10.67.総叩き
『────!! ──!! ──!!!!』
びったんばったんとのたうち回る顔の塊で構成された陸の声。
炎はごうごうと燃えて陸の声の肉を焦がしていった。
上空から赤い炎の翼を広げた人物が降下して、更に炎の攻撃を繰り返していく。
その姿を見た者は、ようやく肩の力を抜いた。
「おせえっての」
『あわわわっ!! 危ない危ない……』
鳳炎が炎の羽を陸の声に浴びせ続けている。
その攻撃から逃げるようにしてこちらに戻ってきたリゼが、ユリーを咥えていた。
「ユリー!」
『気絶してるよ……って、言葉が……通じないんだった』
「はぁー、良かった……。ありがとうございますリゼさん」
『いえいえ』
「あ、ウチカゲさんを!」
『え? うわああ!!?』
足の怪我を見たリゼは驚き、すぐに治療を開始する。
再生させることは不可能だが、痛みはとりあえず和らげるはずだ。
熱風がこちらにまで届いてくる。
燃え続ける陸の声はなんとかして鳳炎に魔法をぶつけようと必死になっているようだが、空を高速で飛び回れる彼は魔法を回避するなんて簡単な話だ。
回避し続けながら、攻撃を繰り返し与えていく。
「全軍!! 魔法陣展開!!」
上空から大声で指示を飛ばす声が聞こえてきた。
見上げてみれば、悪魔の軍勢が少ないながらにも鳳炎の後ろからやってきていた様で、魔法陣を二人で展開させている。
それを見た鳳炎は一度離脱した。
「攻撃開始!!」
襟と丈の長い服を着た女性の悪魔が、ばっと腕を前に出して攻撃指示を出した。
すると魔法陣から様々な属性の魔法が放たれ、陸の声に向かって発射される。
今陸の声は大きな的となっており、更に炎で碌に身動きが取れない状況なので魔法を当てるのは至極簡単なことだった。
叫び声が聞こえている。
だがそんなこと構うものかと、誰もが魔力が尽きるまで魔法を放ち続けた。
今まで痛めつけられていた借りを返すかのように、恨みを籠めて。
「皆、よく耐えた!」
「おせーぞ鳳炎!! マジで死ぬところだったんだからな!!」
「……その様だな……」
気絶しているユリーと、片足がなくなったウチカゲを見て一瞬言葉を詰まらせる。
リゼも魔物の姿をとっていることから、そうしなければならない程に追い詰められたのだということが分かった。
「ていうか、良くここが分かったな」
「あのくそデカい氷を見ればいやでも分かる。よい目印となった」
「はっはぁ~。なるほどねぇ~」
図らずもいい集合地点の目印になったらしい。
だがそのおかげで危なくなる前に援軍が到着した。
あのまま戦い続けていたら確実に戦闘不能になっていただろうし、最悪死んでいた。
ティックは間に合ってくれてよかったと、心の中で感謝する。
だがまだ戦いは終わっていない。
陸の声は未だに魔法を乱雑に撃ち続け、上空にいる悪魔に攻撃を加えている。
あの存在を始末しなければ、勝ちとは言えないだろう。
「というかなんだあれは……」
「陸の声だ。あいつ、地面から魔物を作り出せなくなったみたいで、今度は自分の体を魔物化させやがった。なれの果てっていう奴だな」
「あそこまで醜くなれるものなのだな……。まぁいい、やることは変わらないのだ。ティック、ローズは動けるな? リゼは?」
『魔力が……』
「そうか。ではお前は下がってウチカゲとユリーを守れ。ま、その必要もないかもしれないが」
「え?」
鳳炎が来た方角と反対側の方角から、悪魔の軍隊が隊列を成して飛んできている。
向こうの兵力はこちらよりも多いらしい。
ダチアが片手でヤーキを抱えながら、もう片方の手に持っていた長剣の切っ先を陸の声に向けて叫ぶ。
「全軍第一飛行陣形!! 三六魔法陣展開!! 合図は要らねぇ!! 準備ができ次第思い切りぶち込め野郎共!!!!」
『『『『応!!』』』』
三人で六つの魔法陣を展開し、それが回転して氷の弾丸を形成する。
意外にも大きいその弾丸はすぐに発射され、軌道を変えながら確実に陸の声に攻撃を当てていった。
燃えているからなのか、それとも氷に耐性のある魔物を作り出したのかは分からないが、氷は体を滑って地面に突き刺さる。
とはいえ衝撃によるダメージは入っているらしい。
効くのであればと、悪魔全員がこの魔法陣による攻撃に全ての魔力を籠めて攻撃を繰り返し続ける。
「──!! ギュアアアアア!!」
だんだんと顔が削れていき、ようやく人の耳でも聞き取れる声が聞こえてきた。
顔がなくなったことで魔法が使えなくなり、今は防衛に徹している。
だがそれも長く持たないだろう。
容赦なく叩き込まれる攻撃は、陸の声が持っていた無尽蔵の魔力を消費させていた。
既に残りかす程度の魔力しかなく、体を維持しているのも限界が近い。
だがこれを解いてしまえば、あとは総叩きを喰らって終わりだ。
再生する力も残っていない。
死、が間近に迫っていたのだ。
(ここで? 何もなせぬまま消えるのか? また?)
逃げ出さなければ。
その為だけに今は思考を巡らせる。
炎に包まれている体、既に使い物にならなくなってきている魔物の顔。
もうこの体を放棄して一度離脱するしかない。
ベリベリベリッ!!
体の一部を引き剥がし、四足歩行の獣が出現する。
跳躍してその場から一気に離脱した。
そう簡単にやられるわけにはいかない。
天の声は回復に時間が掛かるが、陸の声たちのような部下は回復速度が速い。
一日休めば十分に戦えるだけの力は回復するのだ。
脱兎の如く逃げる陸の声。
どうやら悪魔たちは自分の存在に気付くことができなかったらしい。
なんせ見えない程の速度で移動する獣なのだ。
それに、気付いたとしてももう追いつくことはできないだろう。
「逃がさないわよ」
「!!? な!! なぜ!! 何故貴様ああああああ!!!!」
ゴシャッ。
体が破壊された。
何かに潰された、刺された、殴られたなどと言ったことは一切なく、ただ勝手に体が崩れ去った。
何の冗談だと笑いたくなるが、それが彼女の持っている技能なのだ。
その攻撃範囲はひどく狭いが、間合いに入ってしまえば彼女の手の平の上。
地面にべしゃりと倒れた陸の声は、目玉だけをギョロリと向けて睨む。
しかしその目玉も破壊された。
体が崩壊していく。
それに伴い、力も完全に失い始めていた。
「なぁ──なぁぜぇいぎでいるぅ……」
「さぁ、なんででしょう」
「なんでだらぁなぁ~」
「「ま、神だし?」」
「くそぁぐあああああああ!!!!」
ぺんっ。
本を閉じたかのような軽い音がしたと同時に、陸の声の魔力は霧散した。
後方からは歓声が聞こえてくる。
人間に勝利した時よりも甘美で嬉しそうな声だ。
それを聞いて、二人は満足そうに微笑む。
「こっちゃ仕舞かえなぁ。よーまぁやったっちゃなぁ」
「そうですねぇ。にしてもあなた、依り代なのに口調は戻らないのかしら?」
「んぇ? いやぁ……こっちゃん方がよからけぇ……。あいつが残したもんだけぇなぁ……」
「ふふ、それもそうですね」
二人は軽く笑ったあと、後ろを見る。
あとはあっちだけだ。
早くしなければ、空の声が来る……のだが、彼女は既に来ていた。
二人の隣りで、ふよふよと浮いて詰まらなさそうに戦況を眺めていた。
「おみゃーは、ええんか?」
「……元より、何も知らない天が勝手に起こした暴動。それに……この世界に興味ない」
「全員が全員悪、っていうわけじゃないのね。知らなかったわ」
「私は確かに天の部下だけど……神が作り出した世界に手を出したら何をされるか分からないことくらい分かってる。もしかしたら、私だけでも元の地位に戻れるかもしれないじゃない? だから、私は何もしない」
「現金なやっちゃなぁ~。ま、ええけど」
何かあればこちらで対処しようと思っていたが、その必要はなさそうだった。
であれば、あとは彼らだけ。
「間に合わせぇよ、応錬」
「期待しておきましょう」




