03
「……。」
「ハルマ、今日は私と昼食を共にすると言ってたじゃないか!」
「残念ながら、ハル君は今日も明日も…これから先ずっと私と私の作ったお弁当を食べるの、伊藤さんの出る幕はないわ。」
「は、陽満君、良ければ一緒に購買に…」
「なにあれ。」
「先輩、人気者ね。」
入学して早三週間、まだまだ慣れないことも多いながら、私は高校生活を楽しんでいた。
しかし…この三週間時間をみてはお兄ちゃんの様子を見ていたけど、なんであんなに女子に囲まれてるの!?
「それで、今日も声はかけないの?」
「こ、声をかけるってどういう…」
「…?お昼ご飯一緒に食べたいんじゃ…」
「そ、そんなわけないでしょ!?」
嘘である。そうでなければこうして昼休みに毎日教室の前に来ることはない。ただ、恥ずかしくてなかなか踏み出せないのだ。
「たしか先輩彼女さんがいるんでしょう?あの人達の誰かなの?」
「え?いやお兄ちゃんの彼女は去年卒業したはずだよ。」
「なるほど。」
「それがどうかしたの?」
「まずいと思わない?」
「なにが…」
「彼女さんの監視もない以上先輩はやりたい放題、しかもあの美女揃いよ。つまりはその場の役に任せて……」
「せ、瀬里奈?」
「コホン…とにかく、真実が先輩の手綱を握っておかないと思春期の男子はすぐに過ちを犯すってことよ。」
「過ち……」
友人から教室内へと視線を移す。
…確かに兄周りにいるのは美女ぞろいだ…野美乃さんともうひとり明るい女子生徒…思緒姉はどういう立ち位置なんだろう…お兄ちゃんを守ってるようにも見えなくないけど、最近なんだか家でもよく一緒にいるし…
「君たち一年?誰かに用?」
「へっ!?」
瀬里奈と二人で教室後方のドアに身を隠して教室内を伺っていると、近くの上級生に声をかけられてしまった。まぁ、確かにここ数日いつも同じようなことをしていたので不審に思われても仕方がない。
「私たち家内先輩にようがあるんですけど〜」
「瀬里奈!?」
「家内?あぁ、家内思緒さんね。」
「え?」
「家内さーん、一年生の子が呼んでるよー。」
家内って言われてお兄ちゃんより思緒姉の方が真っ先に出て来るって…三年間なにしてたのよバカ兄貴は…
「真実?なにをしているの?」
「あっ…えっと思緒姉とお兄ちゃんと一緒にお昼ご飯食べたいな〜って…あはは…」
うん、嘘ではないのでセーフのはずだ。瀬里奈の目が少し痛いけどここは無視しておこう、うん。
「……そうね、それじゃあ一緒に食べましょう。」
「う、うん!」
「真実ちゃんはハルマの妹なのか、はーっ…確かに言われてみれば似ているな。あ、私は伊藤泉だよ、学園祭で見たことあるかな?」
「は、はい瀬里奈も出てたやつにお兄ちゃんと一緒に出てましたね…」
「そうそう!」
「真実、そんな知らない人に個人情報を公開する必要はないのよ。」
「なんだなんだ、人聞きが悪いなあ。」
「そもそも、なぜあなた達がいるの?真実の友達はともかくあなたたちもと言った覚えはないわ。」
「ま、まあまあ思緒姉…同級生なんでしょ?仲良くしなくちゃ…」
「……真実、世の中には関わってはいけない人というのは沢山いるのよ。」
「…な、なるほど…」
「陽満君、この唐揚げもぜひ食べてください。」
「あ、あぁ…うん…」
「っ!?ちょっとお兄ちゃん!なにやってるの!?」
「え?いや別に唐揚げくれるっていうからもらってるだけだけど…」
「ハル君!私の作ってあげたお弁当の中にも唐揚げは入っているでしょ?」
「そ、それとこれとは別だろ?」
「なっ……」
「お兄ちゃん…いつも女の子に囲まれてニヤニヤして…私は妹として恥ずかしいよ…」
「えぇ…」
その時、ガタリと音を立てて女子生徒がひとり立ち上がった。その目はこちらに対して明らかな敵対意識を持っていると思われるほど鋭い。
やばい…うるさくしすぎただろうか…
女子生徒は持っていた箸でお弁当に入っていた一口サイズの卵焼きを取り、そのまま歩いてお兄ちゃんの前に立つ。
「あ、あき?」
あき…女子生徒の名前だろうか?それよりお兄ちゃんとどんな関係が…
「うぶっ!?」
「ハル君!?」
「「「!?」」」
その場の全員の動きが止まった。お兄ちゃんの前に立ったあきと呼ばれた女子生徒が卵焼きをお兄ちゃんの口に突っ込んだのだ。
「うるさい。」
その一言だけ言い残し、女子生徒はまた席についてまたお弁当を食べ始めた。
こ、怖い人だ…間違いない。
「はぁ…」
「どうしたの真実、元気ないわね。」
「いや、ものすごく疲れたなと思って…」
「あぁ…でもやっぱり先輩は面白い人ね。」
「え?そうかなあ…」
「そうよ。」
瀬里奈と一緒に喋りながら教室に帰る。結局あまりお兄ちゃんと会話はできなかった。それどころかお兄ちゃんがちゃんとした高校生活を送れているか疑問に思うようなことしかない。あのあきという女子生徒との関係は特にそうだ。まさかいじめられているなんてことはないだろうけど…
そうだ思緒姉ならなにか知っているかもしれないし、また今度聞いてみよう。
それにしても…まさかお兄ちゃんの周りにあんなに女子がいるだなんて…普通に考えておかしいじゃない!あれじゃあ私の入る隙なんて…
いや、諦めちゃダメよ真実!私は妹なんだからもっとこうズガッと行っちゃえばいいのよ!
「真実?」
「え?なに!?」
「いや、教室ここだけど…」
「あ!そ、そうだったそうだった…え、えへへ…」
「しっかりしなさいよ。」
とにかく今のままではお兄ちゃんがダメになるのは明白!妹である私がなんとかしなくちゃいけないわ!
よし、やるわ!やってやるんだから!