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6.22.接近


 もう目ではあの三人の姿は見えない。

 だが何処からか近づいてきているはずだ。

 それが分かっているから、攻撃の手は緩めない。

 時間を稼ぎ続け、相手が弱るのをただただ待つ。


 制限時間は三十分。

 残り十分といった所だろうか。


 遠くから爆音が聞こえているのが気がかりではあるが、あの三人は吹き飛ばして以降一度も顔を出していない。

 既に潰されてしまったか、それともまだ生き永らえてはいるが、何処かで隠れているか。

 そのどちらかだろう。


 だがそれもあと十分で終わる。

 随分と長い戦いに見えたが、ガラクにとってはとてつもなく短い時間だった。

 長く生きていると、時間の感覚が短くなる。

 それは本当だ。


 だが、悪鬼になったが故に寿命が短くなっている。

 そのせいもあり、時間の流れがより一層早く感じるようになっていた。

 不思議な感覚だ。


 そこで、空を殴って広範囲に突風を巻き起こす。

 地面が抉れてめくれ上がり、土煙が巻き上がる。

 これを既に百回以上は繰り返していた。


 もう既に体の機能が低下しているはずだ。

 このまま何もしなくても、勝手に野垂れ死んでくれる。

 それ程にまで、この常世は人間にとって有害な場所なのだ。


「…………」


 詰まらなかった。

 そう言いたげな表情をして、また空を殴る。

 そして足を踏み込んで地響きを轟かせ、地面を割っていく。


 張り合いもない、ただの人間。

 どうして鬼の為に人間が出張ってきているのか、そもそも理解できなかった。


「テンマ……。私、は人間が嫌い、だ」


 今度は三発空を殴る。

 岩が持ち上がり、砕け、吹き飛んでいく。


 ガラクが鬼になったのは五十年前の事だ。

 元より旅をしていたガラクは、様々な人間を見て来た。


 確かに人の良い人間もいた。

 亜人である鬼に優しくしてくれる店主、はたまた飲みに連れて行ってくれる冒険者。

 更に買い物をした時、話し込んで旅の話をして、礼だと言って金額以上の食料を提供してくれる旅商人。

 誰もが素晴らしい人であった。


 だが、真逆の人間もいる。

 それは重々承知していた。

 彼らも好き好んでそんな性格になったわけではないだろうし、仕方が無しにしている人物も見たことがある。


 子供がそうだ。

 鬼の里では誰もが必ず職に就き、衣食住を整えて生活することができている。

 だが人間の国ではそうでない子供も多かった。

 大人もそうだ。

 スラム街などと蔑まれている町がある程だ。


 それを作ったのは誰だ。

 そこにそんな人間を押しやってしまったのは何処の誰なんだ。

 そして、笑顔で自分に優しくしてくれた人間たちは、何故その人物たちには手を差し向けて上げれなかったのか。


 分からない。

 何故だ。

 旅をしていてこの方、その答えに辿り着いたことが無い。


 考えに考え、考え抜いた末に見つけた答えは……。

 泣くという事。

 同情だった。

 答えにもなりはしないが、泣かずにはいられなかった。

 同じ同族であるのに、なぜ殺し合うのか、なぜ差別するのか……。

 何故……。


 空を殴る拳に力が入る。

 ヒスイを連れて来た理由はこれとは全く別の事だった。

 だが、人間には酷い憤りを覚えていたのだ。

 だから手加減は出来ない。

 全力で殺しに行く。


「お前いい加減にしろよこの野郎……」

「ぬ!!?」


 後ろから白髪の男の声が聞こえた。

 ばっと振り返って殴りかかろうとしたが、既に男の拳が自分の背中に触れていた。


「『波拳』」

「ガフッ!!?」


 硬い皮膚を突き破り、内臓をかき回す程の衝撃が胸部に伝わった。

 一瞬心臓が止まり、肺の中の空気が全て吐き出される。


 止まった心臓を無理やり動かす為、ドンと力を入れて胸部を殴る。

 少し力を入れ過ぎてしまった。

 血圧が上昇し、めまいがする。


 だがそんなことで隙を見えてしまえば、またあの攻撃が来る。

 あんな攻撃は受けたことが無い。

 正真正銘、危険な技能だ。


 すぐに体勢を立て直して、今度こそ攻撃を入れる。

 回避は間に合わなかったようで、腹部に拳をめり込ませてそのまま殴り飛ばした。

 何かが割れる音と土くれの様な物が飛散したが、おそらく何か防御系技能を使っていたのだろう。


 遠くの方で土煙が上がる。

 おそらく今の一撃で倒すことが出来ただろう。

 しかし、自分に入ったダメージは恐ろしく大きい物だった。

 口から血が止めどなく零れ出る。


「ガッハ……ゴフ……。た、体力が、七割持っていかれた……。あの軽さで……何と、いう……」


 油断していた。

 まさかあの攻撃の嵐を掻い潜って後ろに回っているなど思わなかったのだ。

 それに、あの気配の消し方。

 ただ者ではない。


 暫く休息が必要だった。

 これ以上攻撃を放ち続ければ、内臓のダメージが蓄積されてしまう。


 だが、休息は満足に取れそうには無かった。


「いってぇなぁ……」

「ぐ!?」


 先程吹き飛ばした男が、平然と歩いてきたのだ。

 服はボロボロで血が所々付着してはいるが、まだまだ戦えそうだった。

 なぜ今ので生きているのかが理解できない。


 表情から言いたい事を理解したのか、男は説明し始めた。


「土地精霊で地面の中何とか潜ってきて、暗殺者で気配消して奇襲かけたんだよ。お前の攻撃は泥鎧と空圧結界でなんとか防げた。でもダメージは酷かったので回復はさせてもらったけどな」


 だとしてもその回復力はおかしい。


「私、の攻撃力は7000……。何故……」

「マジかよ……。よく胴体千切れなかったな俺……」


 本当はガラクの体は波拳で滅茶苦茶にされていた。

 男を殴った時の攻撃力は、本来の力の十分の一も引きだせていなかったのだ。

 だからこそ、彼は生き残っていた。

 万全の状態であれば、肉片も残らなかっただろう。


 だが、満身創痍のガラクがその考えに至ることは無い。

 この重傷でどうしてくれようかと思案している最中だ。


 だが、もうじき時間が来る。

 その時が最後だ。


「あ、因みに俺、耐性に『呪い』『汚染』『感染』『病魔』『腐敗』『不浄』があるから、多分俺は無限にここで活動できるぞ。まぁ多分この感じは不浄かなぁ? 呪いか? もし呪いだったら、俺たち全員無限に活動できるな!」


 あり得ないと思ったが、何故かその言葉には力強さがあった。

 なにせ本当の事なのだ。

 隠す必要もない。


 そこでガラクは、負けを覚悟した。


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