白亜饗宴、囚われる心の在処
白亜饗宴編はまだ続きます。
心情表現の拙さなどは見逃してくれると嬉しいです。
愛しい人の冷たい体を掻き抱いて、私はその頬にキスをした。
「貴斗、愛している。私、ずっとあなたに言いたかった…例えあなたの心臓が動いていなくても、私はずっとあなたを愛し続けるわ…」
私の歪んだ愛を、あの夜あなたの死体に捧げた。
全ては壊れかけた自分の心を守る為。
私の幸せをいつも願ってくれていたあなたは、私の歪みを知ったらどう思うだろう。
気持ち悪いと罵るだろうか?
間違っていると否定するだろうか?
私はおかしい。
死んだあなたに愛されたいと願いながら
あなたにこの歪んだ愛を知られたくないだなんて
矛盾している。
もう何が正解かなんて、分からないけれど
たった一つ確かなことは
あなたにもう一度会って話がしたい。
私と過ごしたあの日々を知るあなたと出会って
もう一度だけでいい
月のようなあの温もりを優しさを
ただ、感じたい
それが出来るのなら
私の全てを捧げるから。
あなたの貌なんて、なんでも構わないから。
ある王城の一室
最も広いその部屋の中は、白亜饗宴の為に集まった王侯貴族で溢れていた。
煌びやかなシャンデリアが天井に設置されている
正装をして集まった王侯貴族達は飲み物を片手に談笑していたが、ふと騒めきだす。
無数の視線の先には、傾国の美貌をもつ二人の男女が寄り添い歩いていた。
勇者の証である金髪をもつ、リユン・クレジア
聖女の証である特別なフロントレットを付けた、綾野玲奈
その二人の美麗さ、他とは違う雰囲気に周囲の人間は圧倒されつつ、見惚れていた。
そんなことは露知らず、玲奈といえば場の雰囲気に圧倒されガチガチに緊張していた。
そんな玲奈は知らず知らずのうちに、リユンの腕に添えていた手の力を強めていたらしい。
リユンは玲奈の方を向いて優しく微笑んだ
「大丈夫ですよ。玲奈、私がずっと傍に居ますから。」
その台詞を聞いて玲奈は思わず目を見開いた。
幼い頃、貴斗に言われた台詞と同じ言葉。
玲奈は微かな胸の痛みと共にある感情を思い出した。
それは、心地よい絶対的な安心感。
この人が居れば絶対に大丈夫
根拠なんてない信頼。
でも、不思議とリユンがいれば大丈夫だと思えた。
きっと、貴斗と同じ台詞のせいだ
きっと、そう
玲奈はそう思うと深呼吸をして、心を落ち着かせた。
心が落ち着いた玲奈に気づいたのかリユンは蕩けるような笑みを浮かべる。
「この宴を楽しみましょう、玲奈。あと、玲奈はそのドレスを着てくれたんですね…やはり、とても似合う。」
その台詞に玲奈は、今日何度目かしれない衝撃を受ける。
「このドレスを贈ってくれたのは、リユンだったの?」
この言葉にリユンは頷くと、嬉しそうに笑った。
今日はリユンの笑顔ばかり見ている気がする。
この胸の騒めきはきっと白亜饗宴のせいだ。
「いろんな貴族が玲奈にドレスを贈っている事は知っていました。選ぶのは玲奈ですがでも、私は玲奈に私が送ったドレスを着て欲しかったんです。だから…とても嬉しい…」
リユンは今日も甘い、甘い台詞をくれる。
きっと、この感情はドレスアップで高揚した気分のせいだ。
私は、まだ貴斗を愛している。
だから、ほのかに心温めるこの感情はきっと気のせい。
玲奈は、心に抱いた温もりを強引に消すとリユンと共に、この国の国王が座る場所を目指して歩いた。
その場所は階段を登った所にあった。
玲奈とリユンは正式な所作で国王と王妃に拝謁した。
国王は、リユンと玲奈に感謝の念を送ると弟であるリユンと話し出した。
玲奈は、国王の傍らに座る王妃と会話した。
王妃は微笑みながら、玲奈に語る。
「玲奈様、この国の勇者であり私の義弟を助けていただき本当に感謝しております。もし、彼が亡くなっていたのかと思うと怖くて堪りませんでした。」
その言葉を聞いて、玲奈は胸を抉る罪悪感に耐えながら微笑んだ。
「いえ、皆様のお力になれてよかったです。」
心にもない言葉が口から飛び出す。
私はリユンと出逢わなければと、彼はあのまま死んだ方が幸せだったと思ったのに
何故みんな、私に喜びを告げるの。
正解なんてもう、分からない
何故、私が聖女なの
そんな玲奈を見ていた王妃は、不意に表情を曇らせた。
「聖女と呼ばれるのは、辛くはないですか?」
まるで、心の中を読んだかのような台詞に玲奈は驚くと王妃から目を逸らした。
王妃は慈しむように玲奈を見ると優しく微笑んだ。
玲奈にはその笑みが自分の醜さまで、歪みまで見透かされてるようでとても恐ろしかった。
「今の貴方は聖女と呼ばれ、いろんな人から愛されているのに、何故か、幸せそうには見えません。」
その言葉に玲奈は思わず心情を吐露していた。
「何故、私が聖女なのでしょう?」
その言葉を聞いた王妃は目を丸くすると、次の瞬間花開くように笑った。
「それは私にはよく分かりませんが、きっと貴方の心の中にある強く秘めた想いが神に通じたのではないのですか。」
その言葉に玲奈は目を見開いた
そして、とても恐ろしくなった。
苦しくてこの場から逃げ出したいと思った。
「すみません。気分が優れないので失礼致します。」
そう言った玲奈を心配する王妃を他所に、玲奈は階段を急いで降りていった。
「玲奈?どうしたんですか?」
階上から玲奈を心配するリユンの声が聞こえてきたが構わず玲奈は必死に人混みをかき分けた。
そうして人がいない場所まで来ると、玲奈は己を掻き抱き、頽れた。
メイクが崩れてしまうかもしれないから、涙は必死に我慢するが、思わず一筋の涙が頬を伝う。
ただ、辛かった、苦しかった。
聖女様と呼ばれる度抉られるこの心が
感謝される度に残る罪悪感が
何故どうして、私はあの時死ねなかったのだろう。
神様がいるのなら、いっそ地獄に連れて行けばよかったのに
それとも、こんな醜い感情が、歪んだものが神様には認められるというのだろうか。
それとも、これは罰なのだろうか。
もう何がなんだか分からない。
辛い、辛い、辛い、辛い
決して理解なんてされないこの想いが
こんなものに囚われ続ける自分が
歪んでしまった自分が
誰か、こんな私を赦して
早く玲奈には幸せになってほしいと思っています!
まだ白亜饗宴編は続くので、次回の投稿も読んでくれると嬉しいです!
あと、ユーザーでなくとも感想を受け付けるようにしたので感想を送ってくれると嬉しいです!