矢三倉閥はコンビニ店員である2
レジ台は二個のカウンターで閥は指導を受けていた。
「今はレジスターじゃないんですね」
閥は旧式のわざわざ入力して、金を引き出すタイプと思っていたのだが白い液晶パネルをタップしてお釣りも機械が引き出してくれる通称POSレジ、その機器の進化に軽く驚いていた。
「前までは古い奴だったんだけどな、まあ俺はこっちの方が楽でいいけど」
そう言って九頭竜はお客さんの接客業を始めた。見て学べというやつか。
「らっしゃいませー」
とビール三本を持ってきた小汚い服を着た中年の男性。
「ポイントカードはお持ちでしょうか」
男性は首を振り、九頭竜はビールのバーコードを打っていく。
「三点で五百六十円になります」
やる気の抜けた接待だが、慣れた感じの手際よさがそれを打ち消している。支払いを終え、帰っていった客に乾いた「ありがとございやす」といい終えた彼は、
「あービール買って帰る客死なねえかな、今すぐ交通事故会わねえかな……」
と恐ろしいことを言い出した。
「何言ってるんですか」
キキー!!
店の外で地面を擦る強い音が聞こえ、閥は視線を向けるとさっきの男性が黒いベンツに連れ込まれようとしていた。
「な、何をする、まだ返済日まで……うっ!?」
男性がそんな言葉を残しながら車に搭乗していたヤクザっぽい人たちに無理矢理車に入れられてしまった。
その時、スキンヘッドの怖い男性と目が合い彼は笑みを向けてくる。俺も冷や汗を垂らしながら最大限の笑みを浮かべた。
そして車は去っていった。
「ああ畜生、酒飲んでもいい職場になんねーかな……」
俺は彼の肩を落とす姿を見てそれどころじゃないと声を荒げた。
「警察! 今の見ましたよね!?」
「ん、まあよくある事だろ」
「攫われる事がよくあってたまるか!」
「つっても金返さなかったあのオッサンの自業自得だぜ? 俺も過去に同じ経験したけどタマまでは盗られねえよ」
彼の言う言葉は何か知っているようだった。
「何があったんですか……」
九頭竜に憐みというか同情というか、それ以上にさっきの客が無事でいてくれることを祈りながら仕事に集中しようと頭から忘れることにした。
命が無事なら良し、そんなわけあるか。
閥が警察に連絡しようかどうしようかと悩んでいる中、客の来店を告げる音が聞こえた。
「次、お前がレジやれ」
「えっ」
「俺の見ただろ、それをお手本にすればいけるだろ」
「いやそれどころじゃ……」
「忘れろ、店の外は無関係だ」
閥はため息をつきながらも確かに今の仕事に集中するしかないと頭の中をすっきりさせる。
そして目の前にやってきた女性の客と向かい合った。
「タバコだな」
隣で言われた数秒後、彼の言った通り女性客はタバコの名前を言った。
だが成人していてもタバコの無縁な俺からすれば、タバコの棚に番号が書いてあるんだから番号で言えとしか言えなかった。
もたもたした俺を見かねた女性客は苛立った口調で「五番」と呟いた。
「申し訳ありません、こちら一点で五百円になります」
俺は急いでタバコをレジ袋に入れ、客に渡す。
小銭が無造作に投げ出された同時に彼女はつかつかと出ていった。
いきなりミスったなとため息をつくと、隣の九頭竜はめんどくさそうに頭を掻いていた。
「お前結構教えるの多いな……俺がさぼれねーじゃねえか」
そのセリフにどこから突っ込めばいいのだ。俺はため息をつき、また自動ドアが開いて「いらっしゃいませ」と声を出した。
「おはようございまーす! ……あ」
どこかで聞いたような元気のいい甲高い声、その声の主がレジの店員に向けて挨拶を交わすと俺を見ると、手に口を当てて驚いた顔をした。
「お金の人!」
腰まで届く艶やかな金髪が特徴の彼女は俺に指を刺し、俺は、「金を拾ってくれた人」と言った。