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10.24.退避


 音は置き去りにされた。

 何も分からないまま体が宙へと浮く。

 周囲にあった土の柱は崩れ、風圧で粉々になり、砂塵と化した。


 地面が抉れ、覆っていた水ははじけ飛び、結界は粉々になる。

 一体どれだけの空気をこの一点に溜め込んだのだろうか。

 これはもう、破裂という次元ではない。

 爆発だ。

 火薬を何個使ったらこれと同じ爆発が起きるのか、見当もつかない。


 あの小さな球一つでどれだけの被害が出たのだろうか。

 それを今確かめるすべはない。。


 超至近距離で爆発を目にした俺と零漸は、容易くも吹き飛ばされる。

 はずだった。


「ぐぉ!? がっ! だっ! だだだだだだ!!」

「ででででででで!! よっ! 痛くないっすけど痛いっすね!」


 地面を何度かバウンドして、ゴロゴロと転がっていく。

 零漸は上手いこと受け身を取ったようだったが、俺にそんな技術はないのでただ止まるのを待ちます。

 痛い。


 すると、背中を支えられてようやく勢いが止まる。

 思ったより優しい感触だったので何か分からなかったが、上を見てみればウチカゲがいた。

 どうやら助けてくれたようだ。


「ご無事ですか応錬様! 零漸殿!」

「ウチカゲか! 助かった!!」

「すいません、乱暴な助け方で……。あの爆発から抱えて逃げることは無理だったので、途中で投げ飛ばしました……」

「直撃よりはましだ! ありがとう!」


 いや、本当に助かった。

 あれでいけると思ったんだけどな……。

 ……違うか、あれでも駄目なのか……。


 くっそ、この辺は俺が設置した広域治癒の範囲から外れてやがる。

 そりゃそうか。

 とりあえず回復しておくか。


「ほ、他の皆はどうなったっすか!?」

「そちらはテンダが何とかしています。悪魔は咄嗟に逃げたようなので無事ですよ。目視で確認しました」

「よかったっすー……」


 でもテンダってウチカゲみたいに速く動けるわけじゃないよな……。

 どうやってっ守ったんだろう。

 まさか空気殴ったとかそういうんじゃないだろうし。


 ……え、違うよね?

 やりかねないけど。


 ドシャッ!!

 爆発のあった方向を見ていると、近くに誰かが落ちてきたようだ。

 驚いてそちらを見てみると、それはボロボロになったダチアとマナだった。


「おおい!? 大丈夫かお前!!」

「がっは……。回復を……頼める、か……」

「当たり前だ!! これを飲め!!」


 まずは回復水を渡し、飲むと同時に大治癒で治療する。

 こいつら、爆発の時上に逃げたのか。

 あの範囲だと結構上に飛ばなきゃ爆風でダメージ受けるだろ……。


 二人を回復してやると、息を整え始める。

 回復水で疲労も回復しているはずだが……まぁ、息が詰まるよな。


「助かった……。滑空で飛んでこれたのは奇跡だった……」

「くそ……触ったのに……! あいつ……対処していた……!」

「マナの技能でも駄目だったのか」


 爆発の寸前、隙を見て天の声に触れることはできたらしい。

 だが技能は発動せず、不発に終わった。

 すべての技能に対処する術はあるらしいからな……。

 ていうか本当に俺の奥義は使えないのか?


「……『応龍の決定』」

「「!?」」


 ……声四人を殺せ。

 もしくは封印しろ。

 ……って、アナウンスも何もないから分からんぞこれ。


 すると、ダチアが怒鳴った。


「何をしているんだ応錬!!」

「うおびっくりした!! なんだよ!」

「それは日輪の奥義! それで彼は悪魔以外の記憶を消し、奴らの復活を企てようとする者たちを阻止したのだ!! 強力な技能……いや、神の力にも匹敵するその技能の代償は計り知れない! 今何に使った!!」

「つ、使えなかった……。……あいつ、俺にデコピンした時、この技能に制限をかけたんだ。声に対して使えないようになったらしいが、本当に使えないのかと思って……ちょっとな」

「は、はぁあああ……そうか、よかった……」


 ダチアは心底安心したといった様子で、息を吐いた。

 後ろで会話を見守っていたマナもその一人だ。


 これそんなにヤバイ代償があるのか……。

 青龍の審判の時は優しい方だったんだな……。

 マジで使うタイミングは気をつけよう。


 つっても、あいつらにこれが使えないんじゃ意味ないけどな。

 くっそ……。


「というか、お前たちにはいろいろ答えてもらいことがある」

「……俺も理解している。時間が取れたら、話をしよう」

「取れたらな……」


 ニュッ。

 何もない空間にティックの頭が出現した。


「あ、どうもー」

「「うわああああ!? ティイイック!?」」

「心配すんなってー。僕の技能だよっと」


 ティックは自分が持っていた収納という技能から、カルナとテンダを放り出した。

 自分も飛び上がって外に出て、何とか一息つく。


「ぶぶ、無事だったんすね!」

「ったりめぇよ! ま、鬼のあんちゃんが助けてくれなかったら無理だったけどな」

「はは……。ティック殿のお陰で合流が楽でしたよ」

「おいおい……僕に敬語は止めてくれ……。鬼のあんちゃんが敬語とか似合わねぇよ……」


 とりあえず全員が無事で何よりだ。

 しかし見失ってしまったな……。

 ここから探しても煙で見えないし、今のところは待機するしかないか。

 だが多分また出てくると、俺は踏んでいる。


「にしても……これはどうするよ。僕らじゃ勝ち目ねぇ……。ていうか悪魔の兄ちゃん! 増援は!?」

「……来ない」

「なんで!?」

「……奴らは陸の声と戦っているらしい。あのくそ共……俺らの同胞を根絶やしにするつもりだな……!」

「そ、そうか! あいつら逃げたわけじゃなかったんすね……!」


 各々が邪魔になりえる悪魔を消しに行っている……って感じか。

 悪魔はずっと声復活を阻止しようとしていただろうから、恨みも買っているんだろうな……。

 何とかしたいが、天の声にすら勝てないんじゃどうしようもない。


 なんだよあの空気圧縮。

 俺ですら作ったことないぞあんなの!


 広域治癒の範囲外に飛ばされて無駄に魔力も使ったし、爆発を封じるのも失敗した。

 封じていてもあれだけの被害か……。

 零漸が来てくれなかったらもっと酷いことになっていただろうな。


「……応錬様」


 テンダが俺の前に来る。

 膝をつき、首を垂れた。

 どうして今……?


「一つ、試したいことがあります」

「……なんだ? そんなかしこまって許可を取るようなものなのか?」

「はい」


 悪魔以外の誰もが、テンダの行動に疑問を抱いた。

 なにか、危ない予感がしたのだ。


 すべてを理解しているようなダチアを見るが、彼は小さく頷いた。

 それが何に対するものなのかは分からないが、そもそも今の俺はテンダが何をしようとしているのか分かっていない。

 まずは話を聞いてみることにしよう。


「……なにを、試したいんだ?」

「悪鬼に、なります」

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