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8.24.広域治癒


 ヤーキの技能、身内反転。

 これはウチカゲが予想していた物とはまったく違うものだ。

 そもそも、これに血液は関係ない。


 殺された身内、今回はヤーキの配下のケラケである。

 ケラケは本当に戦闘能力のない魔物だ。

 ただ数が多い。


 この身内反転という技能は、ヤーキの配下のケラケにダメージを与えた敵と殺した敵に、ダメージを返すというものだ。

 だがしかし、これはダメージを与えた側に返す物なので、一匹や二匹では効果が非常に薄い。

 なので、大量にケラケを殺してもらい、そのダメージ量を大幅に上げたのだ。


 殺せば殺す程、与えられるダメージは大きく増える。

 領民の攻撃は非常に小さい弾丸だったので、返すダメージもあまりなかったが、接近戦で対峙した兵士たちは剣や槍で体の奥深くを切り裂いていた。

 その場合、一匹を殺して返されるダメージは一ミリの傷。

 だがその一ミリはこの場合非常に深い傷となる。

 十匹殺せば一センチの深い傷となるのだから。


 今回の敵は一万八千の大軍。

 落ちて来た敵に止めを刺したりしたとしても、そのダメージは上乗せされる。

 切り刻めば刻むほど、返ってくる攻撃も大きくなるのだ。


 鳳炎は炎で多くの敵を葬った。

 そしてこの技能は耐性を一切無視しての攻撃となる。


 応錬は空気圧縮により爆発で多くの敵を葬ってしまった。

 バラバラになった個体もいたが、あれは一度だけの攻撃とみなされ返ってくるダメージは少なかったのだが、殺した数は多かった。

 今応錬の腹は、破裂したようになっている。


「おわー、いい眺め~ェエ──オペ? オオー、ヤッチャッタァ」


 相変わらずクルクルと回っているヤーキは、その光景を楽しそうに眺めていた。


 その声が聞こえないわけがない。

 今も尚耳元で喋っているように聞こえるのだから。


「……だい……『大治……癒』」


 気力で意識だけは飛ばさなかった俺は、何とか回復して身を起こすことができた。


「げっほごは……グゥツッ!? ……中が、ぐちゃぐちゃかこれ……」


 すぐに回復水を飲んで内部の傷も癒す。

 ようやく痛みがなくなったところで、立ち上がって周囲の状況を確認する。


 だがそこにあったのは、もうどうしようもない程の姿になった兵士たちと、領民たちの姿だった。

 鎧に傷は一切ない。

 ただ鎧の隙間から流れ出ている血は有り得ないほど多い。


 領民たちは兵士に比べればまだ軽傷のようだが、それでも重症には変わりがなかった。

 あの一瞬で何が起こったのか分からないまま、俺の思考は停止していた。


 どうすればいい?

 このままではサテラとアレナの故郷を、また壊されてしまう。

 一人一人に大治癒をかけていくか?

 いやそもそも、それだと間に合わない。


「……広域治癒……」


 使ったことがない技能である。

 この技能を使って色々問題になるかもしれないが、そんな事を考えている場合だろうか。


 否。

 こうして考えている間にも、まだ助かるかもしれない命が潰えてしまう。

 後先のことなんて考えるな!

 危険な技能? だからどうした!

 人を助けれる技能を出し渋っている場合じゃないだろう!!


「許さんからな悪魔ァ!! 『広域治癒』!!」


 発動と同時に、緑の花のような魔法陣がバミル領全体に広がった。

 すると、頭の中に広域治癒の使い方が流れ込んでくる。

 どうやら回復する者を指定できるようだ。


 それであれば、ガロット王国の兵士、鬼、バミル領の領民。

 指定することにより、倒すべき敵が回復範囲内に入っても回復することはなくなる。

 これが広域治癒。

 確かに戦闘で重宝される技能なわけだ。


「とりあえず……お前ら起きろおおおお!! 死ぬんじゃねええええ!!」


 カッと緑色の光に包まれた花の魔法陣。

 周囲に回復水で作った水のような花が出現し、破裂する。

 その水飛沫が負傷者に吸いつくようにして溶け込み、淡い緑色に光った。


 次第にその光は薄れていくが、魔法陣は一切消えない。

 これは俺が解除するまで絶対に消えないもののようだ。

 すると、まずは領民が目を覚ました。


「……ん? ……っておわあ!? なんだここ!」

「ど、どうなってんだ……?」

「あれ? き、傷がない!」 


 何とか復帰してくれたようだ。

 しかし兵士たちの回復は少し遅い。

 範囲回復なのでやはり時間がかかってしまうのだろうが……。


「自分で使っておいてなんだけど、めちゃくちゃ綺麗だなこれ……」


 後方を見てみれば、バミル領は緑の花畑へと変わっていた。

 それはすべて光輝き、道という道全てに回復効果のある花が咲き誇っている。

 緑、というよりエメラルド色に近いかもしれないな。


 花畑の中に佇む街。

 これ程にまで幻想的な光景は見たことがない。

 使ったことがなかったとはいえ、回復魔法は身体の傷だけではなく心の平穏も保たせてくれる技能なのかもな。


 だが待てよ……?

 なんかこの広域治癒違くね?

 だって前は……。


===============

―広域治癒―

 自らの周囲に治癒効果のある陣を展開する。MPを常時使用することで対象5体の周囲に同様の治癒効果のある陣を展開できる。

===============


 こんなんだったはずだ。

 対象五人だし、恐らく範囲も狭いんじゃないだろうか?

 ちょっと待てよこれ。

 広域治癒の説明をもう一度見てみるとしよう……。


===============

―広域治癒―

 指定した場所に治癒効果のある陣を展開する。MPを常時使用することで陣の中にいる全員を回復することが可能。

===============


 ん~めっちゃ変わっとりますがな!!

 ちょっとまって他にも変わってる技能あるんじゃないの!?

 これもあれか、青龍に進化したことによる技能の強化なのか!


「ぐ……? これは、一体……」


 どうやらガロット王国の兵士やバミル領の兵士も起きて来たようだ。

 だがそちらは相変わらず動かない者も多い。

 完全にこと切れている奴は、救うことができないか……!!


「ヘッ!? ヘッ!!? ナンデナンデ!!? ナンデナノ!!」

「子悪魔貴様……許さんからな!! 『天割』!」

「キョペッ?」


 速度重視の影大蛇での攻撃。

 流石に三尺刀での攻撃は抜くのに時間がかかってしまうし、狙いも定めにくい。

 これだったら威力は落ちるが、ほぼ確実に当てることができるだろう。


 ザンッ!!

 という音と同時に、子悪魔の片腕が吹き飛んだ。

 ちょっとずれてしまったらしい。


「グギュウウウ!?」

「まだまだ!!」

「ウゥ!?」


 三回ほど天割を繰り出すが、残念ながらそれは避けられてしまった。

 やはり止まっている敵じゃないと当てられない。

 これ以上の無駄撃ちは危ないと思うので、一度冷静になるために呼吸を整える。


 何とか逃げていた子悪魔だが、もうヘトヘトのようだ。

 涙目になりながら、今度は叫ぶ。


「ウウゥウー!! イーグルゥー! イーウボラー!!」

「引き上げだな」

「イウボラァ……」


 子悪魔の後ろから、また悪魔が出現した。


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