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7.32.イルーザ・マチス


「ダチア様、ダチア様、聞こえますか?」


 そこには、悪魔と形容するにふさわしい女性が一人いた。

 見た目は相変わらず変わりはしないので、男性よりの中性的な顔立ち。

 しかし頭にはしっかりと青く尖った角が生えており、翼が服の隙間を縫って広がった。


 服も魔道具の一種であり、翼を生やす時は破れないようになっている。

 魔力を通せばすぐに仕組みが変わるので、破れる心配は一切ない。


 水晶は次第に黒い色に変わっていき、ギョロっとした目だけがそこに写った。

 目は周囲を一瞥した後、目の前にいるイルーザに焦点を合わせる。


『イルーザか』


 若干くぐもった声がその場に届いた。

 だがその声はダチアの物であり、通信がしっかりとできているということを教えてくれる。

 その事にほっとしたのも束の間で、イルーザは声を荒げてその水晶に叫ぶ。


「ダチア様だったのですか!? サレッタナ王国の襲撃を企てたのは!」

『……お前は知らなかったのか』

「当たり前です! 連絡も何もありませんでした……」

『ということは、魔水晶を止めたのはお前か』

「はい……。邪魔をしてしまい申し訳ありません」

『いや、いい。目的は果たすことができた。お前はお前のやるべきことをしろ』


 ダチアはそう言うが、イルーザとしては申し訳なさでいっぱいだった。

 自分がこの作戦に参加できなかったこと。

 更には意図せずダチアの計画を止めてしまったこと。

 どれもが迷惑をかけているものばかりであったからだ。


 イルーザはここに派遣されている悪魔である。

 階級は上位悪魔。

 長年培ってきたその魔術と魔道具制作の知識を、これからやってくる災厄に備える為にここで魔道具の実験をしていることを任せられているのだ。


 襲撃の日も、ここでのうのうと研究を続けていた。

 それが悔しかったのだ。


「何故お呼びにならなかったのですか……」

『……お前が、悪魔だとバレるわけにはいかないからな』

「ですが……」

『その羽と角は仕舞え。俺と話すためだけにそれを出すな』

「……はい……」


 イルーザは先ほどの魔道具のスイッチを動かす。

 すると、角と翼が消えていき、人間の姿になった。

 これは家の中でしか発動できない物ではあるが、これがあるおかげで商売ができ、正体を隠すことができる。


 外に出るときは、外出用の魔道具を使用して翼だけは隠している。

 角は携帯型の魔道具では隠すことがなぜかできないので、大きめの帽子を被っているのだ。

 ずれるが、外れないように魔法だけは掛けている。


 角と翼を仕舞ったイルーザは、また水晶を見つめた。

 まだ、納得していなかったのだ。


「私では、力不足ですか」

『そんなことはない。クティやダロスライナよりも優秀なお前だ。誰がのけ者にしようか』

「では何故……」

『……お前、接触したろ?』

「……はい」


 ダチアは、サレッタナ王国の襲撃はイルーザには極秘で行っていた。

 それは彼女の為を想ってのことであり、側にいるはずの子供たちから目を離させない為の策でもあった。

 イルーザの昔とは違う環境にダチアは少し驚いたが、それを見て今回の襲撃の手助けをしてもらうのを止めたのだ。

 それと、これは後から分かったことではあったが……。


『生まれ変わり。お前はそれと接触しているはずだ。ずっと前から』

「……はい。その通りです」


 これは、今日鳳炎が来てようやく気が付いたことだ。

 鳳炎が言っていた零漸という者も同じ生まれ変わりの筈であり、彼らと行動を共にしている応錬も、生まれ変わりだと気が付いた。


 なぜもっと早く気が付かなかったのか。

 応錬は普通では獲得する事すらできない『清め浄化』を持ち、『大治癒』まで持っていた。

 当時はそれがただ珍しい技能を持っている人物としか分からなかったが、今なら分かる。


 白蛇と呼ばれていた、日輪と同じ技能を持っていた。


「ですが……何故そのことを……」

『アブスとイウボラは情報収集に長けている。俺も天割を見るまでは分からなかったが、あいつらの情報を照らし合わせてみれば、すぐに分かったさ。生まれ変わりの軌跡を辿って君に辿り着いた時は驚いたがな。それに、随分と頼られているじゃないか』

「た、たまたまです。あの子たちは……」

『分かっている』


 魔水晶に映っている目をギョロっと動かした後、また話し始める。


『俺たちは、今彼らの敵となっている。それは仕方がないことだ。だが今の君は違う。まだ、信頼され頼られている。イルーザ、君は彼らの手助けをしてやってくれ』

「……止めろということですか?」

『恐らくそれは無理だろう。我々は呪いにより縛られている。その合間を縫って伝えることは不可能だ。だから頼む、誘導をお願いしたい』

「誘……導……?」


 さすがにこれはピンとこなかった。

 首を傾げるイルーザに、ダチアは簡単に説明をする。


『人間を、間引け』

「……まぁ、それしかないですよね」

『フン、とんだ呪いだ。ここまで遠回しに言わなければならないのだからな。それと、もう一つ頼みがある』

「何でしょうか」

『悪鬼のガラクについて調べてくれないか。連絡が付かんのだ』

「それくらいならお安い御用です。二週間ほどお時間を頂けますか? 人の姿では行動の制限が厳しいので……」

『構わない。では連絡を待っている。……くれぐれも、頼んだぞ』

「はい」


 それを最後に、目は閉じて薄くなっていき、綺麗な水晶がそこには残っているだけとなった。

 イルーザはその水晶をまた丁寧に仕舞い、厳重に鍵を閉める。


「応錬さん、鳳炎さん、それと零漸さん……。あの時に会った黒い人ね。あと一人はまだ分からないけど、いずれは見つかるはず……」


 独り言を最後に呟き、蝋燭の灯っている燭台に息を吹きかけ、静寂を解除した。

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