7.15.頼み事
『ジグル? なんでお前がジグルのこと知ってるんだ?』
あいつは今ユリーとローズのところで修行をしている最中だったはずだ。
もう俺たちと同じランク帯にいるということに心底驚いているわけではあるが……。
どういう経緯があって知ったのかは分からないが、ジグルがどうしたのだろうか?
『匂いよ匂い。私は鼻が利くの。貴方……と言っても応錬なんだけど、貴方から少しだけジグルの匂いがするから知り合いなのかもって思ったのよ』
『まぁ知り合いというか……助けてやったというか……』
俺はジグルにとって恩人という扱いになる。
知っていない方がおかしい。
随分と懐かれてしまったけど、最近はあんまり絡んでいない。
今の状況じゃ絡もうに絡めないけどね!
で、そのジグルがどうしたのだろうか?
『ちょっとお願いがあってね……?』
「お願いであるか? 今人の姿をとれるのは私だけで、そいつは多分魔物の姿の応錬を見たことはない。教えてもいないし教えるつもりもないから、接触は難しいと思うぞ?」
『ええっ……そ、そうなの……?』
はい、そうです、すいません。
絶対に混乱しちゃうからね。
そもそも俺のことを魔物だと知っている人物は少ない方がいいし、それは身近であった者でも同じこと。
あんまり公言するつもりはない。
名の通ってしまっている俺たちが、実は魔物でしたとか公開した日には何が起こるか分かったものではないからな。
だから不必要に教えるつもりはない。
そういうわけだから早く人間に戻りたいんだよなああああ!!
『えっ、何とかならないの!?』
『何とかって言われても、俺が進化しなければ無理だろうな』
『早く進化して! 早く!』
『えーっと……まず理由を聞いていいか? そのお願いってのは何だ?』
人間に戻るということは決定事項であるので問題ないとして、まずはその理由を聞きたい。
どうして俺にお願いごとをするのだろうか?
ジグル関係の話であるということはよく分かっているのだが、何をすればいいの?
『あー、ちょっと話すと長くなるんだけど……』
『おう』
『うちのメリルっていう子。まぁ私の恩人ね。その子がどうにもジグル君のことが気に入ったみたいで……』
『……?』
「……? ん? なんだくっつけろということであるか?」
『その通り!』
俺と鳳炎は目を合わせて呆れた表情をする。
そうなってしまうのも無理はない。
何故かって?
おい忘れたかね。
俺と鳳炎は無性なんだよこんちきしょうが。
そういう関係の話に至っては興味すらないんですよねマジで。
だがジグルが貴族の娘に気に入られるとは、一体何をしでかしたんだ。
というか本当に貴族の娘だよね……?
そう聞いてみたところ、しっかり貴族でした。
なんなら伯爵だそうです。
「それ、難しいのではないか?」
『だから頼んでるのよ』
『? おいどういうことだ? 俺にもわかるように説明してくれ』
「ああ、そうか。応錬は貴族のことに関して無頓着だったな。まぁ簡単な事さ。貴族と冒険者が結婚って、難しいと思わないか?」
『あー……そういうね?』
流石の俺でもそれくらいのことは分かる。
貴族は貴族同士でっていうのがルールなんだろう。
お見合い婚みたいな感じだよな多分。
確かにそう考えると難しいと思う。
ジグルが貴族の爵位を手に入れるとか難しいと思うし、冒険者上がりだって思われて何かしらの嫌がらせを受けるのは目に見えている。
言葉遣いは綺麗なものだが、礼儀作法とかあまりできないだろうし。
というか……元奴隷だし……。
考えれば考える程都合の悪いことが出てくるな。
というかそういう前例ってあるの?
冒険者が貴族と結婚したっていう話。
「私は知らないぞ?」
『流石にそこまで調べてないわ』
『でもやっぱり難しくねーか……? 仲良くなるってくらいまではいけるだろうけど、そのメリルの親は反対するんじゃないか?』
『……十中八九反対するから既成事実が……』
「『おい』」
作れるかどうかも分からないことを言うんじゃない。
でもまぁぶっちゃけそれくらいしかないのか?
というかやけに力入ってるなリゼの奴。
『そりゃそうよ! こういう乙女な話応援しない方がおかしいじゃなーい?』
「『分からん』」
『なんでよっ!』
分かる訳ねぇだろうがっ。
こちとら無性でそういう感情一切合切捨ててるからな。
でもまぁ、なんにせよ……。
『俺が人の姿をとれるようになるまでは難しいな』
『うぐっ……そうなのね……』
「応錬が居れば、仲良くなるまでという関係までは余裕だろう。その先は二人次第だな。幸い、メリルはジグルのことを好いているのだろう? 後はジグルが鈍感でないことを祈るばかりであるな」
『できるだけ早くしたい……! 分かったわ! 応錬のレベル上げを手伝ってあげる!』
『おいおい、いいのか……? 向こうのことは?』
『何とかするわ!』
会話ができないのにどうするっていうのだろうか?
まぁレベル上げを手伝ってくれるというのは非常にありがたい事だ。
これを機に仲良くなっておくというのも手だろう。
とりあえず次に行く依頼は決まっている。
バディッドが異常発生している洞窟に行くことになっているので、鳳炎はお留守番で、俺とアレナだけで行く予定だった。
リゼであれば問題ないだろうが、その前に技能を確認しておきたい。
『お前は洞窟で戦えるか?』
「私は洞窟では戦えない。炎技能が殆どだからな」
『ああ、それなら心配ないわよ。私は雷と氷の技能が豊富だからそれで戦うわ』
雷技能お前が持っていったんかい!!
そりゃ進化で出ないわけですよ……トホホ……。
とりあえず予定は決まった。
集合場所はギルドという事にしておいて、今日の会議を終わらせたのであった。
 




