4.12.ジグルの苦労
「ジグル、お前何してんだよ」
その中のリーダーらしき少年は随分と威圧的な声で話しかけてきた。
ジグルのことを知っているという事は、この子達はおそらくジグルが前にパーティーを組んでいた仲間なのだろう。
しかし……少年二人に少女が二人。
低ランクパーティーをしては少し多いような気もする。
少年少女達は、ジグルに対してあまり良い印象を抱いていないのか、なんとも不機嫌そうな表情をしてこちらを見ていた。
「ジグル、予想はつくが、とりあえずこの子達は誰だ?」
「前のパーティーメンバーだよ」
やはり前に一緒に居たパーティーメンバーのようだ。
しかし……このジグルに対する言い方といい目線といい、ここまで露骨にされるとジグルのほうが悪かったのではないだろうかと思えてくる。
実際にはそんなことは無いのだろうが、相手方の意見も聞いてやるのがいいかもしれない。
とは言っても……とても話し合える雰囲気ではなさそうなのが欠点なのだが。
「で、何か用なの?」
「お前さっきその人に剣買ってもらってただろ」
「そうだけど……?」
「今度は大人に頼るのか! だからお前は役立たずなんだ!」
んー? よくわからない。
え、びっくりするくらいに何言ってるかわからない。
いやまぁ子供だから言葉足らずになってしまうかもしれないけど、それでもこの子は教養が足りていないと思う。
言いたいことはいっぱいあるけど、まとまり切らなかったということにしておこうか……。
「ジグル、この子は馬鹿なのか?」
「……うん」
「ああ!?」
初対面である俺でもこの子に教養が足りていないということはわかったのだが、ジグルも同じように思っているのか確認してみたかったので思わず聞いてしまった。
結果は案の定ではあるのだが……ジグルもあまり迷わずに頷いたのには少し笑ってしまった。
しかし、この子達は一体何を怒っているのだろうか。
ジグルをパーティーから抜けさせたのは相手方のようだし、ジグルの話を聞いている限りでは、ジグルがあまり悪いようには思えない。
先ほど口走った大人に頼る、という意味もあまりよくわからないのだが……何とかして話を聞けないだろうか?
俺がそうこう考えていると、先に相手方が口を開いた。
「今度はその人を困らせるつもりなの? 強い人に守ってもらえればいいなんて考えは冒険者として恥ずかしい事よ」
「実際俺達がどれだけお前に振り回されたのかわかってんのか?」
「白髪のお兄さん、ジグルを連れていくのはお勧めしないよ」
この子達が言いたいことはなんとなくはわかった。
別に俺はジグルを守ろうとはまだ考えていなかったわけだが……まぁ確かに弱い冒険者が強い冒険者に守られてばかりでは前に進めないということはわかる。
まぁそれはこの子達にも言えることなのではあるが。
しかしジグルに対する事に対して随分と酷い物言いだ。
パーティーの中では低評価を押し付けられ続けていたに違いない。
この子達はそんなジグルがパーティーを抜けて、俺と一緒に居たことが不満だったため、こうして文句を言いに来たのかもしれない。
ふむ、最悪のタイミングで俺がジグルに剣を購入しているところを見られてしまったという事か。
うん! 面倒くさい!
なんでこんな面倒くさい相手をしなきゃならんのだ!
俺はさっさとユリーに話をつけに行きたいのだが!
てかジグルとはもう関わりないんなら別にいいじゃん! ほっときゃいいじゃん!
わざわざ忠告してきてくれるとかいい奴かよ!
でも逆に気になることはある。
この四人にそこまで言わせるのだから、なにかジグルに悪いことがあったのかもしれない。
今の流れならなんとなく聞けそうなので、とりあえず聞いてみることにする。
「えーと……お前らが言うジグルの悪い所ってなんだ? 俺はまだ一緒に依頼とか受けたことないからわからんのでな。良ければ教えてくれ」
ジグルからめちゃくちゃ嫌そうな目で見られたが、悪い所があるのであれば治していかなければならない。
間近にいたのであれば、それなりに悪い所も把握しているはずだ。
良い所は言ってくれそうにないのが少し残念ではあるが。
「いくらでもあるぜ! こうして大人に頼ろうっていうのがまず気に食わねぇ!」
どうしたって頼らなければいけないこともあると思うので、これは無視。
大人に頼らないと武器なんて持てすらしないぞ?
「依頼をこなしている時に、いっつも最後尾を歩いてる。役職は剣士なのに前に出ていないのはおかしい」
確かにジグルの役職は剣士だ。
前に出るのは当然と思えるかもしれないが……この子達のパーティー構成はジグルが参加していたとして剣士が三人、魔術師が二人、といったバランスがそれなりに取れたパーティーである。
そのうちの一人は中くらいの盾を持っているタンクと呼ばれる役職にある。
子供なのに無理しなくていいとは思うが、まぁ好きでやっていることだと思うので咎めはしない。
接近戦の剣士が二人、盾役が一人、遠距離の魔導士が二人となれば……確かに一人くらい後衛にいても問題が無いように思える。
盾が居て、猪突猛進っぽい剣士が一人いれば前線は保持できる。
魔導士は接近戦に非常に弱いだろうし、ジグルが後衛にいるという事はあながち間違ってはいないのではないだろうか?
「それに魔物が出てきても前には出なかった。戦うのはいっつも後ろから来た魔物ばかり」
いやいやいやいや、きっちり仕事してるじゃん。
そこの女魔術師二人、君達守られてるよ? しっかり守られてるよ?
後衛にいるという事は後ろからの奇襲や、前線では死角となる場所の奇襲の通知など重要な役目がてんこ盛りである。
そのためには鋭い観察眼が必要となるのだが、ジグルはそれを頑張ってやっていたようだ。
「それに、途中草を弄ってる」
薬草を採取しているだけでは?
「あと依頼の報酬とか全部持っていく! 私達が稼いだものなのに!」
「それは全部返したでしょ──」
「ジグルお前金銭管理もしてたのか!? すげえな!」
この子達は悪いように言っていたようだが、それを読み取っていけばジグルがどれだけしっかりしていたかという事がよくわかる。
このパーティーを支えていたのは紛れもなくジグルだ。
経験不足からジグルがどれだけ重要な立ち位置に立っていたかというのは、この子達にはわからなかったかもしれない。
とりあえずわしゃわしゃとジグルの頭を撫でまわしてやることにする。
ジグルは勿論、何故ジグルが褒められているのかこの子達もわからなかったようで、ぽかんとして呆けていた。
「え? え?」
「これなら安心してユリーに任せられるぜ。っしゃ、行くぞ~」
もう話をする必要もないので、後ろで何やら騒いでいる子供達を無視してギルドに向かった。
別にもう依頼をこなしてジグルの行動を見直す必要はなくなったのだが……まぁ俺も暫く暇なので、ジグルの依頼を手伝ってやることにしよう。




