05
「思緒姉、話って?」
「そこに座って。」
「…?わかった。」
思緒姉の言う通りに、小さなテーブルを挟んだ向かい側に座る。
「それで、話ってなによ。」
「最近、ハル君のことを聞き回っているらしいわね。」
「え!?」
「なんのために?」
「いや、なにかのためとかは特に無いんだけど…」
「真実、貴女もしかしてハル君のことが好きなの?」
「そ!そんなわけないじゃん!思緒姉いきなりなに言ってんのよ〜!!」
「……わかりやすい反応ね。」
「……。」
ダメだ演技が通用しない!めちゃくちゃ恥ずかしい!!
思緒姉はひとつ息を吐いて言葉を続けた。
「いつからなの?」
「……好きだってことに気づいたのは去年…だけど、多分もっと前から…」
「……そう。」
「そうって、思緒姉なんとも思わないの!?」
「なんともって?」
「え……だから妹なのにお兄ちゃんのことを好きになるなんて気持ち悪いだとか…」
「思わないわ、私もハル君のこと好きだもの。」
「……へ?」
「真実、貴女まさか私がただ弟のために毎朝起こしてあげたりお弁当を作ったりしていると思っていたの?もちろん弟としてもハル君を愛しているけれど、私はハル君を男性として愛しているからこそ溺愛しているのよ。」
「え……?」
「まぁ、姉妹だから仕方がないことね、同じ男を好きになるのも。」
「えぇぇぇええええええ!!!!!!!」
「いつから!?いつから思緒姉はお兄ちゃんのことを!?」
「ハル君が生まれた日から。」
「なっ……」
「本当を言うと、ハル君が真実のオムツを替えることにすら私は嫉妬していたわ。」
「ど、どうしてそこまでお兄ちゃんのことを…」
「不思議なことを聞くのね、血を分けた弟以上に私に相性の良い身体と精神があるはずがないじゃない。私はハル君の全てを愛しているのよ。」
「……。」
私はもうボロボロだった。今までの三人含めて四人全員がお兄ちゃんのことが好き。そして私には到底理解できないような愛情を持っていた。正直、異常とまで言えるそれを目の当たりにした私は自分がお兄ちゃんに対して抱いた恋心がとてもちっぽけなものにすら感じていた。
「……真実。」
「…なに?」
「真実はハル君にどうなって欲しいの?」
「…え?」
「真実のことを愛して欲しいのか、それともそのままでいて欲しいのか…」
「私の気持ちじゃなくて…お兄ちゃんにどうなって欲しいか…」
私は…私はお兄ちゃんとどうなりたかったんだろう…私の好きという気持ちは…他人と比べて良いようなものだったんだろうか……
お兄ちゃんには私を…私をうんと可愛がって欲しい。そうだ。いつまでも私の兄でいて欲しい。私は別にお兄ちゃんと結ばれたいとかそういうんじゃない。いや、ちょっとはそういうのも悪くないと思わなくもないけど…私は…お兄ちゃんが私のお兄ちゃんでいる限り妹として私を愛して欲しい。だからこそ私は嫉妬だってするしお兄ちゃんを独り占めにしたい。
そうだ……お兄ちゃんは…私のお兄ちゃんなんだから。
なにか胸に引っかかっていたものがスッと取れた気がした。
「うん!ありがとう思緒姉、私スッキリしたよ!」
「そう、良かったわね。」
「じゃ!早速お兄ちゃんに愛情をもらってくるよ!」
「えぇ、しっかり愛してもらいなさい。」
「うん!」
「……もう少し、普通の姉妹でいられそうね。」
「お兄ちゃん!」
「うおっ!?なんだよ急に…ビックリしたなあ。」
「……。」
「ん?どうした?」
……どうしよう…。勢いづいて入ったは良いもののなんて言えば良いんだろう…いきなり甘え出したりしたら気持ち悪いだろうし…。
「真実?」
「な、なによ!」
「いやこっちのセリフなんだが…」
「う、うるさいな!せっかく妹が遊びに来てあげたんだから黙ってなさいよ!」
「どういうこと!?」
「だぁーっ!!もう!やっぱりこんなんじゃダメだ!」
「えっ…真実?ちょっと?うぉぉお!?」
「……。」
「……。」
お兄ちゃんをベッドに押し倒し、私はその上に馬乗りになる。
「……真実?」
「お、お兄ちゃんは…」
顔が熱い。なんども経験した、あの熱さだ。ただ恥ずかしいんじゃない、死ぬほど恥ずかしい。
「お兄ちゃんは私のこと好き?」
「……は?」
家族として、妹として。
「答えて…家族して…」
「うん、好きだよ。」
聞けばこう答えてくれる。小さな頃からそうだった。
お兄ちゃんは正直だから…
だけど私は…嘘をつく。
「シスコンだね。」
「フン、そういう真実はブラコンだな。」
「ふふっ…そうかもね。」
これは恋ではないと。
私は……妹として愛してもらえればそれで…