このコンビニは幽霊騒ぎがある
このコンビニは個性の強い店員やお客さんが数名いるだけです。そう思っていた時期が俺にもありました。
そうあれは出勤二日目の夜勤に起きたことです。
私こと矢三倉閥は深夜と言えどせっせと裏側で売り物のドリンクを冷蔵庫のショーケースに補充してた時です。これは先輩のイニシャルKさんが仕事をさぼり俺に全部……いやこれは関係ないな、まあとにかく仕事中だったんです。
すると突然、ショーケースに並べられたドリンクが何度もドミノ倒しのように傾き、何度きれいに直しても治ることはありませんでした。
これだけじゃただショーケースに問題あるだけかもしれません、ですが他にも恐怖が終わることはありませんでした。
突然、来客してないのに開く自動ドア、突然壊れだした監視カメラ。カメラの砂嵐の中に一瞬だけ映る人の影、店の壁にできた人の影を模ったような黒いシミ、たった一度の夜勤だけでこれだけ起きたのです。
もしこれが本物の霊による仕業なら、彼、彼女は一体何を訴えってるのでしょうか……それともただ、いたずらとしてからかってるだけなんでしょうか……
φ
休憩室で閥と店長は顔を見合わせてため息をついた。
「なんなんですか、このコンビニ、心霊現象が積極的に起こるなんて聞いてませんよ」
というかあってたまるか。
店長は椅子に座り、ハハハと呑気に頭を掻いた。
「幽霊も殴れたらいいんだけどね」
そう言って制服の上から力こぶを作り出していた。
何、この店長、幽霊相手にステゴロ挑む気か。
「ここ最近、ポルターガイストのせいで常連さん以外お客さんが来なくなってるんだよね……売り上げも不調だし、やっぱりお札が効かなくなってきてるのかな」
閥は休憩室のそこら中に張られまくるお札を見た。一つ一つの椅子にも張られて逆に不気味だ。
ここだけじゃない、店内もお札が張られまくっていて客が来ねえ理由はそっちだろと言いたくなった。
だが気休め程度にもお札の効果はあり、ポルターガイストが発生する回数は減ってきたのも事実。頭が痛い。
「こんな時、祝呪さんがいてくれたら助かるんだけどな……」
「しゅじゅ?」
変わった苗字につい声が漏れた。店長は知らない俺を見て、
「ああ、祝呪さんはね、ここのバイトマンで心霊現象のスペシャリストなんだ。このお札を作ったのも彼女なんだよ」
彼女、つまり女性か。
俺はその話を聞いて一つだけお札が張られまくっているロッカーを見た。おそらく彼女が使用しているロッカーはあれだろう。
「でも最近大学の勉強が忙しくてここ一週間のシフトお休みなんだ」
今日は水曜日、つまりこの地獄が何日も続くというのか、もう辞めたいと思ったがそれはそれで九頭竜の思い通りになりそうなので嫌ではある。
「本当に困ったね……」
店長は頬杖をつき、またため息をついた。彼は本当に苦労人なのか見ていて過労死しそうだ。
その時、バタンと休憩室のドアが開き、そこは制服を着た茶髪の青年が肩で息をして何か朗報でもあったのか嬉しそうな顔をしていた。
彼は大学生の太刀村勇、染めたのが一目でわかる茶髪にベルトにぶら下げたチェーンを見て一見チャラチャラした印象を抱くが、それとは別に人懐っこい雰囲気を持っていた。
実際彼は閥に丁寧に仕事内容を教えてくれて接客態度も良く、手際も起用、何やっても万能で良い人だと思う。
昨日だってバイト中に助けを求めてきた子供がいた。それは自転車のチェーンが壊れていて向かいに来てもらおうと思っても電話番号は知らない、家は遠いらしく困っていたところ、彼が自転車屋を教えてあげて躊躇いなく彼に一万円を預けたのだった。
その日の夜にその子の母親がやってきて彼に感謝の言葉を伝えていたのが鮮明に記憶に残った。
俺からすれば人は見た目で判断すべきじゃないなと知らしめてくれる最後の希望かも知れない。
「店長! 祝呪さんが今日いけますって言ってるっすよ!」
その言葉に店長は喜び、両手でガッツポーズをした。
「本当に良かったっすね!」
太刀村はサムズアップをしながら、もう片方の手で閥にハイタッチを要求してくる。俺も手を当ててそれに答えた。
「祝呪さんって人はこの手の幽霊騒ぎに得意なんですか」
「そうっすよーなぜかって言うと祝呪さんは霊媒師の家系なんすよ。なんでこの心霊現象もパパっと解決するっす」
霊媒師、それは信じていいのか。一気に胡散臭さが増した気がする。
何だか知らないがこの状況が終わってくれるならなんでもいい、そう思って閥はため息をついた。