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9.15.Side-零漸-昔の自分


「ま、あの子も僕らと同じで奴隷紋を刻まれてる。何があったかくらいは想像つくでしょ。あんまり詮索しないことだね~」


 そう言ってティックは手を軽く振りながらその部屋から出ていった。

 デルドと呼ばれた人物も、その場から姿を消してしまう。

 残ったのは俺と、カルナという女性だけだ。


 解散の流れにはなったが、カルナはこの部屋から動かず椅子に腰かけた。

 俺もこれからどこに行けばいいか分からない……。

 ていうか気まずっ!!

 どうするっすかこの空気……。


「……えーと……カルナ、さん?」

「……」


 彼女は小さく頷いた。

 とりあえず話を聞いてくれていることに安心する。


「帰らないんすか? もう会議? 終わったっすよ」

「……ない」

「ない?」

「帰る所、ない」

「……ああ……」


 同じっすねー。

 俺も近くの椅子に座る。

 何を話すわけでもないが、暫くは同じように座って時間を潰した。


 だが気まずい。

 何か会話をしたいと思うのだが……どうしよう。


「……ありがとう」

「っ!? え、俺なんかしたっすか?」

「助けてくれた」

「ああ……。いや、別に普通っすよ。ていうかウチカゲ相手によくあそこまで戦えたっすね」

「私の技能は相手の動きを遅くするのと、自分の速度を素早くさせる」

「強いっすねぇ……。なんであの司祭が煙たがるのか理解できないっす」

「邪魔なんだ。多分……」


 カルナの言葉に、何故か胸が締め付けられる。

 そこで古い記憶が蘇ってきた。


 仲間には必要とされていたが、雇い主には嫌われていた事。

 信じていた者に裏切られた時の記憶が鮮明に思い出される。

 あの部屋で、裏切られたことを伝えられたこと。

 助けは絶対に来ないということも理解してしまった。


 あの時の絶望感は今でも忘れられない。

 何のために働いてきたのか、何のために危険を冒していたのか、分からなくなっていた。

 頭の悪かった自分ではそれに気付くことができなかった。

 騙されていたことにすら、気付くことができなかったのだ。


(……俺と……同じ……?)


 カルナは、昔の自分と同じように感じられた。

 なぜ邪魔だと思われているのかは分からない。

 自分の時ですらそうだった。

 だが理由など今となってはどうでもよかったと思っている。

 裏切られたことは確かに傷付いたが、それによって新たな生き方を見つけることができたのだ。


 しかし話を聞いている感じからするに、彼女は自分が邪魔な存在だと理解している。

 それが自分と少し違う点だ。

 もう既に諦めているように感じられた彼女の言葉。

 だがそれは違う。

 裏切られるのを待つのは、絶対に違うと頭の悪い自分でも理解することができた。


 捨て駒にされていい人間など、一人としていてはならないのだ。


「……駄目っすよ。いるんでしょ。待っている人が」

「……いるけど、いない。もう、どこで何をしているかも分からなくなってる。それにこれがある以上、好きに動くことはできない……」


 手袋越しに、右手の甲へ左手の爪を立てる。

 奴隷紋があると思われる箇所。

 誰もが好きでこうなったわけではないだろう。

 俺でもそうなんすから。


 ……今頃、応錬の兄貴はこっちに向かっているはずっすよね。

 俺たちはテレポートでこっちに帰ってきたっすけど……。


 さすがにそれまでにこっちは何ともならないっすけど……多分兄貴たちなら助けてくれるっす。

 今はそれを待つしかないっすかね……。


「……俺は霊帝の一員っす」

「……あ……」

「気にしなくていいっすよ。でも多分、仲間たちは俺と王子を助けるためにこっちに来てるはずっす。どうなるかは分からないっすけどね……」

「……貴方には待っている人がいるのね」

「カルナさんもそうっすよね。身内がいるなら、待ってくれている人はいるはずっすよ」

「……」


 俺にはカルナさんのことは分からないっすけど、大丈夫なはずっす。

 本当に一人な人間なんてどこにもいないっすから。

 ……多分……。

 自信なくなってきたっすぅ……。


「あ、俺のこと話したからってカルナさんが自分のこと話す必要はないっすからね!!」

「……不公平じゃない?」

「いや、なんかカルナさんの話は重そうなんで……。こんな楽観的で頭の悪い俺に話しても……」

「フフ……。私はね……」


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