04
お兄ちゃんをまともにするためには、まずその周りから変えていかねばならない。そう考えた私は早速翌日から行動に移した。まずは見知った相手、野美乃さんからだ。昨日の感じを見る限り、一番まともな印象を受けた彼女が去年初めてお兄ちゃんを訪ねてウチにやって来たことはまだ記憶に新しい。
私は野美乃さんを放課後に喫茶店に呼び出して情報収集をすることにした。
「の、野美乃さん…その…来ていただいてありがとうございます。」
「いえ、真実ちゃんのお願いなら断るわけにはいきませんから。」
「それでですね、急で申し訳ないんですが…野美乃さんはお兄ちゃんのことをまだ好きだったりするんでしょうか?」
「え?」
「ほ、ほら…お兄ちゃんってもう彼女がいるから…」
「好きですよ。」
「…え?」
「好きですよ。」
「あっ!そ、そうですか!」
こ、怖い!
ピクリとも表情を変えず笑顔で宣言する野美乃さんに少し恐怖を覚える。
「あの、例えばお兄ちゃんのどんなところが好きなんでしょうか…」
「陽満君の好きなところですか?そうですね、あげるときりがないので少々はぶいて説明すると、やはりまずその優しさでしょう。陽満君は非常に面倒くさがりな面がありますが困ってる人がいればまず間違いなく手を差し伸べるはずです。次に毎朝挨拶を返してくれることです。これほど嬉しいことはありません。あといつも陽満君は私の作った料理を美味しい美味しいと食べてくれることもポイントです。それから一緒にいて安心するというのも大きいですね。陽満君は少しドジなところがあるので私が守ってあげなくてはと思わせてくれるところも好きです。ああ、そういえば私が陽満君のことを好きになったのは幼稚園の頃まで遡るのですが……………………」
「……………と、まあ私が陽満君を好きな理由を挙げるとすればこれくらいですかね。」
「………………ありがとうございます……」
な、長かった!!!!!!!!!!!!!
10……いや20分は喋り続けてた!?
野美乃さんもっとおとなしいイメージだったのに…
「あ、そうだまだありました。」
「も!もう結構です!」
「……そうですか?」
「はいありがとうございました!!!」
翌日同じ喫茶店、今日は伊藤さんだ。一昨日の印象では元気で親しみやすい感じだった。彼女なら日頃のお兄ちゃんについてよく教えてくれるだろう。
「今日は来ていただいてありがとうございます。」
「いいよ、ハルマの妹さんの頼みだからな。」
「…あ、あの随分と兄と親しい様子ですけど伊藤さんは兄とどのような仲で……」
わ、私はなにを聞いてるんだろう…これじゃあまるで相手を牽制してるみたいじゃない!
「私とハルマは親友だよ。」
「親友…ですか?」
な、なんだお兄ちゃん!ちゃんとした友達がいるじゃない!それにしても女子の親友とは、お兄ちゃんもなかなか良い経験を積んでるわね!
「まぁ、あわよくばハルマと付き合いたいけどな!」
「…………え?」
「実は私はハルマとは小学生の頃に一度会っていてな、その頃からハルマのことを好きなんだよ。」
「……なる…ほど?」
「ま、ハルマはもう付き合っている人がいるし私は別に愛人という形でも構わないけどな!」
「いやいや!そういう問題じゃ…」
「安心しなよ、君のお兄さんを無理やり取ったりはしないから。」
「……。」
それ以上は何も言えなかった。なんだか伊藤さんの雰囲気が急に変わったような気がしたからだ。
「それで、まだ聞きたいことがあったんじゃないの?」
「あっ…えっと…ふ、普段のお兄ちゃんの生活態度というか…どんな風に過ごしているのかを教えてもらいたくて…」
「ハルマの生活?うーん、真実ちゃんの方がハルマのことをよく知っているとは思うけど……そうだなあ、じゃあ今日のハルマの様子を教えてあげよう。」
「お、お願いします!」
「まず今日、ハルマは午前6時35分23秒に起きた。」
「……え?」
「朝食をとったのは同50分ごろからで最近始めた朝の勉強を30分程度してからトイレにこもった。トイレはさほど時間がかからなかったことを考えれば恐らくは小だ。家を出たのは8時32分で…」
「ちょ、ちょっとストップ!」
「どうした?」
「どうした?じゃないですよ!なんでそんなことを伊藤さんが知ってるんですか!?」
「…?好きな人のことを知るというのは当然のことだろう?」
「……!!!!!」
衝撃が走った。好きな相手のためにここまで情報を把握することが…当然。それは私にとってまさに初めて遭遇する未知の存在だった。
そしてその翌日、私は勇気を振り絞りとうとうお兄ちゃんに卵焼きを突っ込んだ女子生徒、立花あきさんを喫茶店に呼び出すことに成功した。
立花さんは来てくれないと思っていたけど、思ったよりもすんなりと受け入れてくれて助かった。そしてもう私はどんな相手でも驚いたりはしない。昨日までの二人でだいぶ鍛えられたから!
「それで、話って?」
「あっ…はい、率直に言いますと兄のことでお話が…」
ピクリと立花さんの眉が動く。
「ハル…陽満君のことって?」
「その…先日のことでもしかして立花さんは兄のことが嫌いなのかな…と思いまして…」
「き、嫌いじゃないから!」
「うわっ!?」
「あ、ごめん…」
「いえ…」
……もしかして…いや、まさかね…そんなはず…
「も、もしかして立花さんも兄のことを…?」
「ブフッ!」
「大丈夫ですか!?」
「大丈夫…。」
私の言葉に反応したのか、立花さんが紅茶を吹き出してしまった。
「すみません、急に変なこと聞いちゃって…」
「いや…こっちこそ勘違いさせてごめん。そ、それと…」
「はい?」
「は、ハルちゃんのことは好き……です。」
グハァッ!!!!
あ、危なかった!な、なんて武器を隠し持ってるの…
それよりお兄ちゃん!なんで!?なんでみんなお兄ちゃんのこと好きなの!?
「えっと、真実ちゃん…でいいのよね?」
「え?あ!はい!」
「私、面倒くさい性格だけど仲良くしてね。」
「は、はい!」
少し照れながら握手をした私は、とても安心した。
立花さんは普通だ〜。
「ただいまあ……」
「お帰り真実、今日も遅かったのね。」
「思緒姉…うん、ちょっとね。」
「お風呂あとお父さんと真実だけだから、早く入っちゃいなさい。」
「うん、わかった。」
「それからご飯の後に少し話があるから、私の部屋に来なさい。」
「え?うん、わかったよ。」
「それじゃあ、また後で。」