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エピローグ

 コンビニの外で待機されていた救急車のタンカに連れていかれるテツさんを見て私は急ぎ足で彼に近づいていった。


「テツさん大丈夫ですか?」


 ぽっちゃっとしていて青白い彼は私の手を握った。


「本当にありがとうな……なんで俺たちはこんなことしちまったんだろ……」


「ちゃんと罪を償って元気になってくださいね」


 私はニコリと笑い、テツさんの目には涙が浮かんでいた。


「君は俺みたいな奴を助けてくれて……ああ、ちゃんと償うよ……」


「はい、また何かお金で困ったら相談してくださいね、おじいちゃんの知り合いがお金の問題で詳しいらしいんですよ」


 するとテツさんはより青白い顔になり、


「いや怖いからきちんと働くよ……」


「? でもそれが一番です」


 そうしてテツさんは救急車に運ばれていった。


「大丈夫でしたか、霧ちゃん様……」


 後ろから雪子ちゃんが私に心配した様子で顔を窺っていた。

 他にも彼女に続くようにこの店の店員の人たちが集まってくる。


「これタオルっす」


「あ、ありがとうございます」


 ごしごしと顔の血をタオルで吹き、一つため息をついた。


「しかし……奴は災難だな」


「貴公の運の無さは同情する……せめて今のうちに歓迎会の準備でも済ませておこう」


「矢三倉様の守護霊様から不運の相が出ていました……」


 バイトメンバーはうんうんと閥さんの運の無さを同情するのであった。


     φ


 ここは刑事ドラマでよく見た取り締まり室、かつ丼は出ない以外はほとんどドラマ通りだった。そんな中、閥は枯れた目で目の前の鬼の刑事を見ていた。


「お願いですから信じてくださいよ……俺は共犯者じゃありません……」


「ええい! 嘘をつくんじゃない!」


 かれこれ数時間、俺が出所できたのは二時間たった後だった。

 ああ空が暗い、星が良く見えるなぁ……

 トボトボした足取りで家に向かい、この際タクシーでも使おうかと財布の中身を確認するが給料日前なので無い。自転車も店に置いていたし最悪だ。ああ、、頭が痛い。

 包帯の下でズキズキする頭を撫でながら歩道を歩くと、プップーと道路からクラクションが鳴った。


「よっあんちゃん、帰りかい? 送っていこうか?」


 振り向くと黒いベンツに乗るパンチパーマのバラさんがにこやかに笑っていた。


「え、いいですよ……」


 自分の身を守りたいので本気で遠慮するが、


「ええやろ、あんちゃんは今日のMVPなんやから送ってやる」


 その言葉に甘え閥は助手席に座り、キチンとシートベルトを締めた。

 車は静かに走り出す。俺はこのまま眠ってしまいたかったが横が怖いので目を大きく開いた。


「なあ、頭は大丈夫か?」


「え、ぼちぼち勉強はできますけど」


「違う違うケガの方」


「ああ、ちょっと痛みます」


「ちょっとならまあええか」


 いいのかな。


「まあ今日はホント酷い目にあったな」


「はい……」


「まあ親父も酷い荒れ狂ってたわ。ぜってえゆるさねえ言って殺してくる言うもんだから……勘弁してくれ。タバコ吸っていいか?」


「あ、はい」


 確かに孫バカの事を考えると地獄の状況が目に浮かぶ。閥は一度もあったことはないが恐ろしい人なのは想像できた。

 彼はタバコを車の灰皿に捨てにやっと笑うが勘弁してもらいたい。

 閥は窓の外を見て苦い顔をしていると駅前の繁華街に入ってきたようだ。もう少しでコンビニに着く、そう思っていると突然車が止まった。


「到着や」


「え……ここコンビニじゃありませんよ」


「ちゃうちゃう、あの居酒屋や」


 彼が指さした先は『ゼイニク』という鳥専門店だった。


「俺、金持ち合わせていませんけど」


「ええから行ってこい、行けばわかる」


「はあ……」


 閥は納得のいかない表情でベンツから降りた。


「じゃあな、頑張れよ」


 え、あんたは店に寄らないの? そんな疑問を口にする暇もなく彼は車を発進し繁華街の外に消えて行ってしまった。


「マジで金ないんだけどな……」


 閥は店の前に立ち、横開きの入り口を開けた。すると店内はガヤガヤと騒がしい声で溢れていた。


「あ、矢三倉さんこっちっす!」


 開けた瞬間、偶然私服姿の太刀村と出会い、閥はバイトメンバーで飲み会を始めているのだと理解した。


「あーでも今お金ないから一度家に帰って……」


 そういうと太刀村に背中を叩かれ、


「モー何言ってんすか、本日の主役に金取らないっすよ?」


「え、主役?」


「はい。今日の店は色々ゴタゴタあったせいで臨時休業なんすよ。だから今のうちに矢三倉さんの歓迎会を済ませちゃおうって店長たちが」


「あー、でも悪い気が」


 すると九頭竜がフラッと顔を出し、躊躇なく俺の腹を軽くつついた。


「いいから行くぞ、テメエがサッサと来ねえからいつまで経っても俺が酒飲めねえじゃねえか」


「相変わらず自分勝手ですね」


「うるせっ」


 閥の肩に彼の腕が巻かれ、こちらの拒否権など構いなしに連れていかれていく。

 そして畳の席には既に閥以外のメンバーは揃いに揃っているようだった。


「あ、やっと来ました!」


 霧に手を振られ、閥も軽く手を振った。

 そのまま九頭竜に肩を掴まれたまま靴を脱いで席に座り、みんながみんなやっと来たかと待ちわびていたようだった。

 まずドリンクを適当に注文していく中、閥の位置から目の前に座る清村に、


「ケガは無事か?」と声をかけられた。


「え、まあ痛いですけど大丈夫かと」


「しかし貴様も無茶をする、今回は運が良かっただけだ……一歩間違えれば怪我で済まなかった。それだけではない、対人戦の訓練すら受けていないだろう、そんな素人が刃物を持つ相手と戦うなどバカげている。いいか、次は『逃げるか動くな』だ」


 ぐうの音も出ない言葉なので閥は「すみません」としか言えなかった。


「だがあそこで閃光弾を選んだ判断やサングラスで光を防いだことは評価する……実物にサングラスは効果ないがアイツが作ったのは別だ。後で威力の感想を伝えてほしい」


「はあ……」


「それに次会った時の為に貴様にも訓練を付けよう」


 少し口元を緩ませた笑みを浮かべると隣の凛奈に軽く睨まれていた。


「貴殿もこの時ぐらいは説教を辞めたらどうだ」


「貴様に言われるとは驚きだ」


「同感だ」


 そう言って彼女は自虐交じりの笑みを浮かべた。そして閥に顔を向け、


「貴公の疑いが晴れて私も一安心だ」


 フッと軽い笑みを浮かべると注文したドリンクがこの席に運ばれてきたようだ。


「生三つ、オレンジ四つとウーロン茶お持ちしました」


 生は九頭竜、店長、凛奈の元には行かず清村に。

 オレンジジュースは閥と太刀村と霧と清村の元には行かず凛奈に。

 ウーロン茶は祝呪の元に届いた。


「また間違えられたな……何度言えばわかるんだ……」


 そう心底悔しそうに凛奈は清村の生とオレンジを交換していた。まあその背丈じゃ間違えれるのも仕方ない。清村がオレンジを注文したのも意外だが。


「じゃあ飲み物来ちゃったんで乾杯しましょう!」


 霧が手をポンと叩き、みんなはそれに続きグラスを掲げた。


「今日は閥さんの歓迎会なので乾杯お願いします」


 霧にそう言われ閥は照れ臭そうになりながら小声で乾杯と呟いた。


 乾杯~!!


 グラス達がぶつかった音を立て、割れた。そしてテーブルの下の前菜や刺身がオレンジジュース塗れになった。


「何やってんだ太刀村ァ!!」


「何故か割れたっす! 信じてください!」


 そう弁解するように声を出すが原因は一目瞭然だった。

、隣に彼女がいるからだろう。

 ある意味原因の祝呪は隣で落ち着いたままウーロン茶を上品に飲んでいた。

 閥はこれからもっと疲れる日になるなと笑った。



「というか俺本当にお金持ってきてませんけど大丈夫ですか?」


 一時間経った後、少し酔っぱらっている店長に顔を窺いながら閥は聞いた。


「大丈夫、給料から落とすから」


「え……」


「冗談だよハハハ……」


 そうは言うものの全然冗談に聞こえなかった。

 清村は間違えて一口だけ飲んだ酒に酔って完全に潰れていて、本当に酒がダメなんだなと思った。


「まあ矢三倉君にはこれからの店を背負って行って貰わないといけないからね……」


「え……」


 素直にその言葉は拒否したかった。それに加えてこの歓迎会をやってしまったのなら俺はもう逃げられないんじゃないかと、心臓を強く握られた感覚に陥った。

 一ヶ月経たないと歓迎会はしないと凛奈は言った、しかし実態は一ヶ月耐えることの出来た人材を逃がさない為に開いているのではないかと嫌な予感がした。


 ハハハ、そんなわけないよな、うん。そんなわけ。

 閥の心に靄を残したまま歓迎会はお開きになった。

 ただ、歓迎会のおかげか口ではそう言っていてもあのコンビニに愛着がわいてる自分がいることに気づき始めた。

 

     φ


「でも本当に大丈夫ですか頭?」


 知らない人が聞けば煽りにしか聞こえないが、頭を怪我してる閥にとっては霧が心配してくれてる事に気づいていた。


「病院では大丈夫だって」


「じゃあ大丈夫ですね!」 


 妙な病院への厚い信頼、別に担当してくれた医者を疑ってるわけではないが。

 夜道を隣で歩き、春の夜風は暖かさを感じつつも口から白い息を吐かせる。

 閥はポケットに手を入れ、それでも前よりは暖かくなったもんだと車が稀に通る歩道を歩いた。

 ふと目の前に信号を渡り、隣に霧がいないことに気づくと後ろに立ち止まっていた。


「そういえば私家はこっちなんですよ」


 彼女は信号を渡らず、このまま角を曲がる事を指で示した。


「じゃあ私はここで! また明日!」


 霧は手を振りながら笑顔を見せた。この時、彼女の笑顔に一瞬鼓動が高鳴った気がした。

 そして信号が変わり、車が横切り霧の姿は隠れた。

 また明日か、その言葉を胸に残して閥は家に帰っていった。


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