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橘霧には怖いものがある

「ってことがあったんだよ」


 閥と霧が休むつかの間の休憩時間、閥は前に起きた幽霊騒ぎを運よく未体験だった霧に話してたところだった。


「だから九頭竜さんが気味悪かったんですね」


「まあうん」


 閥はおにぎりをもっさもっと食べる霧から視線をそらした。原因と言えば自分なのだ。

 ちなみに気味悪かったってのは塩で清まり過ぎたのかここ数日、綺麗なジャイアン並みに綺麗な九頭竜と化してるのだ。


 嫌な仕事は自らやるし、シフトの穴埋めも嫌な顔せず引き受けてくれる。塩が効きすぎたか誰もが嵐、台風、災害が来ると常連の客まで怯えていたレベルだ。


「でも私、幽霊が二番目に苦手なんでよかったです……田中さんに合唱……」


 おにぎりを食べ終えた霧が田中に向けて手を合わせた。幽霊に怖がるそんな姿を見てやはり年頃の女子高校生らしいなと実感させられた。

 そしてその考えがつい言葉として出てしまっていた。


「霧さんにも女の子らしいところがあるんだな」


 言った後にしまったと口を塞いだ。


「もー女の子らしいって私をなんだと思ってるんですかー」

 

「いや、うんごめん」


 謝罪をすると彼女は怒った表情からすぐさまににこりとした表情に変わった。


「いいですよー気にしてませんし」


 言葉通り気にしてなさそうな素振りを見せる彼女は二つ目の廃棄おにぎりに手を付けた。

 よく食べる子だな、まあ高校生活にバイトとなるとカロリーの消費がやっぱり激しいんだろうか、高校の頃、漫画か遊ぶことにしか時間を費やした自分には縁の無い話だ。

 ふと話題が途切れたことを気にした閥は、さっき言った二番目という言葉が気になった。


「幽霊が二番目なら一番目は?」


 もぐもぐと口の咀嚼を手で隠しながら霧は眉を寄せた。

 ごっくん。


「一番ですか……うーん、やっぱりお金ですかね?」


 お金、高校生が言うには少々かけ離れた返答に閥は顔をしかめた。


「どうして?」


「お金って裏切らないっていうじゃないですか、確かにその通りですけど、裏切らない代わりに人を金の亡者に変身させるんですよ」


「え、あ……うん」


 返しに困る。


「そんな人たちをよく見かけますし、どうしてですかね? 私の周りってそんな人が多いんですよ」


 そう不思議そうに首を傾げる彼女に俺は苦笑いするしかできなかった。

 いやうん、多分祖父関係なんだろうね。


「じゃあ閥さんの怖いものはなんですか? 私も言ったんですから黙り込むのは無しですよ」


 にやにや口を緩ませながら隣に座る彼女は肘でぐいぐいと脇腹をいじってくる。

 そうは言われたものの、一番怖いとなるとあまり浮かばないのが本音である。

 虫は苦手、幽霊も怖いと聞かれたら怖いがそれまでだ。母の寝起きすっぴんもおぞましい、それを言うと叩かれるが。だが一番となると……

 閥は両腕を組みながらふと浮かんだ言葉を呟いた。


「締め切り……かな」


「はあ……?」


 霧は反応に困った表情をしていた。


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