矢三倉閥はコンビニ店員である
一週間後。夕方。コンビニチェーン店『スカイウォーカー』の裏側にある休憩室。そこはレジ場の裏道から一直線にある小部屋。
休憩室は正方形で想像よりは意外と広かったが部屋の隅に積荷になったダンボールや監視カメラを用の液晶パネルを置いたデスクにロッカーが面積を占める。そして来た入り口とは違ってもう一つドアがあるがそこはドリンクの補充室らしい。
ロッカーは二人で一つを使用するらしく六つのロッカーが横並べている。だがロッカーはそれぞれ個性的なものがあった。
ロッカー全体に謎のお札が張られた奴。なぜか一つだけ鍵穴がある奴。店長にそこを開けると手榴弾のピンが抜けるよって言われた奴、気にしないでおこう。
部屋の中央には折り畳みの横長いテーブル、閥はパイプ椅子に腰かけて目の前の店長の話を聞いていた。
「今日から一緒に働くことになった矢三倉閥さんです、コンビニのバイトは初めてらしいので九頭竜君、お願いするね」
温厚な笑みを浮かべるが苦労人なのか、目に隈が特徴的な若い男性支店長が閥を紹介する。
「よろしくお願いします」
俺は軽い気さくな挨拶をして、隣の九頭竜という俺より少し年上気味の目つきがいやらしいというかゲスい、新しい玩具を手に入れたような顔をする先輩を見た。
「よろしく。まあここの仕事は意外としんどいけど一緒に頑張ろうぜ」
爽やかなセリフを言うが笑みはゲスく「あっこの人信用しちゃいけないタイプだ」と察した。過去に一度新人賞受賞時にある仲良くしてくれた先輩漫画家がいて、その人に色んなネタのぶつけ合いをして楽しんだ嫌な思い出がある。
何故嫌かと言うとその人にネタ全部取られた。まあ言った自分も悪いし、目の前の人だって第一印象で判断する俺も中々最低な奴だろう。
「じゃあ僕は今日寝てないから帰るね……」
ふらつく足取りで縦しまの黒い模様が入った赤い制服を脱いで、
「大丈夫ですかね、あの人」
俺は九頭竜に語り掛けるようにぼやいた。
「まあ、店長って仕事はブラックだからな、けど俺が心配してるのはお前のほうだけどな」
彼は白い歯を輝かせて笑みを浮かべた。俺はその言葉の意味が分からず首を傾げた。
「どういうことですか?」
「先月の高校生のガキは三週間で辞めた、なんでだと思う?」
疑問を質問で返されたが一応答えることにした。
「今はやりのバイトテロとか……」
彼は口元をにやりと緩ませ、
「いいや、そいつはそんな度がつく真面目ちゃんだったんだよ」
「じゃあどうして」
「真面目過ぎたからだよ、真面目な奴はここじゃ働けない。まあお前は髪型以外特徴ねえしひと月が限度だなケケッ」
九頭竜はテーブルの上に座り、俺の髪を軽く叩いた。
虐めでもあるのだろうか、それなら勘弁してもらいたい。そう思った矢先に九頭竜は閥が目を丸くするようなことを言い始めた。
「ってかお前がすぐ逃げるに賭けてるから一か月で辞めてくれね?」
「はあ」
「だーかーらある知り合いとお前が辞める事を賭けてるんだよ」
何、人を勝手に賭けに使ってんだ。
閥は苦笑いに近い笑みを浮かべ、愛想笑いをしたが心情ため息をついていた。
たかがコンビニのバイトだ、俺が初めてだからからかってるんだろう。それにバイトに人間関係を求めに来たわけじゃない、無難にこなせばそれでいい。
閥はそういい聞かせ表に出た。