prologue
人垣をかき分けて、前へと進む。前方から幾人かの声が上がる。それは嬉しさを帯びていたり、時に悲しみに満ちているものもある。
「わっ!?」
波のように動く人々に押され、手に持った1枚の紙を落としてしまいそうになる。離してしまわないように、ポケットに入れてさらに前を目指す。
少しずつ前に進み、ついに目的のものが見える位置にたどり着いたのでポケットから紙を取り出してその紙に書かれた3桁の数字が前方に置かれた板に張り出されているかを確認する。
「265……265…26…」
私が数字を探している間にも沢山の声が聞こえる。集中したいのでもう少し静かにしてほしいところだけれど、自分の人生を決めるかもしれない岐路のひとつなのだから感情が高ぶるのも無理はない。
「5……あ……」
瞬間、一気に声を上げたい気持ちをぐっと堪えて、来た道を引き返す。変な顔をしていないだろうかと心配になりながらも、自分の顔がどんどん熱くなっていくのがわかった。
「ど、どうだった!?」
人混みからようやく抜け出した私に、付き添いで来ていた兄が駆け寄って来た。私は心配そうにうかがう兄に対してピースし、どうだ!と言わんばかりに結果を伝えた。
「受かったよっ!お兄ちゃん!」
「本当か!?やったな!!」
「うん!」
兄が抱きついて来たので少し驚いたけれど、私の合格をここまで喜んでくれるとは思っていなかったから少し嬉しい。
「あっ、ちょっと友達のところ行ってくるね!」
「おう!」
兄に待ってもらい、少し離れた位置に三人で話していた友人達の元へ行く。といっても、同じ学校を受けたのは瀬里奈だけで、後のふたりはその付き添いだったりする。
「おーい、三人とも!って、なんで菜々はそんなにニヤニヤしてるのよ。」
「いや、お兄さんとえらくきつく抱きしめ合ってたから。」
「いや、あれはなんというか…そ、それよりも瀬里奈はどうだった?」
「ごまかした。」
瀬里奈の後ろでチャチャを入れるふたりは放っておき、同じ学校を受験した友人の結果を聞く。その自信たっぷりの表情から結果はあらかた予想がついていたけれど
「もちろん、合格したわ。」
「それじゃあ!」
「えぇ、また春からよろしくね真実。」
「うん!」
中学を卒業した年の4月、私家内 真実は兄と姉が通う高校に入学した。