白亜饗宴、始まりの揺らぎ
白亜饗宴編です!
私の中では、玲奈はとっても可愛い子です。
今回の話も楽しんでくれると、嬉しいです。
「愛している。ずっと…」
そう言いたいのに声は掠れて、君には届かなかった。
僕の手に縋り付きながら、まるで幼子のように泣きじゃくる君。
そんな風に泣かないで
君には笑顔が似合うよ。
そう言いたいのに声が出せない。
君を幸せにすると誓ったのに
僕はいつも、君を傷つけてばかりだ。
腹部から流れ出る多量の出血に意識が朦朧とする。
死を間近に感じながらも胸を焦がすのは
君に対する愛しさだけ。
いつからだろう。
君に対する愛の形が変化していったのは。
抱きしめて、愛を告げたい
そう思うようになったのは。
ごめんね。
ずっと傍にいると誓ったのに
ごめんね。
約束を破って
そして、玲奈
ただ、愛しているよ。
神様がいるのなら
お願いです。
もし、来世というものがあるのなら
ただ彼女の傍に
白亜饗宴当日
玲奈は朝から忙しかった。
この日ばかりは聖女の治療はすることなく、朝から体をメイドによって磨かれ、髪や爪の先まで整えられた。
メイド達によって、メイクはナチュラルで清楚に見えるよう施され、玲奈の長く艶めく黒髪は編み込まれ美しい蝶の細工がされた真紅のバレットがつけられた。この饗宴に参加する際、聖女の証であり必ず付けなければならない、金銀の細工で細かい模様が表現されたフロントレットは、中央に金黄色のルチルという宝石が嵌め込まれており、とても精緻かつ華やかで美しい。それを付け、あの純白のドレスを身に纏った玲奈はとても美しく神秘的だった。
メイド達は満足げに頷くと興奮して言った。
「聖女様!大変お美しいです!」
「きっと白亜饗宴に訪れる誰もが見惚れますよ!」
「勇者様も聖女様の美しさにきっとめろめろになりますよ!」
一人、的外れな褒め言葉が聞こえたような気がしたが、玲奈は、はにかみ微笑んだ。
「ありがとう。」
その表情にメイド達はますます玲奈の美しさに心酔し、何か語っていたが、玲奈の耳には届いていなかった。
玲奈は鏡から目を離せずにいた。
いつもとは全然違う自分の姿に玲奈はかなり驚いていた。
元の世界ではドレスなんて着たことはなく、メイクすらしたことなど無い。
面倒くさいことは嫌いな玲奈だったが、やはり女の子である。
ドレスやメイクに多少の憧れを持っていた。
それ故に玲奈は、今回のドレスアップに戸惑いながらも、内心高揚していた。
そして、思わずにはいられなかった。
貴斗にも見せたかったと…
そうして準備の整った玲奈を見計らっていたかのように
ドアがノックされた。
「失礼致します。」
入ってきたルトは玲奈を見ると固まり、次の瞬間頬を染めた。
「美しいです!聖女様!」
異性から褒められたことなんてない玲奈。
褒められ慣れしていない玲奈は思わず頬を染めた。
「ありがとう」
その様子が大変可愛らしく見ていたルトやメイド達はますます玲奈に心酔した。
ルトは、顔が緩みそうになるのを必死に堪えるため、表情をキリッとさせた。
「王弟殿下がお見えになっております。」
それに玲奈は目を丸くした。
「リユンが来ているの?」
「聖女様をエスコートなさりたいのでは、ないのですか?」
ルトの言葉に純粋に驚いた玲奈だったが、王侯貴族に、リユン以外の知り合いなどおらず、ドレスアップに高揚していたものの、白亜饗宴に対してはかなり緊張しており憂鬱に感じていた。
これ幸いと玲奈はリユンの待つ部屋に向かった。
玲奈の住んでいる場所は王宮の一部分にある、聖女専用の住居だった。
住み始めた当初は、あまりの広さと部屋の多さによく迷子になっていた玲奈だったが、一ヶ月経った今ではもうそういうことはなくなっていた。
そうしてリユンの待つ部屋に辿り着き、扉をノックすると中から声が響いた。
「入っていいですよ」
玲奈は扉を開けた瞬間思わず固まった。
瞠目したまま動けなくなった。
あまりのリユンの美麗さに。
純白の軍服はリユンの肩ぐらいまであるサラサラの金髪と碧眼にとてもマッチしていた。所々にある黒と金の刺繍が純白との対比をつけ何処か妖艶さを感じさせる。
元々リユンは絶世の美貌を持っていたが着飾ると、なお凄かった。
玲奈はリユンに見惚れていたが、それはリユンも同じだったらしい。
「これは…すごい…」
そうリユンは言うと玲奈を穴が空きそうな程見つめた。
その視線に耐えきれなくなった玲奈はリユンから目を逸らすと、頬を染めた。
やはり異性との接触は恥ずかしい…
「見ないで…」
そう言った玲奈を見るや、リユンは玲奈の傍までくると玲奈を抱きしめた。
突然のことに玲奈は驚いたが、自分の格好の露出が激しかったことを思い出して、玲奈は抵抗した。
「離して…」
必死にリユンから離れようと試みるも、相手の方が力が強く上手くいかない。
「貴方を誰にも見せたくない…」
そう耳元で囁かれ、玲奈はより頬を染めた。
しばらくして、玲奈を離したリユンは傅くと玲奈の手を取り、手の甲にキスをした。
「貴方をエスコートできること、神に感謝致します。」
今日はドレスアップや饗宴のことで、少しおかしくなっていたのかもしれない。
リユンにときめくだなんて
貴斗への裏切りだと分かってはいても、
リユンに対する胸のときめきは、中々消えてはくれそうになかった。
心とはなんて思い通りになってくれないものだろう。
白亜饗宴の幕が上がる。
因みに、フロントレットとは、額や前頭部に付ける装飾バンドのことです。
まだまだ白亜饗宴は始まったばかりなのでこれからも読んでくれると嬉しいです!
拙かったり、変な表現があっても温かく見守っていただけると幸いです!