうする?」と力也は叫んだ。


「反対側だ、飛べ!」千昭はそう言い、力也の腕をつかんで隣のエスカレーターに飛び乗った。


『下りる』専用のエスカレーターを必死に駆け上がり、やっとのことで2階についた。


すぐ後ろからは、警備員たちがすごい勢いで逆走してくる。


千昭は大きく息を吸い込み、再び力也と走り出した。


〜後編に続く〜


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